SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(279L)
RE:280
御茶ノ水駅前。
夕暮れの日差しが、周囲の町並みを静かに包んでいる…

時折、警視庁やテレビ局のジェットヘリが、遠く排気音を響かせながら上空を行き交う…

駅前広場。
何台ものパトカーが停められている。

パトライトの点滅の中、パトカーの屋根越しに、駅舎に倒れ込んだロボットの姿が見える。
何人もの警官が集まり、現場検証が行われている様子…
片隅にはワンディムとトゥースの姿も見える。

聖橋。
周囲の交通が遮断され、車の行き来の絶えた橋の上。
黄昏色の静寂が、周囲の空気を満たしている…

舗道をゆっくりと歩いているオオツカ警部。
その少し後ろを、ゆっくりとしたスピードで、サーディーが続く…

対岸の湯島聖堂の森。
樹々の中で、微かに鳥が鳴く…

橋の中央で立ち止まるオオツカ。
手摺にもたれ、橋の上から何処を眺めるでもなく、町並みを見つめる…
その様子に、ゆっくりと停止するサーディー。

オオツカ
「(景色を眺めたまま)…人一倍責任感の強いお前の事だ、多くは言うまい…………しかし…」

その言葉に、まるでためらう様にカメラヘッドをうつむかせるサーディー…

オオツカ
「…確かに結果論かも知れん。見方によっては、運が悪かったと言えない事もなかろう…だが(サーディーを見て)、…お前がパトロール・コースを外れた事によって、現場への到着が遅れた事は事実だ。「彼ら」が来てくれた御蔭で、被害は最小限に留める事が出来たが…」

再び視線を遠い景色に戻す。
橋の上を、微かに風が渡ってゆく…

オオツカを見るサーディー…
何かを堪える様な仕草…

サーディー
「警部……私は…」

サーディの言葉に一瞬、視線をサーディーに向ける警部。
しかし、サーディーの様子に、再び視線を風景に転ずる…

黄昏のビル街の上、黄金色に染まった雲が、静かに流れてゆく…

オオツカ
「(遠くを見つめたまま)…我々はどんな状況下に於ても、常に持てる力を最大限に発揮しなければならない。…分かるな、サーディー?」

遠くを見つめるオオツカ。
その視線には、何処か決意の色がこもっている様にも見える…

オオツカ
「…ベストを尽くすんだ。…振り返って、自分の行動に悔いを残さぬ為にもな…」

カメラヘッドを上げ、オオツカを見るサーディー。

サーディー(心の声)
「警部…」

うつむくサーディー…
苦渋に満ちた様子…

カメラヘッドのレンズが、周囲の風景を映している…

遠くを眺めていたオオツカ、ゆっくりと振り返り、サーディーを見る…
サーディーのカメラヘッド、オオツカを見る。
正面からオオツカを見据えるサーディー…

サーディー
「(絞り出す様に)…ベストを…尽くします…どんな時も…」

サーディーを見るオオツカ…
静かな橋の上に、沈黙が流れてゆく…
夕暮れの光が、周囲の空気を黄金の色に染めている…

しばしの沈黙。
やがて納得した様に、大きくうなづくオオツカ。

オオツカ
「…挫けずに頑張るんだぞ、サーディー。」

微笑むオオツカ。
サーディーのカメラヘッドが、一瞬、微かに視線を外す…

サーディー
「(堪えて)…はい…………」

サーディーの影が、アスファルトの路面に、長く伸びている…


夜…

ハンバーガーショップの店内。
アルバイトの女子店員がにこやかに微笑んでいる。

店員
「…ポテトはお付けしますか?」

カウンターの前にギャリソン・タバタの姿。

タバタ
「あ、いや…そのでございますね……ええ…」

店員
「(微笑み)ありがとうございますぅ。(後ろを向き)…ポテトのLお願いしまぁーす!」

出口。
手に大きな紙袋を持ったタバタが出てくる。
店内から聞こえる声。


「ありがとうございましたぁ、またどうぞご利用下さいませーッ!」

タバタ
「…なんだか、うまく乗せられた様な気がしますでございますが…」

高架線。
轟音を立てて電車が走ってゆく。
電車の車内の明りが、周囲の暗い建物を順々に浮び上がらせ、遠ざかってゆく…
高架線沿いの道を紙袋を手にしたタバタがやってくる。

高架下の倉庫。
煉瓦造りの古風な倉庫。
入口のシヤッターの脇に付いた小さな扉を開け、中に入るタバタ。

倉庫。
暗い倉庫内に小さな電球が点る。

タバタ
「…(ほっとした様子で)…やれやれでございますです。」

片隅のスチールデスクの上にドサリと紙袋を置くタバタ。

と、袋がバランスを失って横倒しになる。
口が開き、フライドポテトがデスクの上に滑べり出て来る。

タバタ
「ありゃ?」

机の上に倒れた袋。
中から何やら褐色の液体が溢れてくる…
スチールデスクの上に拡がってゆく…

タバタ
「(慌てて)しまったでございますッ!アイスコーヒーがッ!」

慌てて袋を戻し、中味を取りだそうとする。
と、突然背後の壁に取り付けられたコミュニケーション・ターミナルが鳴り出す。

タバタ
「あ、ハイハイ。」

思わず袋から手を離す。再び倒れる袋。
中から再び液体が流れ出す…

タバタ
「(袋を見て)アーッ!こっちも大変でございますッ!」

袋を立て直すタバタ。
いらつく様に鳴り続けるターミナル。
仕方がないといった表情で、袋を手に、ターミナルのスイッチを入れる。
手にした紙袋から、ボタボタと雫が滴っている…

