SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(176L)
RE:NON
室内。
明りの消えた暗い室内。

正面の壁面一杯に広がる大型モニターには、何やら古いモノクロ映画が映し出されている…

モニターの発する微かな光を受け、薄暗い室内に一人の人物の姿が浮び上がる。
モニターの反射光が映像に合わせて強弱を繰り返す度、暗闇の中にその人物の表情がほの見える。

ドクター・ジャンクである…

深々としたソファーに腰をおろし、映像に見入るジャンク。
目はモニターの映像に集中したまま、脇のサイドテーブルから手探りで、ウイスキーの入ったグラスを取り、口に運ぶ。

モニターの画面の中では一人の老科学者が、自分の作り上げたロボットに、今正にエネルギーを注入し、生命を吹き込もうとしている。

画面の中の老科学者が感極まって叫ぶ。

老科学者
「…見るが良い!この機械仕掛の驚異、我が天才の技を!」

老科学者の研究室らしき漠たる空間の中央には、高い台がしつらえられており、リング状の固定装置によってロボットが固定されている。

その周囲には、優雅な彫刻が施され、頂上にいかめしい電極の付いた3本のポールが、ロボットを取り巻く様に立っている。

遠くから雷鳴が聴こえて来る…

ロボットの体にはポールの電極から無数のケーブルが接続されている。
老科学者は、そのロボットを見上げながら、興奮した様子で壁際の巨大な制御装置の側へ寄る。

装置に付いた巨大なレバーをゆっくりと引くと、ロボットが固定された台の上に、まるで変電所の施設の様な、おびただしい数の碍子と電極とケーブルが付いた装置が、ゆっくりと降りて来る。

モニターに見入っているジャンク。

画面の中では、時折起こる激しい雷鳴の中、老科学者が更に一人芝居を続ける…

老科学者
「…遂に時は来たり!…(ロボットを見上げる)…」

ロボットの青銅色のボディが、周囲の照明の反射を受け、薄暗い中に鈍い輝きを放っている…

老科学者
「…今こそ…我が天才は、来たるべき驚愕の技、未来の科学の力もて…遂に、遂に鋼に魂を宿らせし…創造主と…ならん!」

凄まじい雷鳴が轟き、天井の巨大な誘雷装置から稲妻が、ロボットに向って放たれる!

