SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(198L)
RE:276
海上。
夕日が、海を黄金の色に染め上げている…

しかし、周囲に吹き付ける風は次第にその強さを増し、ケーブルに渦を巻く不気味な風鳴りが、エリカの不安を一層かきたてていた…

ゆらゆらと大きく揺れ続けるケーブル…

突然、上の方で大きな音がする!
再びガクリと大きく一段下がるケーブル!

ハッとして上を見上げるエリカ!

見るとケーブルを支えている細いアンテナは、根元に大きな亀裂が入り、ゆっくりと折れ曲がり始める!

エリカ
「(怯えた様に)…アンテナが…」

きしむ様な音を立ててゆっくりと折れ曲がるアンテナ。
ケーブルがズルズルと、アンテナの先端に向って滑べり始める…

思わず眼を閉じるエリカ!
その時、エリカはすぐ近くでジェットの噴射音がするのに気付く。
ゆっくりと眼を開く…

そこにはラピッド・スターが、夕日にその機体をきらめかせながら、空中で静止
している…

その姿に、安堵と、今までの恐怖とから、一気に緊張の糸が切れるエリカ…

エリカ
「(涙を流しながら)…ラピッド・スター……(嬉しそうに)ケンタ君…」

だがその瞬間、再び大きく下がるケーブル!

コクピット。

ケンタ
「(ハッとして)ケーブルがっ!エリカさんっ!!」

リエ
「ケンタ、早くっつ!!」

反射的にマニピュレート・アームを出すケンタ!
遂にアンテナが根元から折れる!

ケーブルの束もろとも、エリカは海面めがけて真っ逆さまに落下する!

その瞬間!

間一髪ケーブルの束をマニピュレート・アームで掴むラピッド・スター!

しかし、何とかケーブルを掴んだラピッド・スターだったが、マニピュレート・アームではケーブルをしっかり掴む事ができず、ケーブルはゆっくりとずり落ち始める…

ケンタ
「ダメだ、やっぱりうまく掴めない!…(決意する)…くそぉ、こうなったら!」

突然シートベルトを外し、キャノピーガラスの開閉スイッチを入れるケンタ!

キャノピーガラスがゆっくりと開き、コクピットに潮風が吹き込んでくる。
操縦席を立ち、機外へ出るケンタ。

リエはその様子に慌てる。

リエ
「ケンタやめなさいっ!無茶よ!」

ケンタ
「(リエを振り返り)機体をできるだけ安定させて!…行くぞっ!!」

リエ
「ケンタ!!」

強い風の中、マニピュレート・アームを伝い、ケーブルを掴んでいる手の部分にたどり着くケンタ。

ケーブルを見る。

ケーブルはゆっくりと、しかし確実にマニピュレート・アームから抜け落ちようとしている…

アームの上に腹這いになり、エリカの方を見るケンタ。

ケンタ
「エリカさんっ!!(腕をエリカに向って伸ばし)…早く、オレの手につかまって!」

エリカ
「(ケンタを見上げ)…ケンタ君!」

ケンタの差し出した手に向って、思いきり右手を伸ばすエリカ!
ケンタの手を掴むエリカの手!

その瞬間、マニピュレート・アームからケーブルが、海へ向って真っ逆さまに滑り落ちて行く!

ケーブルが大きくうねる!

一瞬、左腕を挟んでいた太いケーブルの間に隙間が出来る!
すかさず腕を抜くエリカ!

眼を閉じたエリカの横を、キュルキュルと音を立てながら、ケーブルが海へ向って落下する!

ケンタの差し出している腕一本で体を支えているエリカ…

エリカ
「(ケンタを見上げ)…ケンタ君…」

しかし、腕1本でエリカを支えているケンタは、もう限界の様子。

ケンタ
「うわーっ!…(苦痛に顔を歪めながら)…姉ちゃん、急いでーっ!…早くっ!!」

リエ
「待ってて、もう少しよ!」

ラピッド・スターを発進させるリエ。
ショックを与えないように慎重に操縦する。

緊張でリエの額にも汗がにじむ…

海上を低空で飛行するラピッド・スター。
そのまま埠頭の広場の上に来る。

しかし、既にケンタの腕には感覚がなくなりつつあった…

ケンタ
「姉ちゃん、早くーっ!!……もう…ダメだあっ!!」

遂に手を離してしまうケンタ!

