SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(254L)
RE:134
商店街。
遠くから時折サイレンの音が風に乗って聴こえて来る…

何処か慌ただしい雰囲気が街を包んでいる。
空には警視庁と消防署、それに何やらテレビ局のジェットヘリが飛んでいる様子。
と、けたたましいサイレンの音が商店街に響く!

商店街の通り。
轟音をあげ、サイレンを響かせながら、何台もの消防車が通り抜ける。
消防車の巻き起こす風が、商店街の街頭装飾を空しく踊らせてゆく…
中の消防隊員がスピーカーで何事か怒鳴っている。
猛スピードで次々に走り去って行く消防車…

それを人々が何事かと不安気な表情で見送っている…
通りに歩み寄り、消防車の行く手を見送る人々…

自転車に乗ったトシヒコが来る。
街のただならぬ気配に、自転車を止め、周囲を見渡す。

と、傍らのシラハタ電気店のショーウインドー、最新型のホログラフィック・テレビにジェットヘリの映像が映し出されている。

その映像に、トシヒコの目が吸い寄せられる…

ショーウインドー。
テレビに映し出される映像。

画面の右上に『Live』のディスプレイが表示されており、現場からの中継映像の様である。
今や失速寸前の超大型ジェットヘリが映し出されている。

釣り下げた橋桁が大きく揺れる。
その橋桁を支えているラピッド・スターの機体!

その映像にハッとするトシヒコ!

トシヒコ
「…タナカ!」

上空。
『Metropolitan Communications』
と機体にロゴをペインティングした青い小型ジェットヘリが、超大型ジェットヘリから少し距離を置いて飛行している。

機体下部。
ボール状のフードに内蔵されたデジタルビデオカメラが、ゆっくりとパンしながらジェットヘリとラピッド・スターを捉えている…

機内。
狭い機内では前部シートにパイロットと並んで、カメラマンが小型モニターを見ながら、機外カメラのリモコンを操作している。
後部座席には中継ディレクターとショージリポーターが座っている。

後部シートの天井に取り付けられたライトに灯がともり、その横に設置された小型機内カメラが、ショージリポーターの姿を映し出す。

キューを出すディレクター。

ショージ
「(軽くうなずき)…みなさん、御覧頂けますでしょうか?トーキョー上空で、突如発生したジェットヘリの事故!…建設中のトーキョー湾横断橋の橋桁を運搬しておりました、超大型ジェットヘリに故障が発生、ヘリは迷走を続けまして、現在渋谷上空に差し掛かっております!そして、これを救助するために、何とあの謎の防衛隊の飛行機が出動しております!…(外を指さし)…御覧下さいッ!現在渋谷上空で決死の救助劇が繰り広げられておりますッ!…しかし、同時に謎の怪ロボットも出現、先程からジェットヘリと防衛隊の飛行機を頻りに威嚇しておりますッ!危うし謎の防衛隊ッ!この模様は現場からショージがお伝え致しておりますッ!」

ショーウインドー。
食い入るようにテレビの映像を見つめているトシヒコ。

テレビ映像。
橋桁を支えているラピッド・スター。
その破損した右腕からは時折火花が噴き上がっている。

デイダロスが威嚇する様に、そのすぐ脇を凄まじいスピードですり抜けて行く!
と、大きく煽られる様にジェットヘリが体勢を崩し、橋桁がラピッド・スターの機体にのしかかって行く!

ラピッド・スターの機体から火花が噴き上がる!
がっくりと高度が下がる!

ショージの声
「アーッ!危ないッ!!これはいけませんッ!さしもの防衛隊もなす術がありませんッ!!」

映像を食い入る様に見つめるトシヒコ…

ショージの声
「機体から火花が噴き上がっております!このままでは防衛隊の飛行機も橋桁もろとも地上に墜落する危険がありますッ!」

映像。
また橋桁がガクリと大きく傾き、一瞬ラピッド・スターの機体から火花が散る!

その様子に、映像を見つめていたトシヒコの表情がキッとなる。

トシヒコ
「クソッ!!」

まるで何かに弾かれた様に、自転車の向きを変え、元来た方向へ全力で自転車をこぎ始める!
猛スピードで商店街の舗道を突っ走るトシヒコ!

上空。
橋桁を支えているラピッド・スター。その足元には渋谷の街が広がっている…

機体。
破損したアームから再び火花が噴き上がり、部品が飛び散る!
落下する部品!

コクピット。
再び大きな衝撃!
大きく揺さぶられるコクピット。

リエ
「キャッ!」

ビルの屋上。
屋上の貯水タンク。上空からバラバラと部品が降り注ぎ、タンクが鈍い金属音の響きをあげる!
タンクのあちこちに穴が開き、中から勢い良く水が噴き出す!

