SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(266L)
RE:138
渋谷上空。
デイダロスと対峙しているラピッド・スター…

コクピット。
厳しい表情で正面遥か前方、静止しているデイダロスを見つめるリエ。

操縦席のモニターには、機首メインカメラの捉えたデイダロスの超望遠映像が、
大気の揺らめきの中にぼんやりと霞みながら映し出されている…

スロットルレバーに手をかけ、タイミングを計るリエ…

どこか余裕すら感じさせるデイダロス…
その様子に徐々に焦〔じ〕れるリエ…

ラピッド・スターを待ち続けるデイダロス…

リエ
「(悔しげに)クッ!!」

待ち切れなくなったリエの右手が、スロットルレバーを押し込もうと動く。
と、その瞬間、コミュニケーションシステムからショウイチの声。

ショウイチ
「リエ、待ちなさいッ!!」

リエ
「(モニターを見て)お父さん!?」

ショウイチ
「挑発に乗るのは危険だ!…これ程迄にラピッド・スターを待っているからには、彼奴にはきっと何か策がある筈だ。…悔しいかも知れないが…(諭す様に)…此処は一旦引こう。」

リエ
「…お父さん…(顔を上げ、正面に静止しているデイダロスを見る)…でも、今ここでラピッド・スターが引いたら、彼奴、ラピッド・スターを引っ張り出すために、きっとジェットヘリを攻撃するわよ。」

ショウイチ
「(困惑して)しかしだな…」

前部操縦席のケンタ、身を乗りだし、リエの操縦席のモニターを覗き込む。

ケンタ
「父ちゃん、オレも姉ちゃんの言う通りだと思うゾ!攻撃されたら橋桁が落っこって、渋谷がセンベイだゾ!」

ショウイチ
「…かも知れん。かも知れんけれどもだなぁ、みすみす罠と分かっている様な場所へお前達を行かせるなんて事はだなぁ…」

リエ
「(冷静に)…アイツの機動力はお父さんも見たはずよ、たとえ引いても必ず追い付かれる…それに…それに、アイツの目的はもうはっきりしてるじゃない?」

ショウイチ
「リエ…」

うつむくリエ…

リエ
「受けて立ちます…」

しばしの沈黙…モニターに映るショウイチ、考え込んでいる…

考えるショウイチ…
そのショウイチの脇ではユキコが軽く目を閉じ、
ショウイチの決断を待っている…

やがて、決断がついた様にゆっくりと顔を上げるショウイチ…

ショウイチ
「…分かった…行きなさい。お前達の気の済む様にして来なさい…(テレて)…こんなコト、言えたガラじゃないが…(真顔になり)…後で悔いが残る様な決断を、父さんもして欲しくはない…」

リエ
「お父さん…(明るく微笑み)…ハイ!!」

モニター。
微笑むリエの顔に、笑顔でうなずくショウイチ…

モニター切れる。
一瞬、ショウイチの表情に寂しげな影が過る…
その表情を見たユキコ、思わず声をかける。

ユキコ
「あなた…」

その声にユキコを見るショウイチ…

ショウイチ
「ん?なんだ?…(不安気なユキコの表情に気付く。明るく)…あ、心配するな、大丈夫だよ!」

ショウイチの顔を見るユキコ。

ユキコ
「…(微笑み)…ええ。」

窓の外を見るショウイチ。
その視線の先を、ラピッド・スターが白煙の尾を引きながら飛び立って行く…

大空を飛行するラピッド・スター。

コクピット。
操縦捍を引き、スロットルレバーを徐々に押し込みながら、一気に高度を上げるリエ。
ドライブシステムの排気音が徐々に高まって行く…

キャノピーガラスの外を、絹層雲がレースの布の様に飛び去って行く…
既に眼下の町並みは雲海に遮られ、見る事は出来なくなっている…

高度が上がり、空の色は紺碧を帯び始めている。
機首を持ち上げ、急角度で上昇を続ける機体。

重力加速度の重圧が、リエ達の身体にのしかかっている…
天頂の太陽が、遮るもののない高空で、ギラギラと輝いている…

操縦捍を握り、正面を見据えているリエ。
視線の片隅で操縦席のレーダーモニターを確認する。
デイダロスの反応が、着実にラピッド・スターを捕捉している…

リエ
「ちゃんとついて来てるわね…(顔を上げ)…ケンタ、アイツのチェックは頼んだわ!」

ケンタ
「(コンソールパネルを操作し)まかせろッ!!」

ケンタの操縦席、キャノピーガラスにレーダーモニターが投影される。
電子音と共に、デイダロスの反応が一段と接近する。

ケンタ
「アイツ早いぞッ!段々距離が縮まってる!」

リエ
「(つぶやく様に)やるわね。それ程時間は稼げない…か…(ケンタを見て)
   …迎え撃つわ!急速反転に備えて!」

ケンタ
「リョーカイッ!!」

グッと身体に力を込め、衝撃に備えるケンタ。
レーダーモニターを見る。
更に接近するデイダロスの反応…

ケンタ
「距離1,500に接近!」

雲海。
ラピッド・スターの背後、雲海の中に大きく雲のうねりが沸き起こり、ジェットの炎の輝きを噴き上げ、デイダロスがその姿を現わす!

