SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(200L)
RE:193
海上。
B.O.C.の機体から下がったケーブルで、辛うじて海へ落ちずに済んだエリカ。

しかし、エリカの体を支えるおびただしい量のケーブルは、それを支えている細い通信アンテナをその重みで折り曲げ、根元から折ってしまおうとしていた…

ケーブルが強い風にあおられ、ギシギシと嫌な音をたてている…

ゆらゆらと揺れるケーブル。

エリカはケーブルに挟まれた左腕を抜こうと、努力を続けていた…

エリカ
「…落ち着いて…慎重に…」

徐々に腕に力を込め、はさまれたケーブルから腕を抜こうとする…

しかし、少し腕を動かした瞬間、ケーブルの束全体がアンテナの先端に向ってズレる!

再び、ガクッと大きく一段下がるケーブル!

エリカ
「キャッ!!……(上を見上げ)…ダメだわ、無理に抜こうとすると、ケーブルごと海へ落ちちゃう…」

ゆっくりと大きく揺れるケーブルを見つめるエリカ…

プテラノドン操縦席。
狭いコクピットの中央には、今や完全に動作を停止したラッセル管が、その内部に真っ黒な煙を込めたまま、輝きを失って空しく取り残されている…

その周囲では先程からジャンクとタバタが必死に装置の調整を続けていた…

ジャンク
「(タバタを見て)…これでどうだ?出力レベルは上昇したか?」

タバタ
「ダメでございます、旦那様。…全く上昇致しません。」

ジャンク
「…う〜ぬ、やはり完全にマックスベリー・システムの機能は停止してしまった様だ…(ラッセル管を振り返り)…しかし、あれ程ラッセル管が短寿命だったとは…私とした事が、どうやらマックスベリーの能力を過大評価していた様だな…」

タバタ
「(心配そうにジャンクを見る)…旦那様…」

ジャンク
「(タバタを見て)…止むを得ん、このまま作戦を続行する!…マックスベリーなどなくても、このメタモールの性能がいかに高水準かを、彼奴等に思い知らせてやるのだ!…行くぞ、タバタ!」

タバタ
「かしこまりました!」

再び操縦席に付く二人。
ジャンクは操縦席の両側にあるコンソール・パネルを、まるでピアノで音楽を奏でる様に叩き始める…

ジャンク
「見ておれ…」

上空。
マックスベリーの停止によって、メタモールはその本来の姿を空中に現わしていた。

その体は無数の関節に区切られ、外装を被う銀色の金属が、鏡面の様に周囲の風景を反射している。

身体中を被う関節が、どこか巨大な節足動物を連想させる…
微かなジェットの噴射音をさせながら、空中に静止しているメタモール。

だが、次の瞬間、無数の関節が波を打つ様に動くと、メタモールはその姿を再び変え始める…

プテラノドンの翼は縮み、新たに背中から大きな翼が生え、長い首と尾を持つ姿に変わって行く…

メタモールの突然の変化を見守るラピッド・スター。

ケンタ
「(指さし)姉ちゃん、アレ!」

リエ
「…アレがアイツの正体なの…」

更に変化を続けるメタモールの機体…

ケンタ
「…(驚愕した様子で)…す、すげえ……(ハッとして)…竜だ!アイツ、竜になった!」

遂にメタモールは銀色の巨大な竜の姿に変わる。

傾き始めた夕方の太陽を受け、その鏡面の様な外装が、キラキラとまぶしい輝きを発する…

切り裂く様な電子音の咆哮を上げると、銀色の竜は巨大な翼を一杯に広げ、ジェットの炎を片脇腹から噴き上げながら、ラピッド・スターに向って一直線に上昇を始める!

