SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(145L)
RE:769
日曜日、午後6時。
夜の日比谷公園。辺りはすっかり夜のとばりに包まれ始めている…

昼間の喧噪が嘘の様に静まり返った公園。
広場の大噴水が、虚しく水を吹き上げている…

その公園の古風な門の前に、今日も1台のバンが停まっている。
その屋根から長く伸びるアンテナ。

車内。
ギャリソン・タバタが、複雑な超高感度超音波センサーの調整をしている。

タバタ
「旦那様、超音波センサーの調整、完了致しました…」

奥の安楽椅子に腰掛け、寛いでいたドクター・ジャンク、その言葉に立上り、センサー・システムのコンソールにやって来る。

ジャンク
「…さて、どう出てくるか、ゲンザブロウ奴。(タバタを見る)…催眠効果の設定に抜かりはないな?」

タバタ
「はい。仰せの通り、回数を経るごとに催眠レベルを上げる様、設定してございます。後数回の放送で、あの番組を御覧になった方々は、旦那様の熱狂的な支持者になられる筈でございます…」

ジャンク
「…フッフッフ、我ながら自分の才能が恐ろしい…」

満足気な表情を浮かべるジャンク。

同じ頃、タナカ鉄工所。
鉄工所のトラックに、ジャッキーがI.M.O.を積み込んでいる。I.M.O.を積み込むと荷台に乗ったゲンザブロウとユキコが、ロープでI.M.O.を荷台に固定する…

積み込みが終る。ジャッキーを降りたショウイチがトラックの運転席に、ゲンザブロウが助手席に乗り込む。

運転席の下に来るユキコ、リエ、ケンタ。助手席からゲンザブロウが顔を出す。

ゲンザブロウ
「ユキコさん、じゃあ行って来ますよ。…ひょっとすると応援が要るかも知れん、アース・ムーバーの発進準備だけはしておく様にな。」

ユキコ
「分かりました。」

リエとケンタを見るゲンザブロウ。

ゲンザブロウ
「お前達はワシ等が出発したら、ラピッド・スターで後を追っておくれ。トーキョー・タワーそばのグラウンドで落ち合おう。」

リエ
「分かったわ。(ケンタを見る)…行くわよ!」

ケンタ
「うん!」

ラピッド・スターに駆け出す二人。
それを見送るゲンザブロウ、運転席のショウイチに声をかける。

ゲンザブロウ
「よし、出発じゃ。」

ショウイチ
「ハイ!」

工場を出て行く、大型の幌付きトラック。
一方、リエとケンタはラピッド・スターのコクピットに乗り込む。
勿論、ケンタの膝の上には、ニャンコがチョコンと座っている。

運河。
辺りはすっかり暗くなっている。工場裏から伸びたレールに乗って、ラピッド・スターが標識灯を点滅させながら運河に着水する。

コクピットのリエ、操縦系統のチェックをする。

リエ
「システムチェック…ステータス、オールグリーン。ドライビング・ユニット、出力、80、90、100……出力、マキシマム。」

モニターに映るユキコ。

ユキコ
「リエ、運河上進路確認。障害物なし。発進できるわ。」

リエ
「了解。…(操縦席脇のスイッチを入れる)ドライブ、コネクト!…ラピッド・スター、発進!!」

運河上、ラピッド・スターがエンジンを全力噴射する!
ジェットの炎に輝く水柱が噴き上がる!

運河の上を、滑べる様に離陸するラピッド・スター。

道路を一路、トーキョー・タワーへ向うタナカ鉄工所のトラック。

運転席、コミュニケーターが鳴る。
ゲンザブロウ、スイッチを入れる。モニターにリエが映る。

リエ
「お爺ちゃん、こっちは今発進したわ。」

ゲンザブロウ
「了解じゃ。お前達は一足先に、合流地点のグラウンドに向かうんじゃ。グラウンドの入口を開けておいておくれ。」

上空。街の上を行くラピッド・スター。コクピットのリエ。

リエ
「分かったわ。」

トラックの運転席。
通信しているゲンザブロウ。

ゲンザブロウ
「それから、着陸する時は標識灯を全部消す事。ドライブはサイレンス・モードにするんじゃ。余り目立たぬ様にな。」

コクピット。

リエ
「分かってるって。私達にマカセておいてよ。(コミュニケーターを切る)…ケンタ、見えてきたわよ。」

夜の東京上空を飛行するラピッド・スター。
その前方に巨大なトーキョー・タワーがそびえている。
夜間照明に浮び上がるトーキョー・タワー。

ナレーション
「トーキョー・タワー。西暦2020年の未来、東京タワーは周囲の建物の高層化に伴い、高さ500m、かつての1.5倍の高度を誇る新しい塔に建て替えられていた…」

上空を飛行するラピッド・スター。
コクピットのリエ、トーキョー・タワー付近に合流地点のグラウンドを見つける。

リエ
「あれね…ケンタ、着陸するわよ。…ニャンコは大丈夫?」

ケンタ、膝の上のニャンコの咽を撫でてやる。うれしそうに目を細めるニャンコ。

ケンタ
「うん、大丈夫。御機嫌だよ。」

リエ
「OK…(計器を見る)ドライビングモード、サイレンス。標識灯消灯。」

操縦席左側のモードチェンジ・レバーを引き、コンソールの幾つかのスイッチを切る。ラピッド・スターの速力がガックリと落ち、それと同時にジェット音が殆
ど無音になる。標識灯も消える。

グラウンド。
公園の時計塔が午後6時15分を示している。

と、そのすぐ上を、かすめる様に降下して来るラピッド・スター。
殆ど無音である。地上すれすれ迄降下する。

グラウンドへの入口、鍵のかかった鉄扉の前に来る。
ホバリングする。

リエ
「あれね。…ケンタ、頼んだわよ。」

ケンタ
「まかせろ!」

操縦席のコンソール、スイッチを入れるケンタ。
キャノピー・ガラスに照準スコープが浮び上がり、発射ボタンの付いたコントロール・レバーが出る。

レバーを握り、照準を合わせるケンタ。

ケンタ
「発射!!」

ラピッド・スターの機首。
一瞬、レーザービームが発射され、鉄扉の鍵を切断する。
その勢いでグラウンドの鉄扉が開く。

リエ
「うまいわケンタ!…さ、着陸しましょう。」

少し上昇。フェンスを飛び越え、垂直降下。

グラウンドに着陸するラピッド・スター。
土煙が立つ。

コクピットのリエ、夜間照明に浮び上がるトーキョー・タワーを見上げる。

リエ
「いよいよね……」


〜 つづく 〜



~ 初出:1994.04.24 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

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