SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(247L)
RE:234
漠たる空間…

広大な幾何学模様が果てしなく拡がっている…
時折、虹色の光彩が、幾何学模様の上を滑って行く…

どこか焦点のぼやけた視界。
視界の端ではどこまでも続く迷路の彼方が、まるでプリズムを透過した光の様に分光している…

突然、視点が一気に下がる。
眼下一面に広がっていた幾何学模様が、驚くべきスピードで見る見る迫ってくる。
真っ逆様に幾何学の迷路に落ちて行く視点!

迷路…

次の瞬間、視点は虹色の迷路を見下ろしている…
と、迷路の上で何か物体がうごめいている。

時折、金属の様な光沢を持つその物体の表面が、鈍い反射を放ち、その度、周囲の空間に虹のようなきらめきが立つ…

ゆっくりと物体が動いている…
昆虫の様な姿。

繊細なメカニズムを持つ脚が、迷路のパターンの上に固定される。
そのまま、動かなくなる昆虫。

と、腹部がゆっくりと開き、コネクターの様な突起物が現われる。
姿勢を落し、腹部を下げてコネクターをパターンに打ち込む。
身体をパターンに圧着する。

複眼の様な部分に、微かに、青い光の明滅が現われる…

突然、アラームの様な断続音が周囲に鳴り響く!
迷路を取り巻く漠たる空間のあちこちで、慌ただしく光の明滅が始まる…

と、どこからともなく現われた2本の巨大な鉄の杭の様な物体が、昆虫の身体を挟み込む。

パターンの上から引き剥される昆虫。

杭の様な物体に身体を挟み込まれている。
その金属質のボディが、鈍い輝きを放つ…

…何処からか聞き覚えのある声が響く。


「旦那様、動作は完璧でございますです…」

微かにステッピング・モーターの駆動音が響き、昆虫を掴んだマニピュレーターが、生きている様な滑らかな動きを見せる。

まるで双眼鏡の様に異様に突き出した、ゴーグル状の電子マイクロスコープを着けた男が、両手をマニピュレーターのセンサーグローブに突っ込み、何かを掴んでいる様な仕草をしている。

