SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(255L)
RE:289
夕方。

夕焼けでオレンジに染まった空…
夕日に照り映え、薔薇色に染まった綿雲を背に、飛行訓練を終えたラピッド・スターが、ゆっくりと垂直降下してくる。

影になった機体下面で輝くヴァーティカル・ジェットの青い噴射炎が、オレンジ色の空気の中で、一際青みを増して見える。

機体が夕日の輝きを反射し、艶やかに輝いている…

鉄工所裏の運河。
微かにドライブの排気音を響かせ、運河に降下するラピッド・スター。

ヴァーティカル・ジェットが運河の水を巻き上げ、周囲に霧が立つ。
周囲に飛散した霧状の水滴が、逆光に浮び上がり、光の飛沫となって舞っている…

ゆっくりと着水するラピッド・スター…

工場。
運河から引き上げられたラピッド・スターの機体が回収されている。

鈍い駆動音を立てながら、運河から伸びたレールの上を、カタパルトに乗せられたラピッド・スターの機体がゆっくりとスライドしてゆく…

デッキの周囲から少しの間、洗浄液が機体に噴射され、機体を洗浄する。
停止するカタパルトデッキ。

キャノピーガラスがゆっくりと開く。
タラップが機体に横付けされ、コクピットのケンタとリエが降りてくる。
思い通りの結果が出たのか、上機嫌な様子のケンタ。

ケンタ
「(リエを見て)ねぇ、どうだった今日の操縦?オレ、少しはうまくなったと思わない?」

リエ
「そうねぇ…(微笑み)マ、70点くらいかなぁ?」

ケンタ
「(不満気に)エー?…なんだヨ、ソレ?…だって超音速飛行したって機体は安定させられたし、フォーメーション・フライトだって一度も失速アラームなんなかったじゃんッ!」

リエ
「(真顔になり)基本的な操縦は随分良くなってるわ。後はフォーメーションに入った時の飛行パターンにもっと変化をつける事ね。…だってケンタのはすぐ動きを読めちゃうんだもん。飛行パターンが単調だと、いざって言う時危険よ。」

ケンタ
「チェッ…」

リエの言葉に、一瞬ふくれた様な表情を見せるケンタ。
が、次の瞬間、事務所の方から流れてくる匂いに鼻をひくつかせる。

ケンタ
「(顔を輝かせ)アーッ、今晩カレーだッ!」

リエ
「(苦笑して)食い意地張ってんだからぁ!…いい?あたしの言うコト、ちゃんと聞いとかないと、後で痛い目みるんだかんねッ!」

ケンタ
「(上の空で)ハーイ。(リエを見て)行こ行こッ!」

そわそわしているケンタ、事務所に向って駆け出してゆく。
その様子に苦笑するリエ。

リエ
「もうケンタったらぁ…」

夜。

東京湾沿いの埋立地。
広い敷地一面に、何かの軌道が敷設されている。あちこちに取り付けられた水銀灯の緑の光線が、敷き詰められた軌道を鈍く光らせている…

門。
鉄の扉が閉じられている大きな門。

コンクリートの門柱に取り付けられた
『東京国際洋上空港輸送システム株式会社 青海車両基地』
の銘板が、水銀灯の光線を受け、闇の中に浮び上がっている…

フェンス沿いの道。
車両基地のフェンスが、埋立地の中を果てしなく伸びている…
そのフェンスに沿った道を、1台の乗用車がやってくる。

ゆっくりと停車する乗用車。
エンジンのアイドリングの音が、周囲の埋立地に響く。
時折、夜風が広い埋立地を吹抜け、周囲の葦の葉を鳴らして行く…

運転席。
周囲に視線を走らせる人影。ギャリソン・タバタである。
周囲に人気がない事を確かめると、ガルウィングドアを跳ね上げる。
夜風が微かに草の匂いを運んで車内に吹き込んでくる…

懐から取り出した銀製のケースをダッシュボードの上に置く。

表面に繊細な唐草模様を彫り込んだケース…

背面に設けられたコネクターに細いケーブルを接続すると、隣のシートに放り出されていた小型のターミナルを引き寄せ、カバーを開く。

ターミナルの画面。
コマンドの実行時刻を設定する画面が表示されている。
キーボードを操作し、次々に時刻を設定して行くタバタ…

ケースのコネクター脇にあるデータ転送ランプが、目まぐるしく点滅している…

ターミナルの画面。
『Data transmission: TERMINATED...』
のディスプレイが点滅する。

満足そうな表情のタバタ。

タバタ
「これで、準備完了でございますです…」

ゆっくりとダッシュボードの上に置かれた銀のケースの蓋を開く…
紺色のビロードの上に、微細な昆虫が何匹も並んでいる…

タバタ
「(ケースを覗き込み)…今日はいささか風がございます。飛ばされぬ様、お気をつけ下さいませ…」

ケースの中の昆虫が、次々に飛び立って行く。
一瞬、その羽根が、遠い水銀灯の光に、緑の輝きを映してきらめく…

飛び去ってゆく昆虫。それを見送るタバタ。
昆虫達の飛び去った方向には、遠く、車庫の様な建物の明りが見えている…

しばらく昆虫の飛び去った方向を眺めていたタバタ、我に返る。
懐中時計を取りだし、時間を見る。

タバタ
「おっと、次の場所へ行く時間でございますです…」

ドアを閉め、走り出すタバタの車…
葦の原を夜風が渡り、葉擦れの音が夜の暗闇を包んでいる…


朝…

タナカ鉄工所。
庭の桜の樹が、工場の前の広場に心地よい木陰を作っている…
樹の中から、雀のさえずる声が聞こえる…

事務所。
片隅の古びたソファー。
コーヒーカップを前に、ゲンザブロウが新聞に読みふけっている…

事務所の奥、一段高くなった畳敷きの居間。
ちゃぶ台の上に二組の食器。食べ終わったばかりの様子。
一方の箸は、慌てて食べたのか、一本がちゃぶ台の端に転がっている…
御飯粒のこびりついた茶碗…

