SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(154L)
RE:790
太平洋上。
晴れ渡る夏空に、真っ白な積乱雲が浮かんでいる…

その雲の下、穏やかな海上にドクター・ジャンクの大型潜水母艦、ブラウザスの姿。
ジャンクのキャビンでは、先程からドクター・ジャンクが何やら通信ターミナルを操作して人工衛星から情報を引き出している。
鼻歌混じりで御機嫌のジャンク。

ターミナルの透明なディスプレイガラスには、人工衛星からの画像が表示される。
次々に現われる島の画像。

ジャンク
「…う〜む、仲々良い条件の島が見つからんなぁ…(キーボードを叩く)…仕方がない、次のデータをと…」

ターミナル・ディスプレイ。
ディスプレイに一瞬、

『Please wait... Connected to the satellite "VEGA" that belongs to U.S.SPACE.』

と表示が出た後、アメリカ軍の探査衛星、ベガのデータベースに接続される。

再びキーボードを叩き、表示されている海図から範囲を指定する。
すると、また別の島の画像が表示される。周囲に広い砂浜を持つ小さな無人島。

ジャンクの目に興味の表情が浮かび、島のデータに目を通す。

ジャンク
「…ここだ!ここに決めたぞ!」

ニヤリとするジャンク。と、その時、部屋の扉がノックされる。

ハッとするジャンク。ドアの外からギャリソン・タバタの声が聞こえてくる。

タバタ
「…旦那様、ご昼食の支度が整いましてございます…」

その声に、慌ててターミナルを片付けるジャンク。無理に平静を装った調子で。

ジャンク
「…う、うむ分かった。今行く。」

チラリと部屋の隅に目をやるジャンク。そこには大きな皮の旅行鞄が…

ダイニングルーム。
重厚な木製のテーブル。
白い布のテーブルクロスがかけられ、見事な銀製の食器が並べられている。

ジャンクが席に着こうとすると、タバタがすかさず椅子を引いて促す。
ジャンクは席に着くと無造作にナプキンを取り、襟元にねじ込む。

タバタがジャンクのグラスにワインを注ぐ。
そわそわと落ち着かない素振りのジャンク。

タバタがジャンクの前にスープ皿を置き、スープを注いで行く…

ジャンク
「…あの、…あのだな、タバタ。」

スープを注いだタバタ、ジャンクを見る。

タバタ
「…どうなさいました、旦那様?」

ジャンク
「あ〜、そのだな…(妙に明るく)…人間、時には息抜きと言うものが必要だとは思わんか?」

タバタ
「(怪訝な表情でジャンクを見ながら)…それは、そうでございますが…」

ジャンク
「…(言い聞かせる様な口調で)…気分転換によってこそ、偉大なアイディアは生まれるのだぞ。」

タバタ
「(怪訝そうに)…おっしゃる通りでございます…」

ジャンク
「(我が意を得たりといった表情で)そうだろう、お前もそう思うだろう!…そこでだ、私はこれからしばらくバカンスに出かけてくる。」

タバタ
「(呆気に取られて)…あの…旦那様?」

ジャンク
「(遮る様に手を出し)…いや、何も言うな!分かっておる。私がいない間、このブラウザスの指揮はお前にまかせる!君の手腕を存分に発揮して、このブラウザスを指揮してくれ給え!いや、良かったなぁタバタ!」

タバタ
「…では、私めにバカンスは頂けないのでございますか?」

ジャンク
「君がバカンスを楽しめないのは確かに私もツラい。しかしだ、この大役を任せられるのはタバタ、君を置いて他にはいないのだ!…やってくれるねタバタ君!…じゃ、明日の朝出発するから。…(にこやかに)…いやぁ、君の作るカボチャの冷たいスープは何時も素晴らしい味だなぁ!」

ジャンクにケムに巻かれ、不服そうなタバタ。

その頃、日本のタナカ家では…

玄関。
どこからか日暮らしの鳴き声が聴こえて来る…

干からびた『釣りしのぶ』と風鈴。
相変わらずピクリとも動かない…

居間。
ちゃぶ台を囲んで夕食の最中。
その一同を取り囲む様に、家中の扇風機が動員され、盛んに首を振りながら部屋の中の熱風をかき回している…

何故か、タナカ家の夕食は「そうめん」である…

ショウイチ
「(ユキコを見ながら)オイ、確か昼もソーメンじゃなかったか?」

ユキコ
「(不満気に)だって、皆んな暑くて食欲ないって言うんですもん。」

ショウイチ
「しかしだなぁ…毎食そうめんってのはだなぁ」

ふと、ケンタの方を見るショウイチ。
見るとケンタが箸でそうめんをぶら下げ、そのぶら下がったそうめんを、ニャンコが食わえて食べている。

ショウイチ
「(ケンタを見て)あ、やめなさい、そんなの食わすとニャンコ腹こわすぞ!…(ユキコを見て)だからだなぁ、いくら食欲がないからと言ってだなぁ…」

ケンタ
「父ちゃん、何でウチにはクーラーがないんだよぉ!」

ショウイチ
「(突然の突っ込みにたじろぐ)…あ?ナンダ、ケンタ?」

ケンタ
「クラスでウチだけだゾ、21世紀にもなってクーラーがないのって!シーラカンスって言われてんだからナ、ウチ。」

ショウイチ
「シーラ…何だって?」

リエ
「シーラカンスよ。生きている化石…」

ショウイチ
「化石…」

ゲンザブロウ
「(笑いながら)…化石は良かったのぉ。…この辺りは再開発地域にも漏れたし、地域冷暖房システムの工事もされておらん。今時珍しい場所じゃ。まぁ、我が家の場合、その内になんて思っとる内に、すっかり取り残されてしまったという訳じゃな。…確かに今年の暑さはチトこたえるからのぉ、(ショウイチを見て)いよいよ考えんとイカンかも知れんな?」

ショウイチ
「ウウウ、何で話がこういう展開に…(ゲンザブロウを見て)…お父さんまでナニ言ってるんですか、元はと言えば、お父さんがここまで先送りにするから、息子の私がいわれのない非難を!」

ゲンザブロウ
「(ムッとして)何じゃと…」

ユキコ
「(苦笑いしながら)あ、マァマァ二人共…」

と、ついていたテレビのニュース。

アナウンサー
「今日も日本列島は厳しい暑さに見舞われました。今日も最高気温が38度を越えた東京では、クーラーの故障によって5人が軽い脱水症状にかかり、病院に収容されました…この記録的な暑さはしばらく続き、気象庁では昼間はなるべく外出を控える様にと、呼びかけています…」

一同の視線が知らず知らずの内に、ショウイチに集まる。

会話が途切れ、扇風機の羽根の音だけが、居間に響く…

ショウイチ
「…分かりましたよ…買えばいいんでしょ、買えば!…(いじけた口調で)…みんなして、そんな目で私を見て…ウチにクーラーがないのも、今年の夏が暑いのも、み〜んな私のせいですよ〜!」

遂にいじけてしまうショウイチ。


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.08.02 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018