SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(212L)
RE:306
東京湾。
殆ど風もなく、夏の海は午後の凪を迎えている…
油の様な海面が、夏の空を映し、深い青色に染まっている…

夏の日差しの中、海の彼方。
薄靄に霞んだ東京の街が、背後の空に大きな積乱雲を頂きながら広がっている…

遥かな街。
高層ビルの峰々。薄靄の中に陽炎となって揺らめく…
時折、遠い高速道路を行く車のフロントガラスが夏の日差しを映して瞬く…

海上。
海の上を長大な洋上軌道がどこまでも伸びている…
真新しいコンクリートの橋脚が日差しを受け、白い光を海に投げかけている…
微かなうなりを立てながら、洋上軌道をリニア・モーターカーが走って行く。

洋上軌道。
軌道上を走るリニア・モーターカー。
軌道制御ボックスの横を通過してゆく…

車内。
ブロンズ色の熱線遮断ガラスに被われた車内。
天井まである巨大な窓の外を、周囲の風景が音もなく後ろに飛び去ってゆく…

車内のスピードメーター。
通路の上方に取り付けられたデジタルカウンターが『80km/h』の表示を示している…

深々としたリクライニング・シート。
2列並んだ座席に座っているリエとケンタ。
窓際の席に座ったケンタ。
しばらく車窓の風景に目をやっていたが、チラとスピードメーターに目をやる。

ケンタ
「(がっかりした様子で)なぁ〜んだぁ、リニア・モーターカーったって、あんまりスピード出さないじゃん。(不満気にリエを見て)…これならラピッド・スターで行った方が良かったなぁ…」

隣の席でサングラスの様なビデオ・グラスをかけ、デジタル・ビデオを観ていたリエ、ビデオ・グラスを外し、呆れた様な表情でケンタを見る。

リエ
「(グラスの脇のスイッチを操作し、ビデオを止める。呆れて)ナニ言ってんだか、このケンタは…」

ケンタ
「(ムッとして)ナんだよォ…」

リエ
「だいたい線路が10kmしかなくって、時速500キロも出したら、加速してる間に終点についちゃうって。」

理屈で攻めるリエにふくれるケンタ…

リエ
「…それに、リニア・モーターカーってったって、コレってモノレールみたいなモンじゃない。途中に駅だってあるし、そんなにスピード出せないの。分かる?」

リエの論理にやり込められ、不満気なケンタ…

ケンタ
「ユメがないゾ、姉ちゃん!ソーやって、リクツばっかこねてるオンナはもてないゾ!ヤマグチの兄ちゃんだってソーいうオンナはキライだゾ、きっと!」

ケンタの鋭い一言にカツンと来るリエ。

リエ
「(ふくれて)何言ってんの!憎ッたらしい口きく弟の為にだって、わざわざ貴重なお休みを潰してつき合ってる、優しい姉さんに向って、この弟は…(怒って)あたし帰るよ!空港で迷子になって、エリカさんと会えなくなったって知んないかんね。」

