SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(198L)
RE:224
タナカ鉄工所。
穏やかな昼下がりの鉄工所…

桜の樹。
工場の入口に立つ桜の古木。
青葉を繁らせた枝が、微かな風にゆったりとそよいでいる…

その枝越しに作業用ロボット、ジャッキーの機体が佇んでいる…
操縦席の大きな曲面ガラス。

青空と太陽の輝きが歪みながら映し出されている…
雲がゆっくりと流れている…

空。
広がる初夏の青空。
彼方の高速道路の上には、小さな積雲が浮かんでいる…
自動車の行き交う微かな喧噪に混じって、遠くで犬の鳴き声がしている…

学校からリエが帰って来る。
錆の浮いた「タナカ鉄工所」の看板の横、丸いガラスの電球カバーが付いた門柱を抜け、事務所へ向う。古びたモルタル塗りの事務所。

入口のガラス戸。
深い庇の下、少し暗くなった中に、上下に大きなガラスのはめ込まれた木製の扉。

上部のガラスに『TANAKA IRON WORKS Inc.』の金の飾り文字が、弧を描くような配置で描かれている…

真鍮の手摺が鈍く光っている…
戸を開けるリエ。鈍い音を立てて事務所のガラス戸が開く。

リエ
「ただいま…」

事務所。
事務机に向っていたショウイチ、その声に顔を上げる。

ショウイチ
「あ、お帰り。」

リエ
「(ショウイチを見て)ただいま。…(足元を見て)…アレ?ケンタ?」

事務所の古びたソファーの上に、ケンタのランドセルがほうり投げられている。

逆さを向いて転がっているランドセル。
口が全開になっており、内容物がソファー中にぶちまけられている…

奥の机を見るリエ…

事務所の一番奥の机。
普段はショウイチの机にあるコミュニケーション・ターミナルのコードが、ちぎれんばかりに一杯に引き伸ばされ、一番奥の机まで動かされている。

ターミナルの影、まるで隠れる様にケンタが何やらやり取りをしている…
妙に緊張している様子。

リエ
「(ショウイチを見て怪訝そうに)何やってんの、ケンタは?」

ショウイチ
「(苦笑して)…インター・コム(国際通話)だよ。」

リエ
「(驚き)インター・コムって…(疑わしげに)ソノヘンの小学生が?」

ショウイチ
「(チラとケンタの方を見て)…ケンタにかかって来るインター・コムって言えば、決まってるじゃないか…(リエを見て)ホラ。」

リエ
「(驚き)エッ!?まさか…」

ショウイチ
「(苦笑する様に)そう、そのまさかだって。お相手は(一呼吸置いて)…エリカ・ハミルトンだよ。」

リエ
「(思い出す様に)…そう言えば、この前手紙が来てたけど…(微笑み)…そっか、日本に来るスケジュールが決まったんだ、きっと。」

ショウイチ
「(横目でケンタを見て)…アイツ、仲々隅に置けんよなぁ…」

頬を上気させながらターミナルに向っているケンタ。
時々うなずいては照れた様に頭をかき、嬉しそうに微笑んでいる…

その様子を横目で見ているショウイチ…
何処かもの欲しげな表情…

すかさずその表情を見つけるリエ。

リエ
「(ショウイチの顔を覗き込み)…あ、羨ましいんだ。」

ショウイチ
「(狼狽して)ば、バカ言いなさいッ!」

悪戯っぽく、疑わしげにショウイチの顔を覗き込むリエ。

リエ
「(ふきだし)ムフッ!やっぱり羨ましいんだ。」

ショウイチ
「(ムキになって)違うって!!」

リエ
「(ニヤニヤしながら)ホントぉ〜?」

ショウイチ
「当り前だ!お、親をからかうんじゃないよ。」

視線が宙を舞うショウイチ。
その様子に、『いいコト思いついた!』という表情のリエ。

リエ
「(奥の居間の方に向って)おかあさぁ〜ん、おとうさんたらねぇ〜!」

奥の居間の方に歩き出すリエ。
慌てて椅子から立上るショウイチ。

ショウイチ
「(遮って)あ、コラッ!」

警視庁。
青空にそびえ立つ警視庁の庁舎。
今しも屋上のヘリポートに小型のジェットヘリが着陸しようとしている…

操縦席。
大型の曲面ガラスに包まれた操縦席。
室内には無線の交信音が絶え間無く響いている。

