SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(128L)
RE:566
朝。
ここ東京の下町、我らがタナカ鉄工所にもすがすがしい朝がやって来る…
タナカ家の朝。
年代物の柱時計の針が午前4時59分を指している。
まだ薄暗い部屋の中。
ぐっすりと眠っているショウイチとユキコ。
リエの部屋。
すうすうと軽い寝息を立てているリエ。
ケンタの部屋。
すっかり布団を剥いでしまっているケンタ。
そのケンタの腹の上
にニャンコが丸くなって眠っている。
ゲンザブロウの部屋。
しかし、その布団は空である。
柱時計の針が午前4時59分56秒を指す。
午前5時の時報がカブる。57秒…
58秒…59秒…午前5時。
突然、大音響と共に工場からキノコ雲が噴き上がる!
ガバリと起き上がるユキコ。
続けて起き上がるショウイチに、タンスの上から箱が落ちてくる。
それがショウイチの頭に当る!そのままひっくり返るショウイチ。
ユキコ
「何!?…一体何なの??…あ(気絶しているショウイチを見る)…ドジねえ…あなた、あなた(ショウイチをゆさぶる)…大丈夫?あなた。」
気が付くショウイチ。おでこに大きなタンコブが出来ている。
ようやく起き上がるショウイチ。
ショウイチ
「…イテッ!(おでこを触る)イッテ〜ッ!…一体何だ?ガス爆発か?」
ユキコ
「工場の方からよ。(ハッとする)………マサカ!!」
顔を見合わせるユキコとショウイチ。一斉に工場に駆け出す。
工場。
もうもうたる煙が辺りにたちこめている。
あわててやってくるショウイチとユキコ。
と、煙の中からゲンザブロウが咳き込みながら姿を現す。
身体中ススだらけ。
ゲンザブロウ
「ゴホゴホゴホ……(2人を見る)いよお、おはようユキコさん、ショウイチ。」
ユキコ
「一体どうしたんですか、お父さん?」
ショウイチ
「びっくりするじゃないですか。一体今何時だと思ってるんです?…おかげさまで、こんなコブまで作っちまいましたよ。」
おでこのタンコブをさするショウイチ。
ゲンザブロウ
「いやあ済まん済まん。アース・ムーバーのメイン・エンジンの出力調整に失敗してな、一気に最大出力まで反応してしまいおった。危なくもうちょっとでどっかへ飛んでいっちまうところじゃった。」
眠そうな顔をしてリエとケンタがやって来る。
リエ
「…一体どうしたの?…(ススだらけのゲンザブロウを見る)あ〜っ!またお爺ちゃんね。」
ゲンザブロウ
「ありゃ、お前達まで起こしてしまったかの?」
ケンタ
「オレ達だけじゃなくて街中起きたと思うけど…」
ゲンザブロウ
「いや、ワシとした事が…全くもって面目ない…じゃが、もう大丈夫じゃ。」
どうやら全然反省している様には見えないゲンザブロウ。
ユキコ
「じゃあ、アース・ムーバーの方は使えるようになったんですね、お父さん!」
ゲンザブロウ
「そうじゃよ。もう完璧じゃ。この大型輸送機アース・ムーバーさえあれば、万能陸上装甲車、ランド・チャレンジャーも出動できるぞ。何せ、調子に乗ってデカく作りすぎてしまったからの。この辺りの細い道は走れんのじゃ。ハッハッハ!」
白々とした眼差しでゲンザブロウを見る一同。煙に霞んで大型の機体が見える…
こうしてタナカ鉄工所のすがすがしい一日が始まった、ある良く晴れた日の事である…。
?
ローカルテレビ局、ミヤコ・テレビ応接室。
プロデューサーを前にした白髪の老紳士と小太りの執事。
なぜかドクター・ジャンクとその執事ギャリソン・タバタである。
応接セットの机の上には、新番組の企画書らしきものが置かれている。
それを手に取るプロデューサー。
表紙のタイトルを見る。
プロデューサー
「…無敵超人ドクター・ジャンク…一体何ですか、コレ?」
ジャンク
「このテレビ局でこの春スタートする大型ヒーロー特撮番組だよ、プロデューサー君。」
パラパラと企画書をめくるプロデューサー。
プロデューサー
「…ブルトラ警備隊の万能カー、ボインターの運転手、クラーク・ジャンクは地球に危機が迫ると愛と真実の人、無敵超人ドクター・ジャンクに変身、襲いかかる怪獣や宇宙人をやっつける……しかしねえ、残念ながらウチの局のこの春の番組編成はもう全部決ってるんですよ。それに特撮モノは製作費がかかりますからねえ。スポンサーが付いてくれるかどうか…残念ですが、この話はなかった事に…」
そのプロデューサーの言葉にニヤリとするジャンク。
ジャンク
「…製作費なら問題ない。番組は私が製作する。スポンサーもこの私だ。それに…通常の時間枠料金の倍額を出そうじゃないか。…もちろん放送はゴールデン・タイムで頼むよ。」
タバタに目配せするジャンク、タバタが持ってきたトランクのフタを開く。
中にはぎっしりと札束が!ジャンク達の後ろには山と積まれたトランクがある。
それに目を丸くするプロデューサー。
プロデューサー
「…しかし、既に番組は決っていますし、製作に入っています。今更変更する事は…」
ジャンク
「ならば3倍出そう。製作中の番組は中止すれば済む事じゃないかね?これだけの金額ならば、製作中止の後始末をしたとしても、充分お釣りのくる額だと思うがね?」
プロデューサー
「こ、これは……ちょっとお待ち下さい。今、編成局長と相談しますので…」
あたふたと応接室を出て行くプロデューサー。
それを見てニヤリとするジャンクとタバタ。
ジャンク
「成功だな…」
タバタ
「あのお方、我々の提示した金額に、大分お心を動かされた様でございますね。」
ジャンク
「いよいよ次なる作戦のスタートだ…」
ナレーター
「不気味な動きを始めたドクター・ジャンク。一体ジャンクは何を企んでいるのだろうか?…」
〜 つづく 〜
~ 初出:1994.04.14 Nifty Serve 特撮フォーラム ~