SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(167L)
RE:730
B.O.C.の機内。
レセプション・カウンター前のロビー。

ソファーが並べられたロビーの中央には、白い、水芭蕉に似たカラーの花が、直線的な装飾に彩られた大きなガラス花器に生けられ、華やかな雰囲気を醸し出している…

壁際、少し暗くなっている端のソファーに、散々ラッセル博士の文句を喰って意気消沈した、博士の助手、ルディー・ワーゼスの姿。頭を抱え込んでいる。

側を通りかかる男。…機内を警備しているオオツカ警部である。
ワーゼスに声をかける。

オオツカ
「…大丈夫ですか?どこか具合でもお悪いんですか?」

ワーゼス
「…済みません…何でも…ないんです…」

ワーゼスの隣りに腰を降ろすオオツカ。

オオツカ
「…(ワーゼスを見て)…どうしました?こんなに素晴らしい旅行を楽しんでおられるというのに…」

ワーゼス
「(しばらく躊躇する)…実は…コイツのせいなんです…」

ソファーの脇から例のメタルケースを取り出す。ケースを開く。

中にある奇妙な装置。
巨大な真空管に似た、奇妙な形のガラスチューブを中心に、繊細なメカニズムがその周囲を取り巻いている。

マックスベリー・システムである。

その装置に驚くオオツカ。

オオツカ
「それは!?…もしやそれは、『マックスベリー・システム』ではないのですか?」

その言葉にハッとするワーゼス。
慌ててケースの蓋を閉め、怯えた様な目付きでオオツカを見る。

ワーゼス
「…あなた、何故そんな事を…」

そのリアクションに、慌てるオオツカ。身分証明書を見せながら…

オオツカ
「あ、イヤ、別に怪しい者じゃありません。私は日本の警視庁のものです。普段は科学犯罪対処を専門にやってますんで、こういった情報には早耳でしてね。…よろしければ、お話うかがいますよ。」

ワーゼス
「(身分証明書を見る)…こ、これは…済みません。てっきり…」

話しを続けるワーゼスとオオツカ。
しかし、そのすぐ斜め後ろのソファー、ドクター・ジャンクとギャリソン・タバタが二人の姿を見ている…

ジャンク
「タバタ、アレを見たか…」

タバタ
「はい、旦那様。」

ジャンク
「フッフッフ、奴は恐らくラッセルの助手だな…ラッセルめ、うまく隠したつもりだろうが、却って捜す手間が省けたというものだ。…(タバタを見て)…あの男をマークするんだ。」

タバタ
「かしこまりました…」

胸ポケットから、細かい細工の入った銀のケースを取り出すタバタ。
丁度シガレットケース位の大きさである。蓋を開く。

中には、紺のビロードの上に、全長1cm程の機械仕掛の蜂が入っている。
その身体のあちこちで幾つもの歯車が複雑に動く。

次の瞬間、蜂は羽根を震わせると、羽音と共に飛び立って行く…

東京駅。
八重洲口広場に設けられた新交通システムの駅。
なぎさシティ行の新交通システム、『なぎさライナー』の始発駅である。

なぎさシティへ向おうとする人々で混雑するホーム。
その雑踏の中に、B.O.C.を見物に行くリエとケンタの姿もある。
小型のリニアモーターカーが到着、ホームの人々が乗り込む。

車内。
窓際に席を取ったリエとケンタ。

この処元気がなかったケンタも、ひょっとしたらエリカ・ハミルトンの姿を見ら
れるかも知れないという期待に、何時もの明るさを取り戻している。

リニアモーターカーはやがて、東京湾沿いを走る。
左手に海が広がり、なぎさシティと都心とを結ぶ、巨大なドリーム・ブリッジの
姿が見え始める。

ケンタ
「(窓の外を指さし)ねえ、見て!ドリーム・ブリッジだ!」

リエ
「(ケンタの指さす方向を見て)…ホントだわ。」

ドリーム・ブリッジの巨大さに目を輝かせるケンタ。
その様子を見ているリエは、どこかホッとした様子である。

列車はやがて、ドリーム・ブリッジの橋桁部分に設けられた軌道を通り、なぎさシティへ入って行く…

B.O.C.機内。
廊下を、メタルケースを持って歩くワーゼス。

その後を、ジャンクの機械蜂が小さな羽音を立てながら追っている。

少し離れた廊下の角。
腕時計型のモニターを付けたタバタ。機械蜂からの映像をモニターしている。

タバタ
「旦那様、あの方はラッセル様のお部屋へお入りになられましたが?」

ジャンク
「分かった。…ラッセルも一緒とは好都合だ。…それでは、そろそろ交渉と行くか…」

つかつかと廊下を歩き出すジャンク。それを慌てて追いかけるタバタ。

ラッセル博士のキャビン。
博士が研究所とテレ・コミュニケーターで通話している。

入ってきたワーゼス、そのまま入口に立っている。

ラッセル
「…ああ、そうだ。至急予備のラッセル管が必要なんだ。何とか手配できないかね?」

通話の相手は、どうやら研究所の女性スタッフの様である。

スタッフ
「…とりあえず、研究所に後2本ストックがありますけど…今日発送したとしても、そちらに届くのが4日後になりますが?」

ラッセル
「4日?…それじゃ、とても間に合わん…(ひらめく)…そうだ!君、香港へ行った事はなかったね?…どうだろう?香港へ出張せんかね?ラッセル管を運んで欲しいんだよ。」

スタッフ
「私が!?…しかし、そんな…」

ラッセル
「頼む!この通りだ!(ディスプレイの前で、お祈りをする様に手を組み合せる)…もはや香港での契約の運命は、君の働き如何にかかっているんだ、頼む!!」

スタッフ
「(諦め顔で)…分かりました、私がラッセル管をお届けします。」

ラッセル
「いやあ、ありがとう!!じゃあ、香港のインペリアル・ホテルで落ち合おう!」

コミュニケーターを切る。ドアの側に立つワーゼスを見る。

今までとは打って変わった不機嫌な様子。

ラッセル
「(ワーゼスを見て)…そんな目で私を見るな!…確かに、ラッセル管の基本原理は君の発見に寄る処が大きい…しかし、この研究は私のアイディアだ!君はおとなしく私の指示に従っていれば良いんだよ!」

ワーゼス
「…私は…別に…」

睨み付けるようにワーゼスを見るラッセル博士。

と、その時、ドアがノックされる。
不機嫌な声で応えるラッセル博士。

ラッセル
「…ハイ!」

ドアが開いてジャンクとタバタが入って来る。

ラッセル
「…何です?あなた方は!?」

ソファーにゆったりと腰を降ろすジャンク。

ジャンク
「クライアントですよ、マックスベリーの。」

ラッセル
「エッ?それでは、こちらのシステムを導入して頂けるんですか?」

思わず顔がほころぶ博士。先刻までの不機嫌さはどこへ、愛想良く応える。

ジャンク
「いや、原理そのものを頂きたい。」

ラッセル
「(表情がこわばる)…冗談も休み休み言いたまえ!マックスベリーは映像の提供こそすれ、機材のスペックや原理は一切非公開だ。そんな事はできない!」

ジャンク
「カネならいくらでも用意するがね?」

ラッセル
「ダメだ、…帰ってくれ!」

ジャンク
「…交渉決裂ですな、ラッセル博士?…残念です…」

突然懐から小型の防毒マスクを出すジャンクとタバタ。
その途端、部屋を飛んでいた機械蜂が爆発!部屋中に白い煙が立ち込める!
火災報知機が鳴り出す。


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.05.29 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018