SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(178L)
RE:743
ランド・チャレンジャー機内の通路。
人が二人やっと通れる程の、潜水艦の艦内の様な狭い通路である。

その通路を進むと、突き当りに頑丈な鉄製の扉がある。操縦席の扉である。
その扉に何か貼紙がされている。

『研究中立入厳禁!食事差し入れの際は三度ノックされたし』

ナレーション
「ドクター・ジャンクが放った謎の超音波。その超音波の謎を解くべく、ゲンザブロウの必死の分析作業が、夜を徹して続けられていた…」

操縦席内部。
センサーシステムのモニターの前で、ゲンザブロウが大イビキをかいて眠り込んでいる…

ナレーション
「…これで良いのかSFXボイジャー!?」

翌日。ミヤコ・テレビ応接室。
ミヤコ・テレビ編成局長とドクター・ジャンク、ギャリソン・タバタ。
満面の笑みを浮かべ、ジャンクに握手を求める編成局長。

編成局長
「いや〜素晴らしい!ミスター・ジャンク、貴方の番組は、我がミヤコ・テレビ始まって以来の視聴率を叩き出しましたぞ!…これを御覧下さい。」

手元にあるリモコンのスイッチを入れる局長。壁面にかけてあった油絵がスッと消え、映像が出る。時間視聴率推移のグラフ。

ジャンク
「ほお、リアリスティック・ホログラフィーですな?」

その言葉にうなずき、自慢気な表情を浮かべる局長。

編成局長
「…このグラフは我が局の、時間別視聴率推移を示したものですが、御覧下さい、貴方の番組が始まってから、視聴率は上昇の一途をたどっています。通常、どんな人気番組でも、時間推移で見ると視聴率には若干の上下があります。ところが、貴方の番組は全く視聴率が落ちていない。これは奇跡に近い事です。」

視聴率グラフ。
ジャンクの番組が始まる前は低いレベルで変動していた視聴率が、番組が始まると急速なカーブを描いて上昇している。しかも、全く下降していない。

しかし、番組が終了すると視聴率は急激に下降し、上下に小刻みな変動を示している。

編成局長
「…それに番組の放送開始と共に、視聴者御意見窓口には賛同の意見が殺到しております。例えば…」

手元にある資料の束を繰る編成局長。

編成局長
「…11歳、男、小学生、『ドクター・ジャンクカッコイイ!毎日観たい! 』…22歳、OL、『ジャンク様素敵!ぜひ毎日放送してっ!』…62歳、男、会社役員、『感動した!ぜひ毎日放送をお願いしたい!』…19歳、男、特撮ファン『エイジ・ブブラヤを彷彿とさせる特撮の冴えに、65mmで撮影されたと思われる華麗な合成カット!ぜひあの感動を毎日味わいたい!閑話休題…』…41歳、主婦、『子供と一緒に夢中になって観ました!ぜひ毎日放送して下さい!』…いかがです?この反響の数々。ありとあらゆる年齢層の視聴者が、一様に好感を持ってくれている…」

興奮気味に、一気にまくし立てる編成局長。
その局長の姿を冷静な視線で見ているドクター・ジャンク。
おもむろに口を開く。

ジャンク
「…で?編成局長、私に何かご用件があるのでしょう?」

図星を指されて一瞬、狼狽の表情が局長の顔をよぎる。
しかしすぐに平静を取り戻す編成局長。

編成局長
「…ミスター・ジャンク、貴方は確か先日の打ち合せの時に、あの番組は既に全話製作が完了していると、おっしゃっておられましたが…

ジャンク
「いかにも。既に全話の製作が完了しているが。」

編成局長
「…ぜひあの番組を毎日放送できないでしょうか?もちろんゴールデンタイムです。…実はこちらもスポンサーに打診をしてみたのですが、今の視聴率情報を基に説明しましたら、各スポンサーとも大変に乗り気でして、何とか連日午後7時からの枠が確保できそうなのです。」

その局長の言葉にニヤリと笑うジャンク。

ジャンク
「こちらは一向にかまいませんよ、編成局長。すぐに全話のテレシネ・MOを搬入させましょう。」

編成局長
「ありがとうございます。」

握手する編成局長とジャンク。

街。書店の店頭。
ありとあらゆる週刊誌の表紙に登場しているのは、『無敵超人ドクター・ジャンク』の雄姿である。飛ぶように売れる週刊誌。

ナレーション
「ドクター・ジャンクの番組、『無敵超人ドクター・ジャンク』が毎日放送されるや、その人気は爆発的なものになった。人々は口々にジャンクを讃え、番組を特集した雑誌は総て完売の状況が続く…遂に、番組の視聴率は80%に達しようとしていた…」

