SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー
RE:155
アメリカ合衆国。
ニューヨーク近郊、グッデンバーグ飛行場…

広大な滑走路が拡がる早朝の飛行場。
滑走路の片隅に建てられた巨大な格納庫の建物。

その大きな扉がゆっくりと左右に開き始め、格納庫の中から、牽引車が黄色の警告灯を点滅させながら、ゆっくりと前進を開始する。

その牽引車の背後に何か巨大な影が見える…

更に前進を続ける牽引車。
背後の巨大な影に、早朝の日の光が徐々に当り始める。

日の光を受けて、そのボディがきらきらとまばゆい輝きを発する。
ゆっくりと姿を現す巨大な機体。

滑走路。
牽引車に先導され、1機の巨大な旅客機が、早朝の滑走路に姿を現す。
凄まじいばかりの大きさである。

ずんぐりとした流線型の機体は、1930年代に全盛を誇った飛行船を想わせる。
機体に輝くWAA1070のマーク。

ワールド・アトランティック航空が誇る最新鋭の超大型ジェット飛行船、
「ブライトネス・オブ・クラウド(B.O.C.)」である。

ナレーション
「ワールド・アトランティック航空が、その社運を賭けて建造した最新鋭の超大型ジェット飛行船、それがこのブライトネス・オブ・クラウドである。飛行船の大量輸送能力と、ジェット機のスピードを合わせ持つブライトネス・オブ・クラウドは、機体内部に充填された新開発の不燃性比重可変ガス、ネオ・ヘリウムによって、機体揚力を得るという飛行システムを採用した、21世紀の飛行船、空の豪華客船である。そして今日、ブライトネス・オブ・クラウドは各界から招かれた招待客を乗せ、世界一周飛行へと出発する予定であった…」

朝焼けの空を背景に、朝の滑走路に浮び上がるB.O.C.の巨大な機体…

操縦室。
飛行機の狭いコクピットとは対照的なゆったりとした室内。
そこにはどこかノスタルジックなアールデコ調の装飾が施されている。

深々としたクッションのシート。
操縦席に着いたキャプテンと副操縦士。

と、背後の扉が開き、スチュワーデスが、優雅な金の縁取りの付いたカップに紅茶をついで運んで来る。
それを受け取るキャプテンと副操縦士。

スチュワーデス
「いかがです、キャプテン?」

キャプテン
「(カップを受取り)…ああ、ありがとう。」

スチュワーデス
「どうぞ。」

副操縦士
「(カップを受け取る)…ありがとう(キャプテンを見て)…いよいよですね、キャプテン。」

キャプテン
「(紅茶を一口飲み)…ああ、このブライトネス・オブ・クラウドには、全世界の注目が集まっている。無事、処女飛行が成功すれば良いが…」

副操縦士
「なあに大丈夫ですよ。コイツには最新の操縦システムが搭載されていますし、何重もの安全装置も備えています。このフネに限って心配なんて不要ですよ。」

キャプテン
「(うなずく)…船か…まさに雲の大海をゆく空飛ぶ豪華客船だな…」

海底。
暗い深海に何か明りが見える。

海底に穴が掘られ、その周囲でロボットや小型の無人潜航挺が忙しく動き回っている。

穴から深海作業用ロボットが出てくる。
そのパワーショベルの中にキラキラと輝く金色の塊。

金塊である。

海中に静止している大型の潜水母艦。
その艦首には大きなエンブレムが付けられている。

これぞ、ドクター・ジャンクの移動基地である万能潜水母艦、ブラウザスである。
その艦内では、モニターに先程の金塊発掘作業の様子が映し出されている。

モニター前のギャリソン・タバタ、ドクター・ジャンクを振り返る。

タバタ
「旦那様、金塊発掘作業、予定通り順調に進行しております…」

ジャンク
「…分かった。…フッフッフ、ゲンザブロウめ、まさかワシにこれほどの資金源があろうとは夢にも思うまい。」

モニターの映像を見つめながら、不敵な笑いを浮かべるドクター・ジャンク。

と、その隣りのモニター、先程からニュースを映していたモニターに奇妙な装置を手にした一人の男が映る。

その男を見て、モニターを凝視するジャンク。

アナウンサー
「…世界的な新映像技術開発の若き権威、ジョン・ラッセル博士が、またまた革新的な映像システムの開発に成功しました。今回のシステムは全く新しい立体映像システム「マックスベリー」と名付けられ、新開発の超速演算コンピュータとの連動で、空間座標を指定する事により、指定された空間上に任意のイメージを立体的に現出させるというものです…」