モニター画面。
不機嫌そうなドクター・ジャンクの姿。
タバタの手にした紙袋を嫌そうに眺める。

ジャンク
「…何だ、それは?」

タバタ
「…(袋を見て)…夜食、でございますが…」

袋の下からボタボタと褐色の液体が滴っている…

ジャンク
「(呆れて)そんなのを食っておるのか、お前は?やめろ。腹をこわすぞ。」

タバタ
「…あのですね、これにはいろいろと訳がございまして…」

ジャンク
「…訳はいい。お前の説明を聞いておると、夜が明けてしまうからな。…それより次の作戦を指示するぞ。」

タバタ
「恐れ入りますでございます。」

ジャンク
「…またもや、私にインスピレーションを与える作品があってな…」

ジャンクの部屋。
重厚な木製のデスクの上、コミュニケーション・ターミナルのディスプレイ・スクリーンが青白い光を発し、ジャンクの姿を浮び上がらせている…

チラと横を見るジャンク。微かにテレビの音声が流れている…
デスクの斜め後ろ、壁面の大型スクリーンにテレビ番組が映し出されている…

テレビ画面。
巨大な路線図のパネルが壁面一杯に取り付けられた列車管制室。
緊張した表情でやりとりをしている。

係員
「リニア特急のコントロールがききません!制御不能ですッ!!」

管制室長
「緊急ブレーキ・シグナルをッ!すぐ発信しろッ!」

係員
「は、ハイッ!」

コンソールを操作する。
緊急スイッチのカバーが跳ね上がり、中からボタンが現われる。
思いきりボタンを押し込む係員。

係員
「緊急ブレーキ・シグナル、発信!」

モニタースクリーン。
進行中の列車の状況がディスプレイされている。
速度表示のデジタルカウンターが小刻みに表示を変えている…
しかし、一向に速度が落ちる様子はない…

係員
「(管制室長を振り向き)…ダメですッ!シグナル、受信しませんッ!!」

管制室長
「何だとッ!?…」

係員
「室長…(ハッとして)そうだッ!(管制室長を見て)ロボットポリスに連絡しましょう!彼らならきっと!」

管制室長
「そうかッ!…よし、すぐ連絡をッ!!」

係員
「はいッ!!」

映像を見つめるジャンク…
画面の中で繰り広げられるドラマを見つめながら、その瞳には冷たい嘲笑が浮かんでいる…

ジャンク
「…ロボットポリスか…現実はこう都合良くはないからな…」

映像を見つめるジャンク…

タナカ鉄工所。
物干し台の板の上、仰向けに寝ころんだケンタが空を眺めている…

ケンタの視点。
物干し台の片隅、忘れられた手拭が、夜風に吹かれて翻っている…
その上に広がる夜空…

空を見つめるケンタ。
考え込んでいる様子…
と、足元で誰かの声がする。


「なんだ、こんなトコにいたのかぁ…」

起き上がるケンタ。物干しの階段からリエが顔を覗かせている。

ケンタ
「姉ちゃんかぁ…」

上がってくるリエ。

リエ
「…まだ気にしてるの、昼間のコト?」

ケンタ
「…悔しいんだ、オレ。…ただの建設ロボットに、あんな…」

目を伏せるケンタ…

リエ
「…だったら…(微笑み)…だったら練習すればいいのよ。」

ケンタ
「(リエを見て)…エ?」

リエ
「簡単なコトじゃない。だって、ケンタは操縦に慣れてないだけなんだモン。サッカーだって一緒なんでしょ?できなければ練習して出来るようになればいいじゃない?」

ケンタ
「姉ちゃん…」

リエ
「(微笑み)…つき合ってあげるからサ、練習。」

ケンタ
「姉ちゃん…(表情が明るくなる)……ウン!」

嬉しそうなケンタ。

リエ
「(思い出し)ア、いっけないッ!」

ケンタ「何?」

リエ
「ケンタにテレコだったんだ!すぐ下に降りて。インター・コムよ、エリカさんからッ!」

ケンタ
「(焦って)エーッ!なんだよ、なんでソレ早く言ってくんないんダ!」

弾ける様に跳ね起き、大慌てて階段を駆け降りて行くケンタ。
バタバタと足音が遠ざかって行く…

そのケンタの後ろ姿を、どこかホッとした様な表情で見送るリエ…


〜 つづく 〜

~ 初出:1996.06.09 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1996, 2009