SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(175L)
RE:548
数日後。
東京湾臨海副都心。

快晴の青空の下、臨海副都心『なぎさシティ』の広いメインストリートは、群衆で埋め尽くされていた。

色とりどりの風船が配られ、上空にはアクロバット飛行のジェット編隊が白煙の尾を引きながら、青空にB.O.C.のマークを描いて行く。

華やかな雰囲気に包まれるなぎさシティ。

ナレーション
「東京湾上に作られた人工海上都市、なぎさシティ。今日はB.O.C.が東京に到着する日である。発着ポートが設置されたこのなぎさシティでは、B.O.C.の初寄港を祝して歓迎のパレードが行われていた…」

華やかに飾り付けをしたパレード・カーや、マーチング・バンドのパレードに、沿道を埋め尽くした観衆から歓声があがる。

道沿いのビルの窓にはパレードを一目見ようと人々が鈴なりに群がっている。
ビルの窓からは紙吹雪がパレードの一団に降り注ぐ。

その群衆の中に、科学捜査一課、ロボット・チームのリーダーの姿。

ナレーション
「ロボット・チームのリーダー、ワンディム。彼等、オオツカ警部率いる科学捜査一課のメンバー達も、ブライトネス・オブ・クラウドの寄港に備えて発着ポート周辺の警備に当っていた…」

しかし、ワンディムの姿を一目見ようとする群衆が集まり、往生するワンディム。

男の子
「あ、ワンディムだぁ!!(隣りの父親を振り返る)…ねえパパ、見えないよぉ、肩車してっ!」

父親
「…よおし、それっ!(男の子を肩車する)…どおだ、良く見えるか?」

男の子
「(父親を見て)ウン!ねえパパ、あれがワンディム。リーダーのロボットなんだよ。(ワンディムを見て)…凄いなぁ、カッコいいなぁ…」

ワンディムの姿に目を輝かせる男の子。
群衆に囲まれて身動きが取れず、困り果てるワンディム。

ワンディム
「みなさん、余り押し合うと危険です。どうか落ちついて……困ったなぁ、これじゃあ、警備にならない…(コミュニケーション・システムを作動させる)…トゥース、そっちの様子はどうだ?」

少し離れた発着ポートの巨大なタワーの下、2号機のトゥースの姿。
しかし、こちらも周囲に黒山の人だかりである。

トゥース
「ワンディム、こちら、観衆に周りを囲まれて凄い状況です。…どうしましょう?」

再びワンディム。

ワンディム
「そっちもか。…仕方がない、警部に連絡して指示を仰ごう。そのまま待機してくれ。」

トゥース(声)
「了解。」

回線を切り替え、オオツカ警部を呼び出す。

倉庫街。
その頭上には先日開通したばかりの、都心部となぎさシティを結ぶ巨大な吊橋、
ドリーム・ブリッジが架かっている…

駐車している一台のパトカー。
その側には3号機、サーディーの姿もある。

パトカーに乗っているオオツカ警部。
珍しくタキシードなど着込んで正装している。
パトカーのコミュニケーターが鳴る。応答ボタンを押す。

ディスプレイに『 Connected to "Wandym": Sound only selected 』と表示が出て、ワンディムの声が聴こえて来る。

ワンディム(声)
「警部、警部。」

オオツカ
「どうした、ワンディム?何かあったのか?」

ワンディム(声)
「はい。我々を見ようとする観衆が集まり、警備に支障が出ています。…どうしましょうか?」

オオツカ
「(微笑みながら)さすがのお前も、そういう状況は苦手らしいな?…まぁ、迷惑がらずに相手をしてやれ。…我々は「市民に愛される警察」を目指さなければならんのだからな。」

ワンディム(声)
「はぁ……」

オオツカ
「(にっこりと)お前達にも、たまにはそういう体験が必要だぞ。…私はこれからブライトネス・オブ・クラウドの機内を警備しなきゃならん、後はお前達にまかせるぞ。」

