SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(263L)
RE:249
午後…

街路樹のプラタナス。
大きな葉が、照りつける日差しを透かして、鮮やかな緑に輝いている…

小学校。
校門の銘板に『東京都中央区立晴島小学校』の文字。

門柱に街路樹の木立が影を落す。
木漏れ日が石造りの門柱に揺れている…

極く最近建てられた様な、パステルカラーに塗られた真新しい校舎。
開け放たれた教室の窓には、白いカーテンが吹抜ける初夏の風に踊っている…
青空に、白い綿雲がゆっくりと流れる…

時計台。
終業を告げるチャイムが響く…

校庭。
カラフルな舗装が施された校庭。
広い校庭一杯に引かれた白い競技用トラックのラインが、カラー舗装の校庭に、幾何学模様を描いている…

校舎の出入口からサッカーボールを手に飛び出してくる子供達。

と、先頭を走っていた少年、ふと何かに気付いた様子。
全力で走っていた脚がスピードを緩め、ボールを手に立ち止まる。
唖然とした表情で校庭の彼方をじっと見つめる…

後から来た少年達も次々に立ち止まり、校庭のある一点を見つめる…
校庭の彼方、カラフルなジャングルジムの鉄骨の背後に、何か大きな影が見える。

少年
「…何だろう…アレ…」

正面玄関。
ずらりと下駄箱が並んでいる…
授業を終えた低学年の子供達が我先に玄関を出て行く。
騒然とした雰囲気の玄関。
子供達の声が玄関に木霊している。

何やら玄関先に沢山の子供達が集まっている。

玄関前の広場。
子供達が幾重にも何かを取り巻き、集まっている…

と、取り巻いている子供達の頭越し、ロボットの機体が見える。
子供達の間からどよめきが沸き起こっている。

玄関前の広場。
玄関の前にサーディーが立っている。

その周囲を取巻き、興味深げな眼差しでサーディーを見つめている大勢の子供達。
何人かは、こわごわとサーディーの側に寄る。

時折、思い出した様に向きを変える排熱ベンチレーターの風向板に、興味深げな様子の女の子。男の子は目を輝かせ、サーディーを見上げている…

子供
「(目を輝かせ)すっげーッ!ロボットだ、ホンモノのロボットだ!」

子供
「あ、ボク知ってる!警視庁のロボットチームだゼ、あのロボット!」

子供達がサーディーを遠巻きにしている。
その様子にカメラヘッドを巡らせるサーディー。

片側のレンズの絞りが一瞬ギュッと絞られ、まるでウィンクした様に見える。
その仕草に、子供達の間から笑い声が起こる。その場の空気が和む。

サーディー
「(子供達を見て)…恐がる事はありませんよ。私はサーディー、警視庁科学捜査一課所属のサーディーです。」

子供
「あーっ、喋った!」

子供
「凄いなぁ、カッコいいなぁ…」

目を輝かせ、サーディーの機体を見上げる子供達…
安心した様子でサーディーの機体に歩み寄る。

玄関。
喧噪の中、ランドセルを背負ったミツルが出てくる。
周囲の喧噪に、何事かという表情。

と、その視線の先、子供達に囲まれたサーディーの姿。
ハッとするミツル。

ミツル
「サーディー…」

ミツルの表情が明るくなる。
駆け出すミツル。

玄関の外。
子供達に取り巻かれているサーディー。
子供達はサーディーの手に乗ったり、興味深げに機体に触ったりしている。

子供達に歓迎され、嬉しそうなサーディー。
と、サーディーのカメラヘッドが何かを捉えて動く。
遠くから誰かの声。


「…サーディー!」

声の方向を見るサーディー。
玄関から飛び出してくるミツルの姿。

ミツル
「サーディー!」

サーディーに駆け寄るミツル。
サーディーを取り囲んでいる子供達の輪の外で一瞬、立ち止まる。

ミツル
「サーディー!」

サーディー
「ミツル君。」

その声に、サーディーを囲んでいた子供達、驚いた様にミツルを振り向く。
ミツルの前の子供達、ミツルに道を空ける…

ゆっくりとサーディーに近付くミツル。
手の上の子供達を降ろすサーディー。ゆっくりと正面を向く。
サーディーの正面に来るミツル。サーディーの機体を見上げる。

ミツル
「…来て…くれたんだね…ホントに…」

サーディー
「(うなずき)約束した筈ですよ…」

そのサーディーの言葉に、感無量の表情を浮かべるミツル…

ミツル
「(こらえて)…ウン…」

玄関。
ケンタが通りかかる。玄関先の広場の騒ぎに気付くケンタ。

ケンタ
「なんダ?…(目を凝らし)…アレッ!?ロボットだッ!…すっげーッ!!」

目を輝かせ、広場へ駆け出そうとする。
と、その瞬間、狙いすました様にシャツのポケットで電子音が鳴り出す。

ケンタ
「(慌てて)ゲーッ!なんだよ、ナンでこんな時に鳴るんダッ!?」

踵〔きびす〕を返し、慌てて廊下の影に駆け出すケンタ。

ケンタ
「(走りながら)…ウンコタレッ!こんな時に鳴らすの、ゼッタイ姉ちゃんだッ!」

