SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(180L)
RE:574
タナカ家。
B.O.C.の東京初寄港が、なぎさシティで盛大に歓迎されている、5月の良く晴れた日曜の昼前である。

静かな工場には5月の爽やかなそよ風が吹き抜け、片隅にはジャッキーが静かにたたずんでいる。

台所。
流しに置かれた洗い桶。古びた水道の蛇口からポタリと雫が落ち、桶に張られた水の表面に一瞬、丸い波紋を描く…

ケンタの部屋。
勉強机の前の壁には、エリカ・ハミルトンのポスターを留めていた、四隅の粘着テープだけがむなしく残されている。

座布団を枕に、畳の上でケンタが昼寝をしている。

と、入口からニャンコが入ってくる。
背を向けて寝ているケンタの背中に身体を擦り付け、かまってもらいたい様子。

だが、寝ていたケンタ、腕を伸ばしてニャンコの首筋を掴むと、クルリとニャンコの向きを変え、部屋の入口を向かせる。

ケンタを振り返り、一声鳴くニャンコ。

ケンタ
「ごめん、今遊びたくないんだよ…」

ケンタを見て、キョトンとした表情を見せるニャンコ。

台所。
昼食の買物からユキコが帰って来る。

その側にリエが来る。

リエ
「おかえりなさい。…ケンタ、サッカーの練習休んじゃったみたい…なんか責任感じちゃって、あたし。…ケンタがあんなに落ち込んじゃうなんて思わなかったわ…冗談のつもりだったんだけど…」

テーブルの上に買物カゴを置くユキコ。

ユキコ
「(微笑みながら)ま、ちょっと重傷かもネ。…でもケンタの事だから、もうちょっとしたら元気出すわよ、きっと。…あんたもあんまり気にしない方がいいわ。」

リエ
「ウン…」

ケンタの部屋。リエがそっと顔を覗かせる。

リエ
「…ケンタ?…起きてる?…」

寝ていたケンタ、背中を向けたまま応える。

ケンタ
「…うん…」

リエ
「…ゴメンネ…」

ケンタ
「…いいよ、もう平気…」

その返事に一瞬、困ったような、複雑な表情を見せるリエ。しばし考える。

リエ
「…ねえ、ケンタ?なぎさシティ行こうか?」

ケンタ
「え?」

リエ
「…確か、今日でしょ?飛行船が着くの?…それに、ひょっとしたらエリカを見られるかも知れないし…」

そのリエの言葉に、身体を起こすケンタ。リエを驚いた様に見る。

リエ
「(ニッコリと)…飛行船、見に行こうよ!」

ケンタ
「…姉ちゃん…(表情が輝く)…ウン!」

なぎさシティ。
東京湾を横断している長大な吊橋、ドリーム・ブリッジ。

その上方を、ゆっくりと通過するB.O.C.。
橋を行く自動車の運転手が一斉に上を見上げ、橋の上はたちまち大渋滞に陥る。

観光バスの窓には、ガラスにへばり着く様に上空のB.O.C.を見上げる団体客の姿。
そのバスの窓ガラスにB.O.C.の巨大な機体が、影となって映る。

操縦席。
窓の正面、前方に巨大な東京ターミナルポートの発着タワーが見えてくる。
コントロールと交信する機長。

キャプテン
「こちらWAA1070。トーキョー・コントロールどうぞ。只今よりドッキング体勢に入る。」

操縦席の窓ガラス。
そこには刻々と航路状況がディスプレイされている。
すると、その片隅にスクリーンが開き、コントロールの映像がディスプレイされる。

管制官
「こちらトーキョー・コントロール。了解、WAA1070。ドッキング準備よし。現在、北東の風3.1メートル。多少追い風だが、ドッキングには支障なし。…只今より気流補正データを転送する。」

