SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(188L)
RE:366
タナカ家の居間。

夕食後の一時。くだんの新型テレビを囲み、くつろいでいるタナカ家の一同。テレビのニュースが、ワールド・アトランティック航空の新型ジェット飛行船「ブライトネス・オブ・クラウド(B.O.C.)」のニュースを映している。

アナウンサー
「ワールド・アトランティック航空がこの程就航させた世界初の超大型ジェット飛行船、ブライトネス・オブ・クラウドが今日、世界一周のワールド・プレミア・フライトに出発しました。ブライトネス・オブ・クラウドは、航空機としては初めて、機体にネオ・ヘリウム充填構造を採用した新型ジェット飛行船で、充実した機内設備は『空飛ぶ豪華客船』の異名をとっています(画面に映し出される豪華なキャビンやメイン・ダイニング)。今回のワールド・プレミアには、世界各国の著名人がゲストとして招待されていますが、中でも新映像システムを導入した特撮超大作『ジュラシック・ズー』の主演女優である天才少女スター、エリカ・ハミルトンと新映像技術開発の権威、フューチャー・ビジュアル・ラボのジョン・ラッセル博士は、周囲の注目を一身に集めています…」

取材のテレビカメラに囲まれ、カメラのフラッシュを浴びながらにこやかに笑顔で手を振り、B.O.C.に乗り込んで行くエリカ・ハミルトンやラッセル博士の映像が流れる。

ユキコ
「…いいわねぇ…空飛ぶ豪華客船で世界一周旅行…ゴージャスな雰囲気、素敵なお料理…夜毎のダンスパーティー…船上のロマンス…」

うっとりとした目付きをするユキコ。

その様子を見て、隣りのショウイチの表情に狼狽の色が…
それを見てリエ。

リエ
「…でも、高いわよ、きっと。(ショウイチを見てウインク)…ネ、お父さん?」

ショウイチ
「(リエの言葉に顔を輝かせ)…おお、そうだ!そうに違いない!ユキコ、やめときなさい、ウチの家計じゃムリだって。」

その言葉に空想を打ち砕かれ、憤慨するユキコ。

ユキコ
「(ムッとして)まったく、どーしてこんなにユメがないんだろう、ウチの家族は?」

憤慨するユキコに新聞を読んでいたゲンザブロウが、自信たっぷりに声をかける。

ゲンザブロウ
「…まあまあ、ユキコさん。がっかりする事はないぞ。なあに、大丈夫。いざとなれば、アース・ムーバーで世界一周すれば、総て解決じゃよ。ハッハッハ!」

ユキコ
「………………」

高笑いをしていたゲンザブロウ、ふとケンタの様子を見る。

さっきまでニャンコとじゃれていたケンタ、気が付くとニャンコを膝の上に載せ、何やら一心にテレビに見入っている。

ゲンザブロウ
「お?、どうしたんじゃケンタ?そんなに一生懸命テレビ観て?」

テレビを観るゲンザブロウ。

テレビでは丁度B.O.C.ワールド・プレミア・フライトのゲストとして注目を集める天才少女スター、エリカ・ハミルトンの特集が放送されている。

リエ
「(悪戯っぽく)…ケンタったらネエ、エリカ・ハミルトンが好きなんだから。」

リエの言葉にハッとするケンタ。見る見る耳元が赤くなる。

ゲンザブロウ
「ナニ!?ケンタ本当か?…う〜む、ケンタも隅に置けんのお。いつの間にあんな可愛いコを好きになっておったんじゃ?」

みんなの注目を浴びるケンタ。顔が真っ赤である。

ケンタ
「…ち、違うよ…オレ…」

リエ
「何言ってんのよ。昨日だって、お母さんの『週刊スクリーン』のポスター取っちゃったクセに。机の前に貼ってあるの見ちゃったんだから」

ユキコ
「え、アレ取っちゃったのケンタだったの!?(ケンタを見て)…ケンタ〜」

テレビを観ていたショウイチも、話に加わる。

ショウイチ
「ケンタ、そのコが好きなのは分かるが、それはいけないぞ。ちゃんと断らないと。」

リエ
「(おどけて)そうよ〜、お母さんに謝っといた方がいいわよ〜。」

ケンタ
「…………」

皆にせめられ黙りこむケンタ。顔を真っ赤にしてリエを睨む。
その目に涙が溢れる…

ケンタ
「………姉ちゃんのバカ!!」

居間を飛びだして行くケンタ!