魅入られた様な表情で画面を凝視するジャンク。

と、部屋の壁に掛けられたテレ・コミュニケーション・システムが鳴り出す。

画面に集中していたジャンク、鳴り続けるコミュニケーション・システムに、うるさそうに手を伸ばし、スイッチを入れる。

モニターにタバタが映る。

タバタ
「(急き込んだ様子で)…旦那様、旦那様。」

ジャンク
「(面倒そうに)…何だ、どうしたのだ?私は今忙しいのだぞ!」

タバタ
「申し訳ございませんです。ですが旦那様、面白い映像を入手致しました。きっと旦那様のお気に召すと思いまして。衛星放送波をメモリー致しました。」

ジャンク
「(怪訝そうに)…私の気に?…分かった、モニタースクリーンに転送しろ。」

タバタ
「かしこまりました。」

コミュニケーション・システムのモニターが切れ、壁面の大型モニター映像がこれまでの古ぼけたモノクロ映像から、一気に鮮明なカラーのデジタル・ビデオ映像に変わる。

壁面一杯にオリーブグリーンの巨大な軍用ロボットが映る。
あの、東京での映像である。画面を凝視するジャンク。

ジャンク
「(ニヤリとして)…ダロス…最新鋭の軍用ロボットだな…」

映像が変わる。ロボットの周囲に沢山の人々が群がっている。
どうやら映画の撮影現場の様である。

その中心にディレクターズ・チェアに腰をおろしたサングラスに頬髭の、老練な監督の姿。
監督をアップにする映像。

自信に満ちた様子で、周囲にてきぱきと指示を与える監督。
その監督の映像に、俄にジャンクの表情が険しくなる。

ジャンク
「…スティーブン・キャムロン…やはり、お前だったか…」

インタビューに応える監督の映像が壁面一杯に映し出されている。
その映像を見つめるドクター・ジャンク…

東京。
タナカ鉄工所付近の道路。

交差点の真中では、アメリカ陸軍の誇る最新鋭軍用ロボット、ダロスが、先程から停止している。

その足元には、ロボットのパイロットとキャムロン監督、それにプロデューサーのゲーリー・ガーツが警官と折れた信号機の問題について協議している。

その周囲の舗道には、ダロスを一目見ようと、大勢の見物人が押しかけている。

舗道。
一杯の見物人が押し合いながらダロスの巨体を仰ぎ見ている。
と、その見物人の隙間から、3人の少年が見物人達の足元を潜り抜け、姿を現わす。
学校帰りのケンタと、友人のタクヤ、マサフミである。

ケンタ
「(見物人の足元を潜りながら)ちょっとすいません、通して下さい!…(後ろを振り返り)…オイ、早くしろよ!」

タクヤ
「おい、待てよ!そんなに急ぐなよ!」

と、後ろに気を取られていたケンタ、思いきり誰かの足を踏んずける。

見物人
「いてぇ!コラ、人の足踏むんじゃない!」

ケンタ
「ごめんなさい!」

見物人
「…何だ、ケンタじゃないか!?」

驚いて声の人物を見るケンタ。
見るとそこにはショウイチの姿。

ケンタ
「(見上げて)…あ、何だ父ちゃんかぁ。」

立ち上がるケンタ。その後ろからタクヤとマサフミも姿を現わす。
見物人達の最前列に陣取る三人。

ショウイチ
「何だじゃない、ダメじゃないか、学校帰りに寄り道なんかして。」

と、その横からゲンザブロウも顔を出す。

ゲンザブロウ
「そうじゃぞ。健全な小学生はまっすぐオウチに帰る。これぞ小学生のあるべき姿じゃ。」

ケンタ
「(呆れた様に)父ちゃんも爺ちゃんも、全然セットクリョクないゾ。」

マサフミ
「(笑いをこらえながら)やっぱケンタの父ちゃんと爺ちゃんだゼ。」

タクヤ
「ホント、血は争えないよな。」

ケンタ
「(マサフミ達を見て)お前ら何言ってんだよ!…(ショウイチ達を見て)…父ちゃん達こそ仕事サボって、こんなトコに居ていいのかよぉ!」

ショウイチ
「あ?…(ケンタの追及に一瞬ひるむが、開き直る)…いいんだよ、大人はッ!」

ケンタ
「あ、キタネェ!そういうのってアリかよ!」

ショウイチ
「(咳払いして)…ウオッホン!ま、今日はお父さんも一緒だから、特別に許可してやるか?…(ケンタを見て)…恩に着るんだゾ。」

ケンタ
「チェッ、ナニ言ってんだ!」

ショウイチの屁理屈に押え込まれ、不服そうなケンタ。

ゲンザブロウ
「(ダロスを見上げ)…しかし、大したもんじゃのぉ。遂にロボットもあんな凄いのが出てくる様になったか。」

ゲンザブロウの声に、ダロスを見上げる一同。

ショウイチ
「ホントですね。しかし、最新鋭のダロスを映画に使っちゃうんですから、あのキャムロン監督、やはり只者じゃありませんね。」

警官達と交渉しているキャムロン監督を見るショウイチ。
しかし、ゲンザブロウは、その監督の後ろ姿に何かを思い出した様子。

ゲンザブロウ
「(何事か考えている様子で)…そうじゃな…」

ショウイチ
「(ゲンザブロウの様子に気付き)…どうかしましたか?」

ゲンザブロウ
「あ、いや、少しばかり昔の事を思い出してな…」

ショウイチ
「(思い当たる)…そうでしたね。お父さんにとっては、あのキャムロン監督、因縁浅からぬ人物でしたね。」

ゲンザブロウ
「キャムロンは、再びあの映画の再現を考えておるんじゃろう。このまま何事もなければ良いが…」

その言葉に、ショウイチも黙ってダロスの巨体を見上げる。

その側ではケンタ達が無邪気に、撮影現場の雰囲気とダロスの雄姿に目を輝かせている…


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.10.16 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018