が、その瞬間、エリカの脚が地上に着く…

リエ
「(おどけた様に)ハイ、到着!…(ケンタを見て)…どう?ちゃんと間にあったでしょ?ケンタ。」

ケンタ
「(ガックリと)…シぬぅ…」

ばったりとうつ伏せになるケンタ。しばらく肩で息をしている。

エリカ
「(ケンタを見上げて)…ケンタ君……ありがとう…(泣き出す)…」

顔を上げるケンタ。少しテレた様に…

ケンタ
「エリカさん…(にっこりと)…約束したでしょ、必ず守るって…」

エリカ
「ケンタ君……(涙を拭き、にっこりと大きくうなずく)…ウン!!」

と、周囲に轟音が轟く!
ハッとしてその音の方向を見る3人。

と、ドリーム・ブリッジのB.O.C.目がけて、上空のアース・ムーバーがアンカーを打ち込んでいる。

最大出力でジェット噴射をしながら、徐々にB.O.C.の巨体をドリーム・ブリッジから引き離すアース・ムーバー。

B.O.C.をワイヤーで支えながら、ゆっくりと移動を開始するアース・ムーバー。

ケンタ
「すげえ!いいぞ母ちゃん!!」

と、ラピッド・スターの側にランド・チャレンジャーがやって来る。
降りるゲンザブロウとショウイチ。

ゲンザブロウ
「(エリカを見て)…おお、皆んな無事じゃったか、良かった良かった!」

リエ
「…でも、あの竜はまだやられた訳じゃないわ。」

ケンタ
「(ゲンザブロウを見て)…そうだよ!アイツ、ラピッド・スターの攻撃が全然通じないんだ!…爺ちゃんオレ達、一体どうすればいいんだ?」

ショウイチ
「…(ゲンザブロウを見て)…お父さん…」

ゲンザブロウ
「…(ショウイチを見てうなずく)…そうじゃな…(リエとケンタを見て)……まだテストも済んでおらんのじゃが…ラピッド・スターの新兵器を使ってみるかの?」

リエ/ケンタ
「(驚いて)新兵器!?」

ケンタ
「(不満気に)…爺ちゃん、何だよ!そんなのがあるんだったら早く教えろよぉ!」

ゲンザブロウ
「(苦笑して)…まぁ、そんなに怒るな。いくら新兵器とはいえ、闇雲に撃ったところで効果があるものでもない。」

ショウイチ
「そうだぞケンタ。やっとアイツの構造が分かったんだからな。」

ケンタ
「ウン…」

ゲンザブロウ
「(コクピットのリエを見上げ)…リエ、コンソール・パネルの右端にカバーのついたボタンがあるじゃろ?押してごらん。」

リエ
「(コンソールを見て)…これね。」

カバーを開き、ボタンを押す。
ラピッド・スターの機体下面が開き、大型のビーム砲が現われる。

ケンタ
「すっげ〜っ!!」

ゲンザブロウ
「(自慢気に)…名付けて『グラン・マキシマイザー』じゃ!コイツは今までのパルスビーム砲と比べても15倍の威力がある。…但し、ラピッド・スターの出力ではエネルギーチャージに時間がかかる…つまり次に発射するまでに、45秒間のエネルギーチャージが必要という訳じゃ。それにコイツを使用すると、ラピッド・スターのエネルギーを急激に消耗する。その事を良く考えて使うんじゃぞ。」

リエ
「分かったわ!」

と、ラピッド・スターのレーダーシステムが、急速に接近する飛行物体をキャッチする!

リエ
「来たわ!!…(ケンタを見て)…行くわよっ!!」

ケンタ
「うん!!」

マニピュレート・アームを伝い、コクピットに乗り込むケンタ。
ショウイチ、エリカを見て。

ショウイチ
「え〜と、エリカさんでしたっけ?」

エリカ
「…ハイ。」

ショウイチ
「あなたは私達と一緒にランド・チャレンジャーに乗って下さい。ここにいるのは危険ですからね。」

エリカ
「分かりました。」

ランド・チャレンジャーに乗り込むゲンザブロウ、ショウイチ、そしてエリカ。

垂直上昇を続けるラピッド・スターコクピット。
グラン・マキシマイザーの照準を調整するケンタ。

ケンタ
「行くぞっ!!」


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.07.17 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018