SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(182L)
RE:NON
朝。

ブラウザス甲板。
すがすがしい朝。ブラウザスの上甲板には、ジャンクのコウモリ・ロボットが側面の荷物ハッチを開けて待機している。

そのハッチの中には、溢れんばかりの旅行用スーツケースが無理矢理に詰め込まれている。

艦橋のハッチを開け、タバタが大きなトランクを下げて出てくる。
半ばヤケになって乱暴にトランクをロボットの荷物室に押し込む。

力まかせにハッチを閉めようとするが、一杯に詰め込まれた荷物の為にハッチが閉まらない。タバタ、うんざりした表情でハッチを開けると、足で、出っ張っているトランクを荷物室に押し込む。

大きな音を立ててハッチを閉めるタバタ。

と、にこやかな表情で、艦橋のハッチからドクター・ジャンクが出て来る。

ジャンク
「(にこやかに)…いやぁ、ご苦労だったな、タバタ。(快晴の空を見上げ)…おお、空もまるで、この私の出発を祝福している様な良い天気ではないか!…(感極まって)…う〜む素晴らしいッ!」

チラリとタバタの表情を伺うジャンク。不満そうなタバタの視線を感じる。

ジャンク
「(タバタを横目で見ながら咳払いをする)…ウォッホン!(明るく)…では、後は頼んだぞタバタ。君の手腕に大いに期待しておるからな!…でわッ!」

タバタに向って軽く手を振ると、そそくさとロボットに乗り込むジャンク。
あっと言う間にエンジンをスタートさせる。

脚を収納し、機体を浮上させると荷物の重さで一瞬ガクッと機体が下がる。
あせるジャンク。慌てて出力を上げる。

コウモリ・ロボットはジェットの白煙を噴き上げ、垂直に上昇して行く。
ロボットが引く白煙の尾を見送るタバタ…

タバタ
「…全くいい気なモンでございます。…(考え込む)…(決意した様子でうなずく)…しかし、こうなったらもうヤケでございます。製作中の新型メカを使って、皆様方をフコーのズンドコに叩き込んで差し上げますッ!」

薄暗い空間。
金属製の頑丈な扉が開き、タバタが入って来る。見上げるタバタ。

そこには製作中の巨大なロボットがたたずんでいる。

タバタ
「このヴォルカティックで、暑い夏を更に快適に過ごして頂きます。」

ロボットを見上げ、ニヤリと笑うタバタ。

ブラウザス艦内のロボット工場にたたずむヴォルカティック…

タナカ鉄工所事務所。
うるさい程の蝉の鳴き声が辺りを包んでいる。

ギラギラと照りつける夏の日差しの中、町内の電気店、シラハタ電気の店主が、大きな鞄を抱え、汗を拭きながらやってくる。

シラハタ
「ごめん下さい、シラハタ電気ですがぁ。」

事務所の奥の居間からユキコが出てくる。

ユキコ
「あ、どうもお世話様です。暑いのに済みませんね、わざわざ。」

シラハタ
「(大げさに手を振りながら)いえいえ、ちっとも構いませんよ。…(首の周りの汗を拭く)…それにしても毎日凄い暑さですねぇ。」

ユキコ
「ええ本当に。…(奥の居間を向いて)…あなたぁ、シラハタさん、お見えになったわ!」

奥からショウイチが首にタオルを下げて姿を現わす。

ショウイチ
「(シラハタを見て)…どうも暑いのに済みません。」

シラハタ
「(にこやかに)いやいや、こちとら商売ですからね。…ところで、ショウイチさんトコもいよいよクーラーですか。」

事務所の奥、居間に続く畳に腰を降ろすシラハタ。ショウイチも側に来て座る。

ショウイチ
「(頭を掻きながら)いやぁ、さすがに今年の暑さには参りましてね。…(声をひそめて)…ところで…やっぱりこの辺りじゃウチだけなんですか?クーラーがない家ってのは?」

シラハタ
「(一瞬怪訝そうな表情)はぁ?…(にこやかに)そうですね。この辺りではお宅が最後かも知れませんね。」

ショウイチ
「(深刻な表情)…う〜む…」

シラハタ
「(ショウイチの様子を見て、しまったという表情)…あ、でもまぁ、今回お買いになる訳ですから…じゃあさっそくカタログの方を。(そそくさとカタログ・プレーヤーを取り出す)…今回は色々持ってきましたんで、テレコじゃ間に合いそうもなくて…(自慢気に)…どうです?これなんか?」