席を立とうとするリエ。
ケンタの脳裏に、広い空港で迷子になった自分の姿が浮かぶ…

ケンタ
「…エ?…(慌てて)…あ、待ってクレ!怒んないでクレッ!オレ、コマる!」

必死にリエの腕を引っ張るケンタ。
大慌てのケンタを見て悪戯っぽく微笑むリエ。

リエ
「(ケンタに気付かれない様に)ムフッ…」

別の車両…

窓の外を眺めているミツル。
ミツルの視線の先を、臨海新都心の未来的な建物が流れて行く…

時折、トラス橋の鉄骨が窓の外を走り、外を眺めるミツルの上に、ストライプの陰影を落しながら過ぎ去ってゆく…

チラと、隣の席の母親を見る。
それには気付かず、英文のグラフ雑誌に読みふけっている母親…

ミツル
「(母親を見て)…ねぇ、お母さん…」

母親
「(雑誌から目を離し)…ん?…なぁに?」

ミツル
「飛行機、遅れてないよね、すぐ合えるよね、お父さんに。」

母親
「(微笑み)…ウン。大丈夫、時間通りだって。」

その様子に、安心した様子で微笑むミツル。

洋上軌道。
リニア・モーターカーが走って行く…

彼方に広がる人工島。
巨大な離陸用カタパルト・スロープが、幾つも天に向ってそそり立っている…

今しも、巨大な超音速旅客機が、轟音を立てながらカタパルトを駆け登り、飛び立ってゆく…

東京駅付近。
リニア軌道の高架線が続いている…

その支柱の下に、一台の乗用車が停まっている。
アンテナが一杯に伸ばされている…

乗っているタバタ。
車内のテレ・コミュニケーション・システムで、交信している。
ディスプレイに映るドクター・ジャンク。

タバタ
「…予定通り、本日14時をもって、作戦実行可能でございます…」

ディスプレイのジャンク、その言葉に満足気な表情…

ジャンク
「フフフ…今回は、今迄の集大成とも言うべき作戦だ。昆虫達の数も増やし、関連施設を同時に掌握できる…(ニヤリとして)…さぞかし素敵なショウが繰り広げられる事だろう…」

タバタ
「左様で…」

ジャンクの部屋。
深々とした木製の重厚な椅子に腰を降ろしたジャンク。

シャンパンを飲みながら、満足気な表情を浮かべる…
手にしたシャンパングラスを目の前にかざす…

グラスに満たされた白金のシャンパンの色…
その泡の向こうに、歪んだスクリーンの映像が映っている…
スクリーンに映し出されたロボットポリスの姿…

ジャンク
「…さて、現実のロボットポリスは、果たして物語の様な活躍が出来るかな?…」

スクリーンのロボットポリス…
それを見つめるジャンクの口元に、冷たい微笑みが浮かんでいる…

羽田。
旧羽田空港跡地。
広大な埋立地の突端に、頑丈なコンクリートの防壁が張り巡らされている…

鋼鉄製の門。
銘板に『警視庁羽田演習センター』の表記。

『演習施設につき、警視庁関係者以外立入厳禁』の注意書きが物々しい…

爆裂音を上げ、標的のコンクリートブロックが次々に破片を噴き上げて霧散する!

アームガンを露出したサーディー。
アームガンの銃口からは、まだ硝煙が立ち上っている…

サーディーの背後にはワンディムとトゥースの姿も見える…

管制塔。
双眼鏡を手に、訓練の様子を見つめるオオツカ。
隣に、訓練センターのメカニックらしき男。

メカニック
「(サーディーを見て)…いやぁ、いつ見ても惚れ惚れする様な命中精度ですよねぇ。あれもやっぱり『意志の成せる業』ってヤツですかねぇ?普通のターゲット・トレースだってこうは行かない。」

双眼鏡でサーディーを見ていたオオツカ、その言葉に双眼鏡を外す…

オオツカ
「意志の成せる業…か…」

メカニック
「どうか、しましたか?」

オオツカ
「私達も、彼らにそれを期待していたのかも知れない…だからこそ、彼らに『意志』と呼べるものを与えた…」

怪訝そうな表情でオオツカを見るメカニック。

オオツカ
「…しかし、我々は同時に、彼らに大きな苦しみをも、与えてしまったかも知れない…只、我々の都合だけで…」

メカニック
「警部…」

オオツカ
「(目を伏せ)…心を持つ者ゆえの苦しみを…」

一瞬、沈黙が流れる…
しばらく考えていたメカニック、心を決めた様に口を開く…

メカニック
「…でも、生きてく。」

その言葉に、メカニックを見るオオツカ。

メカニック
「(微笑み)でも、生きて行くんですよ。…一緒じゃないですか、我々も、彼らも。確かに心や感情、厄介なコトはあるけど、それを補って余りある素晴らしさだってあるじゃないですか。心を持つがゆえの素晴らしさって奴がね…」

微笑むメカニック。

その天真な笑顔。

何時しか、オオツカもつられて微笑んでいる…
メカニックの言葉に、心に日が射す様な気持ちがする…

オオツカ「そう。…そうかも知れんな、きっと…」

ロボット達を見るオオツカ…

洋上軌道。
軌道脇の制御ボックス…

ボックス内部。
電子回路のあちこちに微細なメタリックの昆虫が取り付いている…
時折、微かに昆虫の目が光っている…


〜 つづく 〜

~ 初出:1996.07.07 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1996, 2009