膝の上のニャンコは突然畳の上に放り出されてキョトンとしている。

ユキコ
「…ホントに好きみたいね。…可愛そうなコトしちゃったかしら…」

ショウイチ
「しかし、相手が世界的な映画スターじゃな……『実らぬ恋』って奴か……」

リエ
「ま、これも良い経験よ。全く望みが高いんだから、ケンタの奴。」

そのリエの言葉に、呆れた様な表情を見せるユキコ。

ユキコ
「…(ため息をつきながら)…全く良いアネキねえ。可愛い弟の純情をもて遊んじゃって…後でちゃんとあやまっとくのよ。」

ユキコの言葉にペロリと悪戯っぽく舌を出すリエ。

ユキコはまたテレビに戻る。
丁度テレビでは再び、雲海を悠然と行くB.O.C.の優雅な姿が情感たっぷりに映し出されている。
うっとりとそれを眺める。

ユキコ
「…羨ましいなあ。あたしもあんな素敵な空の旅がしてみたいわ…」

ユキコの観ているテレビの映像が、実景にオーバーラップして行く…

薔薇色に染まる夕暮れの雲海。
その中をシルエットとなって、標識灯を点滅させながら悠然とB.O.C.が進む。

その機内。
機体最後部の展望ラウンジでは、折しもパーティーの準備が慌ただしく進められていた。

ずらりと並んだ白いクロースがけのテーブルに手際良く、優雅なB.O.C.のマークが刻印されたナイフやフォーク、キラキラと輝くグラスが並べられて行く。

天井まで届く大きな窓ガラスの外に、ゆっくりと暮れて行く薄暮の空が、雄大な眺めを映し出している…

キャビン。
重厚な木製のドアを開け、取材の記者から逃れる様にエリカ・ハミルトンが入って来る。ドアの外ではカメラのフラッシュがあちこちでたかれる。
バタンと大きな音を立てて背中でドアを閉める。

大きなため息をつくエリカ。
窓際の椅子にぐったりと腰を降ろし、窓の外、すっかり暗くなった雲の波をぼんやりと眺める。

と、テーブルの上に備え付けられたテレ・コミュニケーション・システムが鳴る。
ぐったりとした表情のエリカは、しかし、しばらく鳴らすにまかせておく。

だが、ベルは容易に鳴り止む気配がない。
仕方なく、ゆっくりと応答ボタンを押すエリカ。

モニターに映し出されたのはマネージャーのエリック・ビトーである。

ビトー
「ああ、エリカ。…どうした?少し顔色が悪い様だが…」

エリカ
「…ハァイ、エリック。大丈夫、少し疲れただけ…」

ビトー
「そうか…(元気に)さあ、それじゃあすぐ支度だ!すぐに夜のパーティーが始まるぞ。何たってキミは今回のワールド・プレミア・フライトのナンバーワン・ゲストなんだからな。」

エリカ
「…大丈夫。心配ないわ。」

ビトー
「(いたわる様に)…ならいいんだが。ここんところロクに休んでないしな。…オレもちょっとは気にしてるんだぞ。」

エリカ
「ありがとうエリック。…すぐに行くわ。」

ビトー
「ああ。」

コミュニケーション・システムを切る。再びぼんやりと窓ガラスに映る自分の姿を見つめるエリカ。

東京。
夜のビル街。一台のリムジンが路肩に駐車している。黒塗りの特注車である。

と、一人の男がそのリムジンに近付く。
ヘッドランプを点滅させ、男に合図するリムジン。

慌ててリムジンに駆け寄る男。
リムジンのウインドウが音もなく下がる。

乗っているのはドクター・ジャンクである。

ジャンク
「…インヴィテーション・カードは手に入ったのだろうな、ミスター・ゼットン。」

ゼットン
「もちろんですよミスター・ジャンク。…御覧下さい。」

懐から2枚のきらきらと輝く金属製のチケットを取り出す男。
B.O.C.の搭乗券である。

ジャンク
「おお、さすがはミスター・ゼットン。…良く手に入ったな。」

ゼットン
「友人に、ワールド・アトランティックに勤めている奴がいまして…東京からニューヨークまでのチケットです。」

ジャンク
「(チケットを受け取る)…うむ。B.O.C.のセキュリティ・システムは少しばかり面倒でな。…世話になったな。これは…(懐から何か取り出す)…ホンのお礼だよ、ミスター・ゼットン。」

金色をしたロボットのミニモデルを男に渡すジャンク。

ゼットン
「…これは…純金?…あ、あの…」

その途端、リムジンは男を残したまま、勢い良く夜の街に走り出す。
呆然とそれを見送るミスター・ゼットン。

ナレーション
「再び動き始めたドクター・ジャンク。今度は一体何を企んでいるのだろうか…」


 〜 つづく 〜

~ 初出:1994.05.21 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018