プレーヤーのディスプレイを見るショウイチ。
見ると車輪のついたロボットの様な、奇妙な形のクーラー。

ショウイチ
「おおっ、これは凄い!…合体ロボットみたいだ!」

シラハタ
「お宅みたいに部屋数の多いお宅にはピッタリですよ。自走式の急速冷却タイプです。温度の高い部屋をセンサーで感知して、自分で動いて冷やして回るんです。これなら一台で家中冷やせますよ。」

ショウイチ
「…少し重そうだなぁ…ウチの床じゃ重さで抜けるかも知れない…」

シラハタ
「じゃあ、こちらのタイプはどうです?」

ショウイチ
「いやぁ、これはデザインが気に入りません。もっとこう、優雅さがないと…」

シラハタ
「(困った様に)…はぁ…じゃ、これはいかがです?」

ショウイチ
「いや、それならばさっきの方がまだ…いや、その前だったかな?」

カタログ・プレーヤーを前にああでもないこうでもないと悩むショウイチ。

台所からユキコが麦茶を持ってくる。
この二人の様子を見るユキコ。

ユキコ
「(ため息をつきながら)…こりゃ、かかるわ当分…」

玄関の風鈴。
全く風がなく、風鈴はピタリとも動かない。

時間は経過し、昼間の日差しは、やがて夕日の輝きに替わる。
辺りに微かに『ひぐらし』の鳴き声が響いている。

相変わらず動かない風鈴。

と、玄関からユキコの声がする。

ユキコ(声)
「ホントにどうもありがとうございますぅ。済みませんねこんなにお時間とらせちゃって。」

シラハタ(声)
「いえ、いいんですよ。ハハハ…(どこか元気のない笑い)…じゃ、届き次第ご連絡致しますんで、取り付けの日程はその時に…ありがとうございました。」

玄関に姿を現わすシラハタ。
ぐったりとした様子。

大きくため息をつくと、疲れた足取りでタナカ家を後にする。

その日の晩…

居間。
再びタナカ家の夕食風景。

例によって家中の扇風機が一同の周囲に置かれ、轟音をあげて熱風をかき回している…

げんなりした様子で、今日は冷奴をつついている一同…
しかし、どうした訳か、ショウイチは変に機嫌が良い。

ショウイチ
「(台所の方を見て)…ユキコ、ユキコ。」

ユキコが顔を出す。

ユキコ
「…何です?」

ショウイチ
「まぁ、ちょっと座りなさい。(一同を見て)…みんなも聞いてくれ。非常に重大な発表がある。」

何事かとショウイチを注目する一同。
ショウイチは一同の視線が、自分に集中したのを確認する様に周囲を見る。

ショウイチ
「(咳払いをして)ウォッホン!…あ〜、遂に本日、我が家にも念願待望のクーラーが導入される事になった!」

ケンタ
「(顔を輝かせ)エ〜ッ、ホント!?ホントにクーラー買うのッ!?」

ショウイチ
「(満足気に)もちろんだゾ!(ケンタを見て)どうだ、これで我が家はプログレッサーに入ったシーラカンスも同然だ!一気に周りに追い付いてやったって訳だ!ハッハッハ!…(再びケンタを見て)もうお前の友達に、シーラカンスなどとは言わせんぞ!」

ケンタ
「(驚嘆して)すげ〜!」

リエ
「…で、いつ入るの?」

ショウイチ
「今日シラハタさんトコで注文してもらったからな、まぁ2、3日うちには、この灼熱地獄からも開放されるだろう。」

リエ
「(わざとらしく)お父さん、ステキッ!!」

ショウイチ
「あ?…そうか?いやぁ、何だかテレるなぁ、ハッハッハ!」

ユキコ
「(小声で)…単純なんだから…」

ゲンザブロウ
「(小声で)…全くのぉ…」

思わず顔を見合わせるユキコとゲンザブロウ。
しかしそれには気付かず、上機嫌のショウイチ…

ブラウザス艦内ロボット工場。

タバタがヴォルカティックを見上げている。

タバタ
「遂に完成致しました…(ニヤリとする)…いよいよでございます…」


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.08.07 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018