タナカ鉄工所。
工場の中、3機のメカニックが並んでいる。

その1台、ランド・チャレンジャーの操縦席に集まっているタナカ家の一同。
神妙な面持である。

ゲンザブロウ
「超音波の解析ができた…あの超音波には、どうやら或種の催眠効果がある様じゃ。」

ショウイチ
「催眠効果?」

ゲンザブロウ
「(うなずく)…つまり、特撮を讃え、特撮界の支配者として、ドクター・ジャンクを讃える様に、人々を集団催眠にかけている訳じゃ。」

ケンタ
「…でも、特撮を好きになるんなら、別にいいんじゃないの?オレ、特撮好きだぜ!『ブルトラマン20』とか面白いし…」

呆れた様にケンタを見るリエ。

リエ
「そういうコトじゃなくて……無理矢理みんなにそう思わせているトコが問題なのよ。」

考え込むケンタ。

ケンタ
「う〜ん。…確かに、無理矢理ってのはヒドイよなあ……(再び考え)…あ、そっか。それに、その超音波に当ると、ドクター・ジャンクのファンになるんでしょ?…それはヤダなあ、オレ。」

ユキコ
「(ケンタの言葉に苦笑いしながら)…でも、超音波の仕組は解ったとして、これから私達どうしましょうか、お父さん?」

その問いかけに、待ってましたとばかりに、自信満々の態度で応えるゲンザブロウ。
リモコンらしき物を持ち出す。窓の外を指さす。

ゲンザブロウ
「ちゃんと方法は考えてある。…アレを見てごらん。」

リモコンのスイッチを入れるゲンザブロウ。
と、工場の片隅に置かれたコンテナの壁面が周囲にバッタリと倒れる。

その中から姿を現す4つの装置。
直径1メートル程の球形の本体に、ゴチャゴチャと何かの装置が付いている。
驚く一同。

ケンタ
「すっげ〜っ!!…でもナニ?あれ」

ゲンザブロウ
「(得意気に)どうじゃ?驚いたじゃろ、ケンタ。…あの装置はワシが分析の結果に基づいて、夜はちゃんと寝て昼間開発した『Intelligent Musswave-transmit Object』通称I.M.O.じゃ!」

リエ
「I.M.O.…イモ…。なんかネーミングに決定的なミスが…」

そのリエの言葉に、閃光の如く反応するゲンザブロウ。

ゲンザブロウ
「何じゃと!?」

余りの素早さにアセるリエ。

リエ
「エッ!?…何でもないのよ、何でも…」

ケンタ
「…で、どんな働きをするの?」

ゲンザブロウ
「おお、良く聞いてくれた!さすがはケンタじゃ。(リエを見て)どっかのネエちゃんとは目のつけ処が違うのお。」

思わずムッとするリエ。

ゲンザブロウ
「あの装置はテレビ放送の電波を中継し、その中から特定の部分を取り出して反作用波を合成、それを放出するという能力を有しておる。…つまり電波のうちに、あの超音波の基になっておる部分を、打ち消してしまおうという寸法じゃ。」

ショウイチ
「なる程、あの装置があれば、テレビ放送に影響を与える事なく超音波の発信を阻止する事ができる!」

ゲンザブロウ
「…そういう訳じゃ。よし、早速I.M.O.をトラックに積み込みなさい。ミヤコ・テレビはローカル局だから、電波は総てトーキョー・タワーから発信されておる筈じゃ。よし、トーキョー・タワーにI.M.O.を取り付けるんじゃ!…(リエとケンタを見る)…お前達はラピッド・スターで来ておくれ。取り付けはお前達にやって貰うぞ。」

リエ/ケンタ
「了解!」

一斉にランド・チャレンジャーの操縦席を出て行く一同。

ナレーション
「遂に立ち上がった我らのSFXボイジャー!果して彼等は、ドクター・ジャンクの野望を阻止できるか!?頑張れ、我らのSFXボイジャー!!」


〜 つづく 〜



~ 初出:1994.04.23 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018