ワンディム(声)
「警部……(明るく)了解!」

コミュニケーターを切る。外のサーディーを見上げる。

オオツカ
「サーディー、お前もワンディム達を手伝ってやれ。…(微笑む)もっとも、ミイラ取りがミイラになる可能性大だがな…」

サーディー
「分かりました、警部。…しかし、その例えはこの場合、余り適切な表現ではないと思いますが?」

オオツカ
「お前は少し理屈をこね過ぎる傾向があるな。いいから行ってこい。」

サーディー
「(明るく)了解!」

パトライトを点滅させ、走り出すサーディー。

それを見送るオオツカ。

東京湾上空。
ぽっかりと浮かんだ綿雲の中から、B.O.C.がゆっくりと、その巨大な姿を現す。
徐々に高度を下げて行く。

初夏の日差しを受け、キラキラと輝く海が、その足元に広がっている。

白い航跡を引きながら貨物船が海を行く。
それが、まるでおもちゃの船の様である。

B.O.C.機内。
機体後部上層にある、強化ガラス張りの天井を持つサンルーム。
初夏の明るい日差しが燦々と降り注いでいる。

そのソファーに腰掛けたエリカ・ハミルトンとマネージャーのエリック・ビトー。

ビトー
「一体どうしたんだ、エリカ?ゆうべのパーティーにしたって、皆んなあんなに君を誉めてくれたっていうのに。キミと来たら、全然愛想がないんだからなぁ…」

グラスのジンジャーエールを飲むエリカ。
元気がない。

エリカ
「…そんなつもりじゃなかったんだけど…疲れてるのかしら?何だかこんな生活がイヤになっちゃって…」

ビトー
「何言ってるんだ?今や君はアメリカのみならず、世界を代表するスターなんだぜ。そんな素晴らしい生活の、一体どこが不満なんだ?」

エリカ
「御免なさい…」

と、サンルームに二人の男が入ってくる。
ジョン・ラッセル博士とその助手らしき若い男。

若い男はあのメタルケースを持っていた男である。

ラッセル博士
「全くキミって奴は!何でもっと早くそんな重要な事を報告しないんだ!」


「済みません、先生…」

ラッセル博士
「で、どうなんだ?ジェネレーターのラッセル管は、定期交換なしで後どれだけ寿命があるんだ!」


「…後…約3時間です…」

ラッセル博士
「3時間だと!……それじゃあ香港でのデモまでは、とても保たない…香港のショウ・シスターズ・ピクチャーとの契約が、どうなると思ってるんだ!君が一番良く知ってる筈じゃないか、マックスベリーは心臓部のラッセル管を、使用10時間ごとに交換しなきゃならんって事を!…それをスペアを忘れるなんて!…ワーゼス君、今度という今度は、私は本当に失望させられたよ!」


「…済みません……」

蚊の鳴くような声で応える男。その肩がわなわなと震えている。

ラッセル博士
「とにかく、すぐに研究所に連絡して、大至急スペアのラッセル管を手配したまえ!…まったくもう…」


「…分かりました……」

その様子を見ていたエリカとビトー。

エリカ
「一体どうしたのかしら?」

ビトー
「あれはジョン・ラッセル博士だ…何か問題でも起こったんだろうか?」

と、その時、サンルームにアナウンスが響く。

アナウンス
「お客様にお知らせ致します。当機は後しばらくで東京ターミナル・ポートに到着致します。現在、高度、速度共に下がっておりますので、しばらくの間、後方のエアロ・デッキをご使用頂けます。どうぞ、ご利用下さいませ。」

ドアマンがサンルーム後方のドアロックを外す。
その外側は展望デッキになっている。

デッキに出るエリカとビトー。
初夏の日差しがまぶしい展望デッキには心地よい風が吹いている。

手摺にもたれ、ぼんやりと風景を眺めるエリカとビトー。

ビトー
「ニッポン…君のお母さんの生まれた国か…」

エリカ
「ええ…」

二人の眺める先には、ぼんやりと霞む東京の街が見え始めていた…


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.05.22 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018