パイロットの隣に座ったオオツカ警部。
正面に警視庁庁舎屋上のヘリポートが見る見る接近してくる…

ヘリポート。
ジェットの噴射音を響かせながらジェットヘリがゆっくりと着地する。
着地の瞬間、脚部のサスペンションが機体の重量を受け止め、グイと沈み込む。

係員がヘリに駆け寄る。
ジェットエンジンの巻き起こす強風に、帽子を押さえている。
ヘリのドアを開ける。

巻き起こる風に、顔をしかめながらオオツカ警部が降りる。
係員と何事か会話しながら、足早にエレベーター・ロビーに姿を消す…

映像。
新橋でのロボット暴走現場のスチル映像。次々に切り替わりながら映る…

ロボットの形式写真が映り、データベースから性能諸元情報が次々にリスト表示されてゆく。

ブリーフィング・ドック。
ワンディム達の収集した情報を分析しているオオツカ警部。
照明を落した部屋の中、オオツカ警部のコンソール・デスクがスタンドの明りに浮び上がる…

机の上に置かれたカップが明りに照らされ、湯気を立ち上らせている…
スクリーンの前にはワンディム達ロボット・チームも集合している…

スクリーン。
壁面に取り付けられた大型のメインスクリーンに、ロボットクレーンとワンディム
達の姿が映し出されている。

まるで意志があるかの様に、ワンディム達を振りほどくロボットクレーン!
機体の方向を変え、ワンディムに掴みかかるかの様な仕草を見せる…

スクリーンを見つめるオオツカ…

オオツカ
「…確かに、あのロボットはワンディム達の動きに反応している様だ…」

レコーディング映像が静止する。

ワンディム
「(オオツカを見下ろしながら)…しかし、先程の性能諸元からも解るように、あのロボットには自我がありません。あの反応も、単にセンサーのシグナルに、学習動作が追随した結果ではないでしょうか?」

オオツカ
「(ワンディムを見て)…納得できない、と言う訳だな?」

ワンディム
「そうです。」

オオツカ
「(うなずき)…ウム。確かにあのロボットは非常にプリミティブなセンサーしか搭載していないし、自己判断能力もない。他者からの干渉に対して、それを拒絶する様な反応をする事は基本的にあり得ない筈だな。」

トゥース
「ですが、単なるシステム・ソフトウェアの暴走なら、あの様な反応をする事自体、説明がつきません。あの時のロボットの動きは正に「抵抗」だったと思います。」

オオツカ
「(うなづき、サーディーを見る)…サーディーはどう思う?」

サーディー
「…私も、あのロボットの動きには「意志」の様なものを感じました。ただ、それがあのロボット自身のものかどうかは、判断がつきませんが…」

オオツカ
「成る程…」

コンソールデスクの上に置かれた鞄から、メモリー・クリスタルを取り出す警部。
クリスタルをコンソールのプレーヤーにセットする。

モニタースクリーンに電子回路の様なパターンが映し出される。

ワンディム
「M.S.I.(Mega-scale integration)パターンですか?」

オオツカ
「(うなづき)ああ、ロボティック社で撮影した、あのロボットのメインCPUユニットのチップ・パターンだ。…この部分を見てくれ。」

コンソールを操作するオオツカ。
スクリーン一面に広がる広大な電子回路の一部が拡大される。

電子顕微鏡映像の回路。
回路があちこちで切れ、ソケットの様な穴が空いている。

ワンディム
「これは…」

サーディー
「回路が、組み替えられている?…」

オオツカ
「…正確には、組み替えられて「いた」だ。あのロボットのチップからは、幾つもこんな箇所が発見されている。…恐らくこのソケットの様な部分の先に、何等かの電子回路が接続されていたものと思われる。…だが、現状、問題の回路部分は全く発見できていない。」

ワンディム
「(オオツカを見て)警部…」

オオツカ
「(うなづき)面倒な事件になりそうだな…」


〜 つづく 〜

~ 初出:1996.03.31 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1996, 2009