コクピット。
背後で轟音が轟く。
その音に振り向くケンタ。
デイダロスの姿を見る。

ケンタ
「来たッ!機体を肉眼で確認!!」

リエ
「距離のカウントをッ!パルスビーム発射準備!」

ケンタ
「リョ、リョーカイッ!!(慌ててレーダーモニターを見る)…1,300!…1,200!…」

カウントを読みながら、同時に慌ただしくビームの準備をするケンタ。

リエ
「行くわヨッ!!」

操縦捍を思いきり引くリエ、同時にスロットルレバーを押し込む!

機体を翻し、高速で反転するラピッド・スター!
機体腹面がキラキラと陽に反射する。

リエ
「パルスビーム発射ッ!!」

発射ボタンを押し込むケンタ!
パルスビームを発射しながらデイダロスに突っ込むラピッド・スター!

轟音に包まれるコクピット。
凄まじい加速の重圧!
接近してくるデイダロスの機体めがけ、パルスビームの輝きが一斉に伸びて行く!

リエ
「このまま突っ込むわよ!」

パルスビームの直撃をものともせず、上昇してくるデイダロス!
更に接近してくる!

リエ
「クッ!!」

発射ボタンを押し込む!
デイダロス目がけ、ミサイルを発射するリエ!
白い航跡が一直線にデイダロスに伸びる!

が命中寸前、凄まじい反応速度で機体を翻す!
ミサイルをかわすデイダロス!!

そのままラピッド・スターと擦れ違う!

ケンタ
「(驚き)ミサイルを避けたッ!?」

キャノピーガラス一杯にデイダロスの機体がよぎる!
凄まじいスピードでデイダロスの機体が飛び去る…
その姿を目で追うケンタ。

一瞬遅れてコクピットを衝撃波が襲う!
大きな振動がコクピットを揺さぶる!

ケンタ
「ウワーッ!!」

リエ
「(悔しげに)何て反応速度なの…」

そのまま雲海に突っ込むラピッド・スター…

タナカ鉄工所。
アース・ムーバーが現場を離れたため、モニターは途切れ、時折コミュニケーションシステムから信号音が響いている静かな事務所…

片隅の応接セット。
所在無げにソファーに腰を降ろしたトシヒコ。

と、神妙な表情のトシヒコの前に、古びたコーヒーカップが置かれる。
コーヒーが湯気を立てている…

その湯気を見つめるトシヒコ、決心した様にゲンザブロウを見る。

トシヒコ
「…アノ。リエさんは、いつからあの飛行機に?」

サイフォンを片付けていたゲンザブロウ、その声にトシヒコの方を向く。

ゲンザブロウ
「ん?…ああ。かれこれ1年強になるかの?」

トシヒコ
「(驚き)…そんなに前から?…全然気がつかなかった…」

ゲンザブロウ
「(遠くを見る様に)…ワシの青臭い理想主義が、リエにもあんな思いをさせる事になってしまっての…」

黙ってゲンザブロウを見るトシヒコ…

ゲンザブロウ
「…アレはワシに似たのか、仲々頑固な処があってな。(苦笑して)…言い出すと後へ引かん。ラピッド・スターのパイロットになってからも、弱音を吐かんで…なまじ適性があるものでな、こちらもついついリエに頼ってしもうて…アレには…(軽く目を伏せ)…申し訳なく思うておる…」

トシヒコ
「お爺さん…」

ぼんやりと事務所のガラス窓から外を眺めるゲンザブロウ。
初夏の穏やかな日差しが、工場の入口に立つ、古い桜の木の若葉に反射し、静かにきらめいている…

トシヒコ
「…オレ、人間には人それぞれに背負わなきゃならない運命みたいなものがあるって思うんです。」

外を見つめるトシヒコ。時折風に揺れる若葉がキラキラと輝く…

トシヒコ
「…リエさんが背負ってるソレって、すっごく大きい気がするけど、オレ思ったんです。…彼女ならソレに応えられるんじゃないかって…」

トシヒコを見るゲンザブロウ…

ゲンザブロウ
「運命、か…」

窓の外、空を見上げるゲンザブロウ…

空。
雲海の中を飛行するラピッド・スター。

コクピット。
ドライブシステムの排気音が低く響いている…

リエ
「アイツの動きは?」

ケンタ
「(レーダーモニターを見ながら)…こっちの直上、1,000メートル上空だ。ぴったりこっちの動きをマークしてる。」

リエ
「…一体何を考えているのかしら?」

ケンタ
「考えてるバアイかよ!こうなったら、グラン・マキシマイザーで一気に勝負をかけようゼ!」

エネルギーメーターをチラリと見るリエ。

リエ
「…そうね、あまり長引くとエネルギーの残量も気になるわ…(決心して)…分かった。グラン・マキシマイザーの発射準備を!」

ケンタ
「ウン!」

リエ
「見てなさい…」

レーダースクリーンに明滅するデイダロスの反応…


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.11.23 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018