その上空には空を圧する様な巨大な橋桁と、それを支えるラピッド・スターの姿が…

コクピット。
キャノピーガラスを一杯に鉄骨が被い尽くしている。凄まじい圧迫感。

前部操縦席では片手だけセンサーグラブをはめたケンタがその腕を高々と差し上げている。
しかし、先程からずっとそのままの姿勢のケンタ、腕が痺れている…
自由になった右手で差し上げた左腕を支えている…

ケンタ
「(苦しげに)…姉ちゃん、…ウデ…」

リエ
「(心配そうに)あと、もう少しよ、頑張ってケンタ!」

ケンタ
「ウウウ…」

リエ
「(苦しげなケンタを見つめる)………」

励ましはしたものの打つ手のないリエ。困惑した表情を浮かべる…
ドライブの過負荷を警告するアラームが鳴り続けている…

モニターに点滅するアラームディスプレイを悔しげな表情で見つめるリエ…
点滅するディスプレイ…

リエ(心の声)
「このままじゃ、持ちこたえられない…どうすれば、一体どうすれば?……」

と、ラピッド・スターの機体に上部の橋桁から鈍い振動が伝わって来る。
橋桁の鉄骨に何かが打ち込まれている様な衝撃…

リエ
「(キャノピーガラスを見上げ)何?…なんなのッ!?」

と、コミュニケーションシステムが鳴る。
ハッとするリエ。システムのスイッチを入れる。
モニターに映るユキコ。

リエ
「(ホッとした様に)お母さんッ!」

ユキコ
「(呆れて)相変わらず無茶するわねぇ。」

リエ
「(不満気に)だって!!」

しばしの沈黙。コクピット内にドライブの排気音が低く響いている…
モニターからはユキコが微笑みながらリエを見つめている…

ユキコ
「…(しばしリエの顔を見つめる)…(微笑み)…とにかくこっちはあたし達にまかせて。今、橋桁に電磁アンカーを打ち込んだわ。もう離れても大丈夫よ!」

リエ
「(元気に)ウン!!(ケンタを見て)ケンタ、もういいわよ!」

その声にガクリと腕を降ろすケンタ。ほっとした表情。
大きく息をつく。

そのケンタの動きに合わせ、ラピッド・スターの左のアームが橋桁を離し、ガクリと下がる。

空。
橋桁に新たなケーブルが何本も固定されている。
ジェットヘリの上にアース・ムーバーの巨体が悠然と大空にそびえている…

ヴァーティカルジェットを噴射させ、橋桁の下からラピッド・スターの機体がゆっくりと上昇してくる。

ラピッド・スターコクピット。
全面を被うキャノピーガラスに目映い日の光が降り注ぐ。

眩しげに顔を上げるリエ。
その瞳に逆光に影となって浮かぶアース・ムーバーの巨大な機体が映っている…

アース・ムーバー操縦席。
マルチモニターを見ながら、慎重にスロットルレバーを操作するユキコ。
ゆっくりと高度を上げ始める。

その脇のショウイチ、先程からレーダースクリーンでデイダロスの動きを気にしている。

レーダースクリーン。
デイダロスの反応が映し出されている。

しかし、その位置は先程から全く変化していない。
空中に静止している様子。

ショウイチ
「…何を考えている…なぜ攻撃して来ない?…」

空中。
静止しているデイダロス。

と、その機体下部、小さなハッチが開き、小型ビーム砲が出る。
いきなり粒子ビームを発射する!

アース・ムーバーレーダースクリーン。
電子音のアラームが鳴り、

『REMARK!: Temperature metal particle beam 』

のディスプレイが点滅する!

ビームがラピッド・スターの方向に一直線に伸びる!!
ハッとするショウイチ!

ショウイチ
「粒子ビーム!?…リエ、よけろッ!!」

空中。
ラピッド・スターのすぐ脇をデイダロスのビームがすり抜ける!!

ラピッド・スターコクピット。
すぐ脇を凄まじい閃光が貫いて行く!

リエ
「キャッ!!…」

ハッとして前方を見つめるリエ。
そこにはデイダロスがまるで待っているかの様に、悠然と静止している…

リエ
「…アイツ、ラピッド・スターを挑発してる…」

遥か前方に不気味な沈黙を続けるデイダロス…
その様子に唇を噛みしめるリエ…

タナカ鉄工所。
猛スピードでトシヒコの自転車が鉄工所に飛び込んで来る!
砂煙を巻き上げ、急停止する!

そのまま自転車を乗り捨て、鉄工所の事務所に飛び込むトシヒコ!

事務所。
勢い良く入口のガラス扉が開けられ、トシヒコが飛び込んで来る!
肩で息をしているトシヒコ。その首筋を汗が流れる…

周囲を見回す。
と、事務所の片隅、モニターを見ていたゲンザブロウ、その物音に振り返る。

トシヒコに気付くゲンザブロウ。一瞬驚いた様な表情を浮かべる。
立上り、トシヒコの方を向く。

トシヒコ
「(ためらい)…あの、オレ…」

ゲンザブロウ
「…(うなずき)…ヤマグチ君、じゃな…」

トシヒコ
「(急き込んで)…は、ハイ!…あの、タナカは!…あ、いや、リエさんはッ!?」

トシヒコを見るゲンザブロウ…
黙って、背後のモニターを振り向く。

つられてモニターを見るトシヒコ。そこにはアース・ムーバーのカメラが捉えたラピッド・スターの機体が映し出されている…

トシヒコ
「タナカ…」

デイダロスと対峙するラピッド・スター。

コクピット。
真剣な表情のリエ。スロットルレバーに手をかけている。

リエ
「(つぶやく様に)行くわよっ…」


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.11.11 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018