廊下の影。
ケンタが慌ててやって来る。周囲を見回す。
辺りに人影がないことを確かめると、胸のポケットからコミュニケーターを取り出す。

スイッチを入れる。
響くリエの声。


「ケンタ、早く応答しなさいよッ!」

ケンタ
「やっぱり姉ちゃんカ。オレいそがしいんだゾ!」


「何言ってんのよッ!今、お父さんから連絡があったわ。緊急集合よ!」

ケンタ
「(不満気に)エーッ!」


「なによ?何が『エーッ!』なのよ!?」

ケンタ
「だって、オレ、今日サッカーが…」


「(怒って)サッカーが何よッ!アンタ、もう授業終わってんでしょッ!?あたしなんてまだ授業残ってんだからッ!これからどーやって先生に言い訳しよーかって、もう気ィ狂いそうなんだかんねッ!」

リエの剣幕にたじろぐケンタ。

ケンタ
「(おずおずと)わ、分かったよ、すぐ戻るよ…」


「『すぐ』よ。いい?」

ケンタ
「分かってるよぉ…」


「あたしも出来るだけ早く戻るから。いいわね?」

ケンタ
「(ヤケ気味に)リョーカイッ!」

スイッチを切るケンタ。不満そうな表情。

ケンタ
「(ブツブツと)姉ちゃんめぇ、今度ゼェーッタイ、ヤマグチの兄ちゃんに言いつけてやるぅ…」

ランドセルを肩に駆け出してゆくケンタ…

街…

ポスト・モダン風の外観を持つ高層ビルがそびえている…
吹抜けの高い天井を持つ、巨大なガラス張りのショールーム。

派手な宣伝用の装飾があちこちに施された室内…
カラフルな作業用ロボットが何台も展示されている、ロボット機械メーカーのショールーム。
時折デモンストレーション用に、展示されているロボットがゆっくりと動いている…

真新しいロボットの機体が、窓からの明りをその表面に映し、つややかに輝いている…

微かにクラシックのBGMが流れる室内…
ロボットの足元に幾つも設けられている応接セット。
背広姿の集団がそこ此処に集まり、盛んに商談が行われている…

展示用ロボット。
展示されているロボットの一台。
ゆっくりとデモンストレーションの動作を繰り返している。

巨大なマニピュレーターが、カラフルなデモンストレーション用のコンテナを軽々と掴みあげ、滑らかな動作で積木の様に積み上げて行く…
規則的な動作を繰り返すロボット。

またコンテナを掴みあげ、積み上げる…

また掴みあげ、積み上げる…

またコンテナを掴み上げる。

しかし、今度はコンテナを積み上げない。
考え込んだ様にコンテナを掴んだまま停止するロボット…

係員
「(ロボットを見上げる)ん?…(隣の同僚を見て)…オイ。」

同僚
「(係員を見て)…ん?何だ?」

上を見上げている係員。同僚もそれにつられ、ロボットを見上げる。
相変わらず停止しているロボット…

係員
「(つぶやく様に)またハングしてやがる…」

同僚
「またかよ…(係員を見て)仕方ない。メカニカル・ロックかけてリセットしよう。」

係員
「(うなずき)ああ。」

同僚
「(不満気に)なんで商談っていうと調子が悪いんだよぉ、まったくぅ…」

同僚の言葉に苦笑する係員。
ロボットを見上げる。

と、その瞬間、ロボットが再び動き始める。

同僚
「(ロボットを見上げ)…オ、直ったぞ。」

コンテナを掴んだロボットの腕が、徐々に振り上げられてゆく…

係員
「(気付いて)おい、なんか様子が…」

同僚もロボットに視線を向ける。

その瞬間、ロボットの手が、掴んだコンテナを思いきり、巨大なガラス張りの壁面に投げつける!凄まじい音を立てて砕け散るガラスの壁面!

ガラスの壁が雪崩をうって崩れ落ちる!
巨大なガラスの破片が、ビルの周囲に巡らされた植え込みの樹木を押し潰す!
グシャグシャに潰れたコンテナが、外の大通りを転がる!
走っている大型トラックの側面に衝突、横転するトラック!

突然の事態に、呆然とその様子を見つめるビル内の人々…
と、人々の背後で新たな物音。

振り向く人々。
他の展示用ロボットも次々に起動して行く!
足元のディスプレイを踏み潰し、動き出すロボット!

係員
「(狼狽して)どうなってる…一体どうなってるッ!!」

と、その係員のすぐ脇にロボットの巨大な脚が踏み降ろされる!
逃げ出す係員。逃げ惑う人々!
大混乱に陥るショールーム!

ショールームの片隅。
凄まじい音と、埃の舞い上がるショールーム。

その鉄骨の柱の影、観葉植物の鉢に隠れる様に一つの人影…
ハンカチで口を押さえたギャリソン・タバタの姿。
手には小さなケースを持っている。蓋が開いているケース…

タバタ
「(満足気な笑みを浮かべ)…すばらしゅうございますです…」

パチンと音を立て、手にしたケースの蓋を閉じる…


〜 つづく 〜

~ 初出:1996.05.05 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1996, 2009