SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(239L)
RE:361
13時58分…

リニア・ターミナルのデジタル時計が13時58分を指している…
ホームに発車を知らせる電子音が響く。

リニア・モーターカーの跳ね上がっていたドアが、鈍い圧搾空気の噴出音と共に滑らかに滑べり降りる。

まるで航空機の様に、車体に密着するドア。
それと同時に、車体側面の警告灯が一斉に消灯する。

微かなうなりをあげ、ゆっくりと動き出す列車…
大きなガラス窓が次々にホームを滑ってゆく…

その中に幸せそうなケンタとエリカ、少し離れた車窓に父親と並んで座ったミツルの姿が見える…

ゆっくりとホームを滑べり出て行く列車…

ホームのインフォメーション・ディスプレイ。
発車時刻表示が次々に更新されてゆく…

車内。
通路上方のインフォメーション・ディスプレイ。
時刻表示が13時59分を指している。

窓際の席に座ったエリカ。その横に並んでケンタが座っている。
一つ後ろの席では、リエが無関心を装いつつ、ビデオ・グラスをかけ、デジタルビデオを見ている…

洋上軌道を滑る様に列車は走る…
時折、軌道脇の信号システムの支柱が、窓の外を音もなく飛び去って行く…

ブロンズ色の熱線遮断ガラスの外、どこまでも海が広がっている。
その海面が日の光を受け、まるで琥珀の様に輝いて見える…

じっとその様子を見つめているエリカ。
一艘の貨物船が、その輝きの中を影となってよぎる…

貨物船の影が、きらめく波を蹴立て、光の海の中を進んで行く…
船の舳先で、波が光の飛沫となって砕けて行く…

エリカ
「綺麗……」

その言葉に、エリカを見るケンタ。
ケンタの目が、遠くを見つめるエリカの横顔を見る。

遥か遠い海の輝きが、エリカの澄んだ瞳に星のきらめきを映している…
その横顔の美しさに、ハッとするケンタ。
パッとケンタの頬が赤らむ

知らず知らず、そのエリカの横顔に魅入っているケンタ…

けだるい午後の日差しの中、車内のデジタル時計が14時に変わる…

その瞬間!

突然列車が急停車する!
余りの急減速に次々にシートから投げ出される乗客達!
車内に悲鳴が起こる!

通路上のデジタル・スピードメーター。
凄まじい減速に、その速度表示が一瞬の内に0km/hを示す!

完全に停止した列車。
先程まで低く響いていた走行音も止み、車内に不安な静寂が流れる…

投げ出された乗客達があちこちでゆっくりと身体を起こしている…
微かに子供の鳴き声が聞こえる…

頭を前のシートに思いきりぶつけたケンタ、頭を押さえて身体を起こす。

ケンタ
「…イッテー…イテテ…なんダ、どうしたんダ?…」

ハッとして横のエリカを見る。
何が起きたのか分からず、周囲を不安気に見回しているエリカ…

ケンタ
「(頭を押さえながら)…大丈夫?エリカさん…」

エリカ
「(ケンタを見る。心配そうに)ええ、私は…それより、ケンタ君こそ…」

心配そうな様子でケンタを覗き込むエリカ。
ケンタ、慌てて頭を押さえていた手を隠す。

ケンタ
「(あせって)エ?オレ?…あ、全然ヘイキだってバ、ホラ!」

さっきまで押さえていた頭を手で叩く!

