SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(86L)
RE:145
西暦2020年10月。東京…

すっかり秋めいた抜ける様な青空が広がっている東京の街。

下町。
遠くに未来的な高層ビルが林立している。
その足元に広がる、昔ながらの雑然とした町並み。
と、密集した町並みに遠くから規則的な、地響きの様な音が響いて来る。

タナカ鉄工所事務所。
事務所の椅子から身を乗り出す様に、居間のテレビで放送しているワイドショーを見ているユキコ。

と、事務所の鴨居に掛けられた賞状の額が、小刻みにガタガタと揺れ始める。
揺れは次第に大きくなり、事務所の窓や戸がガタガタと音を立て始める。

ユキコ
「(周囲を見回しながら)…地震!?」

しかし、揺れは規則的な間隔で間欠的にやって来る。
それはまるで何か巨大な生物の足音の様である。

揺れは益々強さを増し、今やユキコは机の下にもぐって頭を抱えている。
揺れが起こる度に、事務所の柵の上からは帳簿や紙箱が落ち、事務所の古びた天井からは土埃が舞い落ちる。

机の下にもぐったユキコ。その目の前に机の上の湯のみが落ち、割れる。

ユキコ
「キャッ!…一体どうなってるの?コレ!?」

事務所の外からは、何やらジェットヘリの爆音も聴こえ始める…

道路。
舗道には溢れんばかりの見物人が集まっている。
沿道には整理の警官が配備され、車道に飛びだそうとする野次馬達を必死に整理している。

周囲に響く規則的な地響き。
舗道に溢れた見物人達、一斉にその地響きの方向を見る。

見物人の間からどよめきが起こる。
地響きが起こると、舗道脇の古びた看板が振動で倒れる。

見物人
「(地響きの方向を指さし)来たぞ!」

一斉にその指さす方向を見る周囲の人々。

交差点の彼方、蕎麦屋の瓦屋根越しに、巨大なロボットが姿を現わす。
見物人の間から歓声が沸き起こる。

オリーブグリーンの機体を持つ巨大な軍用ロボット。その肩の部分には

「U.S. ARMY」
の文字が白く描かれている…

地響きを立てながら、ゆっくりとした足取りで前進を続ける。
その足元には大型のデジタル・ハイビジョン・ムービーカメラを乗せたオープンカーがロボットを先導する様にゆっくりと走っている。

カメラマンの脇のシートには、サングラスをかけ、頬髭を蓄えた監督らしい男性。

交差点にゆっくりと侵入するロボット。

と、ロボットの腕が信号機をひっかけてしまう!
火花を噴き上げ、ショートする信号機。
きしむ様な音を立て、信号機が折れ曲がる。

どよめき身を乗りだそうとする見物人達。
警官達が警笛を吹きながら、必死に見物人達を押しとどめようとする。

ゆっくりと後退するロボット。その場に停止する。
その頭部がゆっくりと開き、中からパイロットが困った様な表情で姿を現わす。

と、ロボットの足元に先程のオープンカーがやって来る。
後部座席からプロデューサーらしき男が、不安気な表情で先程の監督らしき男に声をかける。

プロデューサー
「(怒ったにロボットを見上げ)あのヘタクソめッ!…(困った様に監督を見て)…スティーブン、まずいぞコレは!」

声をかけられた監督、少しも動じない様子である。

監督
「気にするなゲーリー、大した事はない。ポリスには話しを通して置く。(ニヤリとして)…この位のハプニングがあった方が、いい宣伝になるってもんさ。」

プロデューサー
「(呆れた様に)…全く、アンタにゃかなわんよ。」

大げさに肩をすくめるプロデューサー。
監督はその様子にも興味がない様に、前を向く。

監督
「(不敵な笑みを浮かべて)…見てろ、この作品を。今まで見たこともない様な映像を観客達に見せてやる!」

混乱する交差点の中、只一人、冷静に不敵な笑みをこぼす監督…


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.10.10 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018