デモンストレーションの模様が映し出される。
男がその奇妙な装置を作動させると空中に球体が出現。
その表面が鏡面になったり透明になったり目まぐるしく変化する。

と、突然その形が変わり、流線型のロケットになる。
炎を噴き上げて辺りを飛び回るロケット。

しかし、次の瞬間。ロケットは犬に変わり、男の周囲を円を描いて走り回る!

アナウンサー
「…いかがでしょうか?この画期的な映像システム!マックスベリーは新しい映像エンターテインメントの未来を拓くシステムとして、映像製作関係者の熱い視線を集めています。また既に、グローバル・ピクチャー社がラッセル博士と契約を結んでおり、このシステムを導入した特撮大作、「ジュラシック・ズー」の製作発表を行っております。…ラッセル博士は、今日世界一周の処女飛行に出発するブライトネス・オブ・クラウドのゲストとしても招待されており、「ジュラシック・ズー」に主演が予定されている世界的な天才少女スター、エリカ・ハミルトンと共に、周囲の注目を集めそうです…」

ジャンク
「…面白い…これは面白い。……ブライトネス・オブ・クラウドか…」

昼。
ニューヨーク、マンハッタン。

街は異様な興奮に包まれている。
上空にはおびただしい数のジェットヘリが飛び交い、人々は道端に出て、一様に空を見上げている。そんな人々の頭上、ビル街に大きな影がゆっくりと拡がって行く…

マンハッタンの摩天楼の中でも一際偉容を誇るワールド・アトランティック航空本社ビル。その屋上部分には、B.O.C.の発着タワーが新たに設けられている。

本社ビルに向ってゆっくりと進むB.O.C.。
その機体はまるで空を泳ぐ鯨の様な優雅さである。

周囲を取材のジェットヘリが幾重にも取り巻いている。

操縦席。
キャプテンがコンソールのディスプレイ、コース照準機を見ながら発着タワーの正面に機体を合わせて行く。

B.O.C.の機首部分が開き、大型のドッキング・ロック・システムと搭乗用ゲートが現われる。
それに合わせるように、発着タワーのシグナルが総て青に変わる。

そのまま、ゆっくりと速度を落し、タワーにドッキングするB.O.C.。
ドッキング・ロックが固定され、搭乗ゲートのカバーが伸びてタワーの通路に連結される。

発着タワー。
高い天井を持つ豪華な装飾の吹抜けの到着ロビー。
正装をした男女で、ロビーは華やかな雰囲気に包まれている。

ロビー脇のウエイティング・バー。
弾けるような会話の渦の中、カウンターの隅に、華やかなこの場には不似合な、メタルケースを持った若い男。不興そうにオレンジジュースを飲んでいる。

その時、ロビーにアナウンスが流れる。

アナウンス
「皆様、大変お待たせ致しました。ブライトネス・オブ・クラウド、001便、ただ今より皆様方を機内へご案内致します…」

搭乗ゲート。
大理石の様な素材にメタルの装飾を施した大きな扉が、ドアマンによってゆっくりと開けられる。搭乗ゲートの周囲に歓声が起こり、正装した招待客達が次々に機内に乗り込んで行く。

一際大きな歓声が起こる。
それと共に、取材のカメラマン達が一斉にストロボをたく。

その中に笑顔で手を振りながら歩いて来る少女。

ナレーション
「エリカ・ハミルトン。日本人を母に持つ、アメリカの世界的少女スターである…」

次に、同じ様な歓声とストロボの瞬き。
ジョン・ラッセル博士である。

手を上げて歓声に応える博士。
と、先程のカウンターの若い男が、にこやかなラッセル博士を凝視している…


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.05.15 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018