壁に掛けられたカレンダー。
2021年7月のページ…
10日の土曜日の箇所。赤いマーカーで、これでもかと丸が付けられている…

奥の部屋からリエが出てくる。
よそ行きの白のワンピース。珍しくおめかししている。どこかすました様子…

しかし、ふとちゃぶ台の上に残っているサラダボールに目が行く。
ボールから、残り物のトマトをつまみ上げ、ヒョイと口に入れる。
何事もなかった様に澄まし顔のリエ。奥の部屋を見る。

リエ
「(奥の部屋に向って)ケンタ、まだぁ?あたし先行くよぉ!」

奥の部屋からケンタの声が聞こえる。何やら支度の真っ最中の様子…

ケンタの声
「ア、待ってよォ!」

ユキコの声
「コラ!じっとしてなさいッ!ネクタイ曲がっちゃうじゃないッ!」

ケンタの声
「(いらつき)アーッ!あとオレやるッ!もういいッ!姉ちゃん行っちゃうッ!」

ユキコの声
「あ、コラケンタ!」

バタバタと足音がしてケンタが出てくる。
半袖のボタンダウンシャツにネクタイを締め、こちらも何時にないよそ行きの格好。
待っていたリエ、ケンタの格好を興味深げな様子でしげしげと眺める…

リエ
「(おどけて)オ!ケンタ、ネクタイとはこりゃまた…」

ケンタ
「(リエを見て)なんだヨォ…」

嫌味を言われると思ったか、身構える。
しげしげとケンタを眺めるリエ…
奥の部屋からユキコも出てくる。腰に手を当て、ケンタの格好を眺める。

ケンタ
「(二人を見て)な、なんだヨ…」

ユキコ
「(リエを見て)「ど?馬子にも衣装でしょ?」

リエ「(微笑み)いいじゃない…(ケンタを見て)似合うわよ、ケンタ。」

ケンタ
「エ?…」

リエ
「(うなずき)ウン、これならエリカさんの前に出しても、何とかなるんじゃない?いつものあのカッコじゃ…(ユキコを見て)ネ?」

ユキコもリエに目配せする。

ユキコ
「(リエを見て)…ウン。」

一瞬呆気に取られていたケンタ、からかわれているのに気付き、ムッとした様子。

ケンタ
「モー、姉ちゃんも母ちゃんもバカにすんなッ!」

リエ
「(苦笑して)ア、ゴメンゴメン。(ケンタを見て)…さ、遅れるよッ。」

ケンタ
「(渋々)…ウン。」

玄関に向う二人。

ユキコ
「じゃ、エリカさんによろしくね。」

二人の声
「はーい。」


マンションの玄関。

黄色のタクシーが停まっている。
乗り込んでいるのは母親に連れられたミツル。

何処かはしゃいでいる様子…
ガルウィングの自動ドアが閉まって行く。

車内。

母親
「(運転手に向って)…東京駅のリニア・ターミナルお願いします。」

運転手「リニア・ターミナルっと…(思い付き)ア、新空港行くヤツね。」

母親
「ええ。」

運転手
「ハイ、分かりました。」

走り出すタクシー。
母親の脇で、嬉しそうに窓の外を眺めているミツル…


東京湾上。
初夏の日差しが、波間に揺らめいている…

その揺らめきの背後。少しもやがかった風景の中、海の上を長い橋が伸びている。
果てしなく続く橋脚の列…

その上を真新しいリニア・モーターカーが軽いうなりを上げながら走って行く…

ナレーション
「西暦2021年。増加する航空輸送に対応するため、羽田空港の沖合い約10kmの東京湾上には、既に新たな国際空港が建設されていた…そして東京湾上に長大な洋上軌道が建設され、、空港と都心とを結ぶ動脈として、完全コンピュータ制御システムを導入したリニア・モーターカーが運転を開始していた…」

轟音を上げて通過して行くリニア・モーターカー…

橋脚。
リニア・モーターカーの橋脚の脇。一台のモーターボートが波に揺られている…

モーターボートにはタバタの姿。
頻りに橋脚の上を見上げている。

橋脚の上、少し広くなった場所に、軌道制御用の中継ボックスが設置されている。

モーターボートのシート。
シートの上には昨晩と同じターミナルが置かれ、そこからケーブルが伸びている。

ケーブルの先には、あの銀のケースが繋がっている。
蓋の開いたケース。
ケースの表面が、揺れるボートの上で、時折太陽を反射し、きらめいている…

橋脚を見上げているタバタ…
その口元に笑みが浮かぶ…

タバタ
「これで…舞台は総て整いましてございます…」


〜 つづく 〜

~ 初出:1996.06.23 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1996, 2009