SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(185L)
RE:193
朝。

晴れ渡る空に白い雲が流れる。
溢れる日差しには、何処か夏の光が感じられ始めている…

二重橋前。
早くも朝の渋滞が始まっている。道路に溢れる車の波…

ゆっくりと行き交う車のフロントグラスが時折日差しを映し、まるで水をたたえた水面〔みなも〕の様にきらめいている…

その渋滞の中、一台突出した車高の車両がある。
陽炎〔かげろう〕に揺らめくその姿…
周囲を車に囲まれている…

道路上のインフォメーション・システム。
大型のディスプレイに道路の模式図が表示されている。
渋滞を示す赤の表示があちこちに出ている。

『大手門-飯倉:渋滞中 首都高速:霞が関 外苑 西銀座 入口閉鎖中』のディスプレイ。

のろのろと進む車両の列…

信号機。
ランプが青に変わる。
思い出した様にゆっくりと動き出す自動車。
赤いボディーの軽乗用車がゆっくりと前進する。

と、その屋根越しに姿を現わすロボットの機体。
機体にマーキングされた『TOKYO POLICE』のロゴと「3」のマーク。

ウィンカーを出して軽乗用車が左折する。
その小さな車体の背後から、大型の機体が姿を現わす。
警視庁科学捜査一課所属のロボット、サーディーの姿。

足元のホバー・システムがうなりを上げ、バーニア・ラダーが噴射を制御して小刻みに動く。
道路に砂塵が舞い上がる。

機体がゆっくりと浮上しながら前進する。
しかし、再び前方の乗用車が停まり、渋滞してしまう。
ゆっくりと着地するサーディー。

カメラヘッドを伸ばす。
メインカメラのレンズが、ゆっくりとズームアップして行く…

モニター。
粗い走査線のビデオ画像。
モニターの周囲には様々な情報がディスプレイされている。
映像がズームアップして行く…
遥か彼方まで渋滞した車の列が続いている。

サーディー
「…参ったな、もう15分20秒も時速100m以下だ。…(時間をチェックして)…午前8時57分32秒。このペースでは定時データ提出には間に合いそうもない…」

サーディーの機体。
機体上部のアンテナシステム。カバーが開き、小型の通信アンテナが伸びる。
コミュニケーターのパイロットランプが点灯し、警視庁をコールする。

警視庁。
そびえる警視庁庁舎。

庁内。
雑然とした捜査本部事務所。
慌ただしく職員が行き交い、あちこちで電話が鳴っている。

広い本部の片隅。喧噪の中に埋もれている様に、書類の山積みされた机がある。
書類の山が壁の様に峰を成している机。

片隅には昨晩の店屋物の丼が、割箸をほうり込まれたまま置かれている…
天井から吊された『科学捜査一課』のプレート。

ネクタイを緩め、忙しそうに記録に目を通しているオオツカ警部。
と、書類の山の中からコール音が鳴り始める。

書類をどかす。書類の下から姿を現わすコミュニケーション・ターミナル。
鳴っているターミナル。

どかした書類をドンと机に置く。
と、その振動に、隣の山の書類が滑り落ち、雪崩を起こす。

オオツカ
「(慌てて)クソッ!」

慌てて滑り落ちそうな書類を支えるオオツカ。
書類を押さえながら、チラと壁のボードを見る。

『パトロール・スケジュール』
2021年6月28日(月)の欄。

前夜からの定期巡回パトロール担当の項目。
サーディーのマグネットシートが貼られている…

片手で書類を押さえながら、ターミナルのスイッチを押す。

ターミナルの画面。
『Connected to "THIRDY", Sound only selected.』のメッセージ。

オオツカ
「…オオツカだ。」

サーディー(声)
「こちら、サーディー。現在地は内堀通り、二重橋前信号付近です。只今内堀通りの渋滞に巻き込まれており、毎時100m以下のスピードしか出せません。現在のペースでは定時での報告データ提出が難しそうなのですが。…(恐縮して)…申し訳ありません、警部。…必要があれば緊急車両用サイレンを使用しますが?」

サーディーの恐縮した声に苦笑するオオツカ。

オオツカ
「そこまでの必要もないだろう。…まぁ、渋滞では仕方がないしな。特に事件もなかった様だし、報告は多少遅れても問題ないだろう。戻り次第レポートを提出してくれ。」

サーディー(声)
「了解。」

スイッチを切るオオツカ。
崩れかけた書類を元に戻しながら、苦笑している。

オオツカ
「…(苦笑して)…しかし、サーディーの奴、相変わらずの堅物ぶりだな…」

大通りの時計。
文字盤の電光表示が午前9時20分を指している。

警視庁駐車場。
ウィンカーを点滅させながらサーディーがホバリングして来る。
通りを右折し、駐車場に進入する。
駐車場の通路をゆっくりと進む。

庁舎。
ブリーフィング・ドックへの大きな入口が開く。
入口、警備の警官がサーディーに敬礼する。
腕をあげ、敬礼の様な姿勢をとるサーディー。そのまま中へ入る。

ドックへの通路。
地下のドックへの通路。ホバリングしながらサーディーが来る。

ブリーフィング・ドック。
やって来るサーディー。ドックではワンディムとトゥースが待機している。
遅れて戻ったサーディーを見ると、トゥースがすかさずサーディーの側に寄る。

サーディーはトゥースには構わず、ゆっくりと着地すると機体からレーザー通信システムのトランスミッターを出し、報告データの転送を始める。

壁面に取り付けられたレシーバーのパイロットランプが点滅を始め、データを受信している…

トゥース
「(興味ありげに)珍しいじゃないか、お前が遅れるなんて。几帳面なお前に限って遅刻なんて事は決してないと思っていたが。」

サーディー
「(不機嫌な声で)渋滞ですよ。内堀通りの渋滞に巻き込まれたんです。(不機嫌に)…ジャマしないでください、データの転送中なんですから。」

トゥース
「…いいじゃないか、話をする位。」

サーディー
「気分が悪いんですよ、私は。…大体トゥースは他人に対するデリカシーがない。他人が気分を害していると感じた時は、言動に気を使うのが礼儀というものです。」

トゥース
「(腹を立て)ちょっと待てサーディー、私にデリカシーがないとはどういう事だ。大体、少しスケジュールが遅れた位で不機嫌になるなんてだな、精神が未発達な証拠だぞ!」

サーディー
「(キッとして)未発達ですって!」

ワンディム
「止さないか、二人とも!(サーディーを見て)…スケジュールが遅れて不機嫌なのは分かるが、少し言い過ぎだぞ。」

ワンディムに指摘され、我にかえるサーディー。

サーディー
「…済みません、ワンディム…」

ワンディム
「トゥースも、少しはサーディーの気持ちを考えてやれ。」

トゥース
「(不承不承)はぁ…」

下を向くトゥース。しかし、再び感情が高まる。

トゥース
「…(サーディーを見て)ですが、彼奴はいつもああだ。この間も!」

ワンディム
「トゥース!!」

トゥース
「……(ボソボソと)済みません…」

ワンディム
「(気を取り直し二人を見る)…とにかくだ。言う迄もなく我々の任務はチームワークが要求される。つまらない言動でチームワークを乱す様な行為は謹んでもらいたい。」

うつむくサーディーとトゥース。
しかしトゥースはまだ不満気な様子。

ワンディム
「(トゥースを見て)…いいな、トゥース?」

トゥース
「…はい…」


〜 つづく 〜

~ 初出:1996.02.12 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1996, 2009