副操縦士
「了解…データ受信準備よし。受信待機。」

管制官
「転送。…フィードバック、確認。」

副操縦士
「コントロール、こちらも受信を確認した。(計器を見て)…データ・チェック完了。(機長を見て)…キャプテン、補正済みデータを表示します。」

キャプテン
「よし。」

視界正面に入る発着タワー。
その動きと正面ガラス上のコンピュータ・ガイダンスゲージの動きが一致する。

発着タワー。
風速表示の電光掲示が3.1から2.8に変わる。
何箇所にも付けられている信号灯が順番に青に変わって行く。

なぎさシティ。
その上空に姿を現すB.O.C.の巨大な機体。

パレードに参加していた人々も、それを見物している観衆も、みな、空を、B.O.C.を見上げる。

人々からどよめきに似た歓声があがる。
街角のワンディムもカメラヘッドを上空に向け、B.O.C.の機体を捉える。

ワンディム
「…凄い大きさだ。裕に全長200メートルはある…(コミュニケーション・システムでトゥースを呼ぶ)…トゥース、ブライトネス・オブ・クラウドが現在こちらの頭上を通過中。後1、2分でそちらに到着するぞ。」

発着タワーの下、トゥースとサーディー。
相変わらず周囲を観衆に囲まれている。

トゥース
「…了解。(サーディーを見る)…気を抜くな、サーディー。いよいよ到着だぞ。」

サーディー
「もちろんです。…しかしトゥース、我々がこうしている以上、そう簡単に手出しは出来ないと思いますが?」

トゥース
「確かにな。だが、可能性はゼロじゃない…センサーの感度を上げておけよ。」

サーディー
「そうですねトゥース、貴方の論理にも一理あります。…(上空を見上げる)…どうやら到着した様です。」

周囲の観衆も一斉に空を見上げる。
周囲に大きな影が拡がり、B.O.C.の巨大な機体が発着タワーに近付いて行く。

B.O.C.の機首からドッキング・ロックが現われ、ゆっくりとタワーに近付いて行く。

操縦席。
慎重に機体のコントロールを行う機長。

スロットルレバーを慎重に操作し、発着タワーのドッキング・ゲートと機体を正対させる。

B.O.C.の機体。
その各所に装備された姿勢制御用の小型ジェットノズルが、コンピュータと連動し、せわしなくクルクルと向きを変えては、短時間ジェット噴射を行う。
ドッキング・ロック装置の爪が開いて行く。

操縦席。
発着タワーが操縦席の窓一杯に迫る。窓ガラス上のディスプレイには、適正コースが選択されている事を示す表示がチカチカと点滅している。

機体。
ゆっくりとドッキング・ロックの爪が、発着タワー側のフックを掴む。
ジェットノズルが、一斉に、シューッと音をたてて逆噴射する。

発着タワーに固定されるB.O.C.。
搭乗ゲートの幌が伸び、発着タワーに接続される。

続いて太いバッテリー・ケーブルや、飲料水のパイプが次々に発着タワーに向って伸び、接続されてゆく。

操縦席。

『Connective condition: NORMAL / All entry operation terminated.』

のディスプレイ・メッセージ。
総ての操縦システムをオフにする機長。ホッとした空気が操縦席に流れる。

キャプテン
「…よし、無事に接続したぞ。東京に到着だ。」

副操縦士
「お疲れ様でした、キャプテン。」

キャプテン
「君もな。さて、降りるぞ。」

機長は立上り、副操縦士の肩を、ねぎらう様に叩く。操縦席を出て行く二人。

到着ロビー。
B.O.C.の到着で賑わうロビー。その片隅にある深々としたソファーには、悠然とした面持のドクター・ジャンクとギャリソン・タバタの姿。

ジャンク
「(タバタを見て)…ラッセルの部屋は調べてあるな?」

タバタ
「はい。先程、ワールド・アトランティックの予約システムから、情報を引き出してございます…」

ジャンク
「よし。…(笑みを浮かべながら)…マックスベリー、面白い事ができそうだ…」

不気味な笑いを浮かべるドクター・ジャンク。


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.05.28 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018