ドリーム・ブリッジ。
エンジンから黒煙を噴き上げたまま、B.O.C.が橋桁に機首を押し付け、機体を斜めにしている…

きしむ様な音が周囲に轟き、時折バラバラと橋桁から鉄骨が落下する…

突然、B.O.C.の機体がガックリと沈む!
揚力の低下したB.O.C.は、もはや墜落寸前だ。

そのB.O.C.に、エンジンの轟音を響かせながら、ゆっくりとアース・ムーバーが接近する。

アース・ムーバーコクピット。
慎重にスロットルを調整するユキコ。

コミュニケーターのスイッチを入れる。
モニターにランド・チャレンジャーのゲンザブロウが映る。

ユキコ
「ユキコです。現在、飛行船の真上に接近中。これから飛行船の機体にアンカーを打ち込んで、引き上げてみます。」

ゲンザブロウ
「(うなずく)…頼みましたよ、ユキコさん。少しばかり乱暴かも知れんが、この際、悠長な事は言っておれんからな。」

ゲンザブロウの言葉に緊張した表情でうなずくユキコ。
と、モニターの中、ゲンザブロウの脇からショウイチが顔を覗かせる。

ショウイチ
「(おどけた調子で)…おいおい、あんまり緊張するなよ、らしくもない。…そんなに緊張するとミスして飛行船壊すぞぉ。」

ユキコ
「(悪戯っぽく)…あたしはあなたと違って、チャンスに強いんですからね〜だ!まかせなさいって!(微笑む)」

ショウイチの言葉で少し緊張が緩むユキコ。
ほっとした表情。

と、モニターの中では…

ゲンザブロウ
「(ショウイチを見て)コラ、何ユキコさんにチョッカイ出しとるんじゃ!ジャンクのロボットが正体を現わしおった!すぐにスキャンの準備をせんか!」

ショウイチ
「(慌てて)は、ハイハイ!」

その様子を見て、思わず吹き出すユキコ…
アンカー発射の準備をしようと、モニターでB.O.C.の機体をアップにする。

と、機体の亀裂から出ているおびただしいケーブルにつかまった人影を見つける。

ハッとするユキコ、モニターカメラの倍率をアップする。
少女の表情がアップになる。

疲れ切った表情のその少女の顔が、モニターに大写しにされる。

ユキコ
「あれは!?……エリカ?…エリカ・ハミルトンだわっ!!」

上空。
メタモールの変形した銀色の巨大な竜が、ラピッド・スター目がけて一直線に上昇して来る!

ケンタ
「姉ちゃん、来たっ!」

そのケンタの声を聞くが早いか、リエは操縦捍を一杯に左に切り、竜の攻撃をかわす!

ラピッド・スターはその機体に夕日をきらめかせ、身を翻すと一気に降下してゆく。

攻撃をかわされた竜は、そのまま高空まで上昇しきるや否や、その長い体を空中に投げ出す様に身をくねらせ、ラピッド・スターを追って降下を開始する…

ケンタ
「また来たっ!…(リエを振り返り)…どうしよう…どうやったら奴を倒せるんだ!?」

リエ
「そんな事、こっちが聞きたいわよっ!」

リエはそう言うと、スロットル・レバーを更に引き、一段とスピードを早める!

急降下を続けるラピッド・スター。
見る見る海面が迫って来る!

ケンタ
「うわーっ、姉ちゃん!海に突っ込むっ!!」

ラピッド・スターを猛スピードで追跡する竜!
迫る海面!

リエ
「コイツーッ!!」

正に海面に突入しようというその瞬間、リエは思いきり操縦捍を引き、ラピッド・スターの機首を立て直す!

ラピッド・スターのエンジンが海面を打ち、凄まじい水柱が立つ!

機体に限界に近い力が加わり、翼の先端からは空気の抵抗が摩擦熱となって、真っ白な航跡を紡ぎ出して行く!

海面すれすれから、体勢を立て直すラピッド・スター!
ラピッド・スターを追跡していた竜は、しかしその大きさが災いし、ラピッド・スターの動きを追い切れず、そのまま海面に突っ込む!

巨大な水柱があがり、周囲に大波が渦巻く!

ケンタ
「やったぞ!すげーや、姉ちゃん!!」

ケンタの歓声を聞きながら、ほっと息をつくリエ。
と、コミュニケーターからユキコとゲンザブロウの会話が聴こえて来る…

ユキコ
「…ええ、ケーブルに女の子が掴まっているんです、それが…エリカ・ハミルトンそっくりなんです。」

ゲンザブロウ
「…何じゃと!?…で、何とか助けられんのか?…」

ユキコ
「…それが、アース・ムーバーでは機体が大きすぎて…」

その会話にハッとするケンタ。

リエもその会話に気付き、ケンタを見る。
うつむいているケンタ…

リエ
「(ケンタを見て)エリカさんが危ないわ、ケンタ、すぐ助けに!」

ケンタ
「(うつむいて)…でも…」

リエ
「ケンタ……いいの?それで!?」

ケンタ
「………」

リエ
「ケンタ!」

ケンタ
「(リエを振り返る)…ゴメン、姉ちゃん…オレ…(心を決める)…行こう、エリカさんを助けにっ!」

リエ
「(明るく)うん!!行くわよっ!!」

夕暮れの空を、ジェット噴射を輝かせながらラピッド・スターがB.O.C.目がけ、一直線に光の尾を引きながら飛んで行く…

海面。
メタモールの沈んだ海面。突然海面が不気味な発光をし始める。
大きな水柱を噴き上げ始める海面…


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.07.16 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018