ケンタ
「………………」

やっぱり痛かった。頭を押さえ、うずくまるケンタ…

エリカ
「(少し呆れて)大丈夫?…」

ケンタ
「(うずくまりながら)…ダイ…ジョブ…」

突然、背後から不思議なサングラスをかけた顔がヌッと出る。
ようやく持ち直したケンタ、その顔と目が会う。

ケンタ
「(思わず身体を引き)ヒッ!」

サングラスの顔
「…ダイジョブだったぁ?」

その声にしげしげとサングラスの顔を見るケンタ。

ケンタ
「(ホッとして)なんだ、姉ちゃんかぁ、…(ムッとして)ソンなのかけてんなよォ、ビックリするじゃんか!」

ふくれたケンタの背後で、エリカがクスクス笑っている。

かけていたビデオ・グラスをはずすリエ。

リエ
「(悪戯っぽく)オドロイタぁ?」

ケンタ
「(呆れて)………」

リエ
「(真顔になり)…それにしても、一体どうしたっていうのかしら?この列車はコンピュータ制御のはずよ。こんな無茶な停まり方…」

ケンタ
「ウン。…(考える、リエを見て)…まさか…」

顔を見合わせるリエとケンタ。

と、通路上のインフォメーション・ディスプレイに突然映像が映し出される。
ディスプレイに映し出される一人の男の姿…ドクター・ジャンクだ。

薄暗い部屋を背景に、優美な模様の入ったシャンパングラスを手にしたジャンク。

ジャンク
「…御機嫌いかがですかな、乗客の皆さん。」

ジャンクの映像に、車内の乗客達がどよめく…

リエ
「(画面を見つめながらつぶやく)ドクター……ジャンク!…」

深々としたソファーに腰を降ろし、足を組んでリラックスした様子のジャンク…

ジャンク
「皆さんは大変に運が良い…これから始まる素晴らしいショウの、出演者となれるわけですからな…」

ケンタ
「(映像を見つめながら)…出演者?…」

ジャンク
「私は、これから一つ実験をしてみたいと思っております。そこで…と言ってはなんですが、ぜひ皆さんにご協力を頂きたい。」

手にしたシャンパンを口に含む…
ジャンクの目に冷たい輝きが浮かぶ…

ジャンク
「…すなわち『ヒーローなどこの世に実在しない』。私が信ずるこの命題を、実験によって弁証してみようと言う訳です。」

リエ
「どういう事?…」

ジャンク
「…皆さんも御覧になった事がおありでしょう?テレビの人気番組『ロボットポリス』です。

映像が切り替わり、ロボットポリスの映像がモニターに流れる…

別の車両。
ロボットポリスの映像にハッとするミツル…

ジャンク(声)
「これは架空の世界の物語ですが、我々の世界にもロボットポリスは存在しています…」

映像が変わり、警視庁のロボット・チームの姿が映し出される。

ミツル
「(ハッとして)サーディー…」

ジャンク(声)
「警視庁科学捜査一課の心を持つロボット達…かれらが果たして空想世界のロボットポリス同様、ヒーローで有り得るのか否か、…(嘲る様に)ま、私はヒーローなど現実の世界に実在し得ないと思っていますがね……つまり、それを彼らによって確認しようというのが、この素敵なショウの趣向、という訳です。」

そのジャンクの言葉に、拳を握り締めるミツル…
ディスプレイのジャンクを睨みつけている。

ミツル
「………」

ディスプレイを見つめているリエ達…

ケンタ
「(リエを見て)…姉ちゃん、ジャンクの奴、この列車をロボット・チームを誘き出すエサにするつもりだゾ。」

リエ
「(うなずき)ええ。…(ケンタを見て)…でも、そう上手くは行かないって。」

そのリエの言葉にうなづくケンタ。
リエはバッグからコミュニケーターを取り出し、そのボタンを操作する。

リエ
「ケンタはデッキからお父さん達に連絡を。」

ケンタ「ウン。」

そっと席を立つケンタ…
心配そうなエリカ。

エリカ
「ケンタ君…」

ケンタ
「(微笑み)大丈夫。エリカさんはじっとしてて。」

ディスプレイのジャンクはまだ演説を続けている…

ジャンク
「…これからあなた方を乗せた列車は徐々に加速を始めます。」

ディスプレイに洋上軌道のCGが映し出される。
CGの軌道の上を列車は走って行く…

ジャンク
「…列車は加速を続け…やがて、終点近くのこの急なカーブに差し掛かる。この時、列車の想定速度は時速200km。だが、この急カーブの安全な走行速度は…まぁ時速120kmがリミットでしょうな。…つまり、時速200kmの列車がこのカーブにかかると…」

CG映像。
急カーブに猛スピードで突っ込む列車。

カーブを曲り切れず、次々に脱線する!
軌道を飛び出し、海面に落下して行く車両…

その様子に、車内にどよめきが起こる…
満足気な表情を浮かべるジャンク。

ジャンク
「…しかし、この悲劇的な結末を救うただ一つの方法があります。皆さんのヒーロー、警視庁のロボットポリスが、あのカーブにかかる前に、この列車を止める事です。」

優美なシャンパングラスを弄ぶジャンク…

ジャンク
「…しかし、私は彼らに必要以上の有余を与えるつもりはありません。彼らに私の意志を通告後、30分でショウの幕は上がるのです。彼らが果たしてどんな方法で皆さんを救おうと言うのか?考えると興味は尽きません…」

嬉しくて仕方がないといった様子のジャンク。
シャンパングラスをライトに透かしている…

ジャンク
「…では皆さん、願わくば、皆さんに幸運の光が射さん事を…」

グラスを捧げ持つジャンク。
満面に慇懃な笑みを浮かべたその映像が切れる…

どよめきが起こる車内。
映像の途切れたモニターを見つめるリエ…

リエ
「そう何でもあなたの思い通りにはならないわ、ドクター・ジャンク…」


〜 つづく 〜

~ 初出:1996.09.02 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1996, 2009