マニピュレーター。
男の手の動きにシンクロして、男の前にあるマニピュレーターが、その手と同じ様な、どこか間の抜けた動きをみせる。

あちこちで無数の、伸縮性の筋肉の様なメカニズムが、目まぐるしく収縮と弛緩を繰り返している…

男の頭。
頭に着けたマイクロスコープのフォーカシング・ユニットが、せわしなく伸縮しながら、周囲に焦点を合わせている…

振り返る男。ギャリソン・タバタである。
ゴーグルを着けた異様な風貌でこちらを見ている。
被っていたゴーグルを外すタバタ。眼の周りにゴーグルの跡が残っている…

タバタ
「(喜々として)…全く苦労の甲斐がございました。御覧下さいませ、この精巧なメカニズム!(摘んだ昆虫を見せようと手を突き出す。身体ごと振り向く)…!!」

タバタの手の動きに連動したマニピュレーターが、突き出したタバタの腕を追って空をきり、思いきりタバタを張り倒す!椅子から転がり落ちる。

周囲のガラクタの山が、雪崩をうって次々に崩れ落ちる!
センサーグローブのコネクター・ケーブルが外れ、停止するマニピュレーター。

その停止した指先に、微細な金属の昆虫。
周囲の照明に照らしだされて輝いている…

ガラクタの山に埋もれ、もがいているタバタ。そのタバタの横に一つの人影。
眼にマイクロスコープを当てた別の人影が、ゆっくりとマニピュレーターの指先を見つめる…

ドクター・ジャンクの姿。

マイクロスコープの映像。
マニピュレーターの先端が拡大される。
昆虫の金属質の外装部が鈍い輝きを放っている…

ジャンク
「(つぶやく様に)…素晴らしい…」

凄まじい騒音を立てながら、ようやくタバタが起き上がる。

タバタ
「アタタタタ…」

よろよろと起き上がり、燕尾服の裾を直す。

タバタ
「(髪の乱れを気にしながら)…そうでございましょう、旦那様。全くロボットの芸術品と呼ぶにふさわしゅうございますです、このメカは。」

ジャンク
「(不興そうにタバタを見て)…やめろ。賞賛するな。…どうもお前が誉めていると、価値が非常に下落した様に思えてならぬ。」

タバタ
「(悲しげに)…そ、そんな。ひどうございます。」

ジャンク
「(無視して)…良いか、プロトタイプを使っての実験は、予想外の成果をあげた…」

腕を前に突出し、グラスを捧げ持つ様な仕草をするジャンク。

その様子にタバタが慌てて、銀の盆に乗せたクリスタルのワイングラスを、うやうやしく差し出す。

高い天井からの照明を受け、一瞬、グラスのクリスタルガラスが虹色に輝く…
グラスを受取り、一口、ワインを口に含むジャンク。

ジャンク
「…そして、今宵。更なる進化を遂げたロボット芸術の宝石が一つ、この世に生命の輝きを灯したのだ。」

周囲の壁が音もなくゆっくりと開いて行く。
ガラス張りの天井の上、一面の星空と大きな満月が、涼やかな光を放っている…
感慨深げな面持で、空を見上げるジャンク…

ジャンク
「素晴らしい夜だ…」

夜の洋上に浮かぶ、ドクター・ジャンクの大型潜水母艦、ブラウザスの艦影…
メインブリッジの外部装甲が開き、優美なガラス張りのドームが姿を見せている。

ガラスのドームから微かに明りが漏れている…
その上空に広がる星空。

波間に、満月の落す輝きが、光の飛沫となって揺らめいている…


夜…

タナカ鉄工所。
事務所ではショウイチが事務机に向い、熱心に帳簿を付けている…

事務所の奥の居間。
派手な効果音が聴こえている…

テレビの前にケンタが陣取っている。
真剣な表情。

膝の上にニャンコがちょこんと座わり、一緒にテレビを見つめている…

手に汗握っているケンタ。
テレビの映像に反応して、次々に表情が変わっている…

ニャンコもじっとテレビの画面に魅入っている。
まるでケンタの反応とシンクロしている様な仕草…

テレビの映像。
特撮番組。
警察のロボット・チームが、悪者のロボット達と市街戦を繰り広げている。

敵ロボットの胸部装甲が突然大きく開き、中から多装填ランチャーが現われる!
ロボット・チーム目がけて一斉砲撃を開始するロボット!!

ロボット・チームの周囲で次々に砲弾が炸裂し、凄まじい爆煙が上がる!
周囲の建造物が木端微塵に飛び散る!!
苦戦するロボット・チーム!

ロボット
「(苦しげに)…こ、このままでは…」

追い詰められるロボット・チーム。
攻撃の輪が徐々に狭められ、展開していた3機のロボット達が、徐々に固まって行く…
リーダーらしきロボットに、もう一機のロボットが寄り添う。

ロボット
「キャプテン、彼奴ら、この間より更にパワーアップを!」

リーダー機
「ああ。しかし、我々は此処で負ける訳にはいかん!(僚機を見て)たとえ相手がどんなに強大だとしても、我らロボットポリスは負けない!必ず勝つんだ!」

吸い込まれる様にテレビを見つめるケンタ。
膝の上に置いた手は拳を握り締めている…

画面。

ロボット
「キャプテン…(力強くうなづき)ハイ!」

画面に釘付けのケンタ。
完全に感情移入している…
と…

突然変わる画面。
夜の街を背景に、初老の男性が必死の表情で立ち尽くしている。


「…ボックは死にまっせーんッ!…ボクは死ビバっせーんッ!!」

必死の表情で叫ぶ男。
突然の展開に思いきり感情移入していたケンタ、事態が掴めず狐に摘まれた様な表情。
眼を瞬かせる。後ろを振り向く。

リモコンを持って立っているリエ。

リエ
「(無念そうに)あー、もう始まっちゃってるゥ〜!」

ケンタ
「(怒って)ナニするんダ、姉ちゃんッ!!」

リエ
「何って、アンタがそんなの観てるから、見損なっちゃったじゃない、『201回目のプロポーズ』!」

ケンタ
「オレ、タカダ・テッペイ嫌いッ!姉ちゃんチャンネル戻せよッ!!」

リエ
「うるさいなぁ。アンタさっきっからずっと観てたんだからいいじゃない!
   今度はあたしだってバ!」

ケンタ
「リモコンよこせよぉ!(膝の上のニャンコをどけて立ち上がる)…よこせったら!」

リエに詰め寄るケンタ。

リエ
「(リモコンを高く差し上げる。からかう様に)ヤだよ〜ぉだ!…あ、ヤダヤダッ!ケンタ、ヤだったらぁ!」

ケンタ
「返せよぉ!返せよぉッ!!」

リエの差し上げたリモコンを必死で取り戻そうと、ジャンプを繰り返すケンタ。
と、リエの持っていたリモコンが、後ろから誰かの手に取り上げられる。

ハッとする二人。
テレビ画面が替わり、神妙な表情のアナウンサーが映る。

アナウンサー
「さて、次に今日から京都で始まった日米間貿易紛争調整会議の話題です。会議初日から激しい議論の応酬が繰り広げられ、調整は難航が予想されています…」

二人の後ろから風呂上がりのゲンザブロウ、首にバスタオルを掛けたバスローブ姿でゆったりと居間に入ってくる。

ゲンザブロウ
「やっぱり一日の締めくくりはニュースに決っておろうが。」

リエ/ケンタ
「(怒って)お爺ちゃんッ!!」

マンション。
隅田川を見下ろす高層マンション。
窓に点ったあかりが川面に映し出され、揺らめいている…

部屋。
窓の外に隅田川の夜景が広がるリビングルーム。

壁面に取り付けられた大型液晶テレビに、ロボットポリスの姿が映し出されている。
ソファーに座り、真剣な表情で画面に魅入っているミツル…

敵ロボットに追い詰められ、大ピンチのロボットポリス。
画面が静止画になり、荒々しい手書きの『つづく』の文字が画面に大きく映し出される。

コマーシャルが始まる…
打って変わった賑やかな映像が目まぐるしく繰り広げられる…
しばらくぼんやりしていたミツル、ゆっくりと立ち上がる。

ベランダ。
眼下に川を見下ろすベランダ。ガラス戸を開け、ミツルが出てくる。

手摺にもたれるミツル。
足元の橋の上を、車のライトが絶え間無く流れて行く…

どこか潮の匂いがする微風が、ベランダの上を吹抜けてゆく…

ミツル
「ほんとに…会えるのかなぁ…」

夜空を見上げるミツル…


〜 つづく 〜

~ 初出:1996.04.14 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1996, 2009