SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(126L)
RE:077
晴海埠頭。
遥かに長大なドリーム・ブリッジを望む、古びた埠頭の倉庫街が広がっている…

突然、その倉庫の一棟が、轟音を上げて崩れ落ちる!
倉庫の屋上に取り付けられたクレーンのモーターが、スパークの火花を吹き上げながら、きしんだ様な音を立て地面に向って落下して行く。

巨大な倉庫は、まるでその身体を波打たせる様に、クシャクシャと土煙の中に崩れ落ちてゆく…

凄まじい土煙が吹き上がり、周囲に破片が飛び散る!
その土煙の中に巨大な影が見える…ダロスの姿である。


「よし、カット!」

倉庫の中から姿を現わすダロスのシーンを撮影している、キャムロン監督の撮影チーム。監督のカットの合図に撮影クルーの緊張が緩み、シーンの成功にクルーの間から拍手と歓声が起こる。

最新鋭のハイスピード・デジタル・ムービーカメラが十数台もセットされた、大がかりな撮影現場。

ナレーション
「アメリカ映画界で、最も注目されている巨匠、スティーブン・キャムロン監督。その監督の集大成とも言える超大作SF映画『ロボット・ウォーズ』。そのクライマックス・シーンの撮影が、ここ東京で行われていた…」

メインのクレーン・カメラに、カメラマンと共に乗ったキャムロン監督。

ゆっくりとクレーンが降ろされる。
クレーンから降りる監督。

と、監督にプロデューサーのゲーリー・ガーツが満足気な表情で近付く。

ガーツ
「(にこやかに)いいぞ、スティーブン凄い迫力だ!やはり本物は迫力が違う!」

その言葉に、キャムロン監督のサングラスの奥の目がキラリと光る。

キャムロン
「(ニヤリとして)フッ、当り前だ。今までの映画とは違うんだ、この作品は!…(遠くを見る様な表情で)…この作品を作る為に、私はどれだけの歳月をかけた事か…」

ガーツ
「そうだったな…(ポケットからタバコを取り出し、1本口に加え、ライターで火をつける)…あれから…(煙を吐く)…もう20年か…」

顔をしかめる様な仕草で、ゆっくりと煙を吐くガーツ。
そのまま、埠頭の先に広がる東京湾の波を見つめる…

周囲のクルー達は、慌ただしく次のシーンの撮影準備の為に動き回っている。
周囲の喧噪を意に介さぬ様子で、波を見つめるキャムロンとガーツ…

と、不意に後ろから誰かの声がする。


「ミスター・キャムロン…」

不意に呼びかけられ、思わず振り返るキャムロンとガーツ。
と、そこにはゲンザブロウの姿。

キャムロン
「(思い出そうとする)…あなたは…確か…そうだ!(思い出す)…ドクター・タナカ!あなたでしたか!」

笑顔で握手を求めるキャムロン。
しかし、それに応えながらも、ゲンザブロウの表情は堅い。

キャムロン
「(にこやかに)ドクター・タナカ、まさかあなたに此処で再会できようとは!いやぁ、お元気そうで何よりです!…製作開始のお祝いに来て頂けるとは、こんなに嬉しい事は…」

ゲンザブロウ
「(キャムロンの言葉を遮る様に)…ワシが今日あなたに会いに来たのは、お祝いを言う為ではないのですぞ。…(考える)…ミスター・キャムロン、もしあなたが、あの映画の再現を考えておられるのなら、今すぐ中止すべきだと、その事を伝えに来たのです。…悪い事は言わん、彼奴を挑発する様な事はせん方が良い。」

キャムロン
「彼奴?…一体誰を挑発すると言うんです?」

ゲンザブロウ
「…あの一件、お忘れになったと言われるのか?」

キャムロン
「(ニヤリとして)…いいえ、忘れてはいません。…しかし、アレは単なるアクシデントじゃありませんか?それにあの作品は、今回の作品とは無関係です。一体、この作品の何処が、誰を挑発するんです?…(ガーツを見て)…済まんが、少し外してくれ。」

ガーツ
「ああ…」

その場を離れるガーツ。その後ろ姿を見送る二人。

ゲンザブロウ
「ミスター・キャムロン…あの時のロボット製作者を覚えておられますかな?」

キャムロン
「ええ、覚えてますよ。…確か…ドクター・エリオット・ウォルフシュタイン…でしたな?」

ゲンザブロウ
「そうです。彼はあの事件をきっかけに、アカデミーを去った。…恐らく彼は、あの事件によって、大きな屈辱と挫折を味わったに違いない。悪い事は言わん、彼奴を挑発する様な、あの作品の再現を試みようとするのは止めた方がいい。」

キャムロン
「(微笑みながら)あなたは何か勘違いをなさっておられますな、ドクター・タナカ?」

ゲンザブロウ
「勘違い?」

キャムロン
「…そうです。あれは確かに不幸な事故でした。ドクター・ウォルフシュタインには、お気の毒な結果になったとは思っています。」

ゲンザブロウ
「ならば…」

キャムロン
「しかし、あの事故はもう20年も前の、全く別の作品の製作にまつわる出来事です。今回の作品を、あの作品と同一視されるあなたの見方が、申し訳ないが、私には理解できません。」

ゲンザブロウ
「…しかし当時、あの事件で作品の製作が中断された事を、あなたは非常に嘆いておられた…ミスター・キャムロン、あの作品のテーマは、あなたにとって特別なものだったと、ワシには思えるんですがな?」

キャムロン
「特別?それはどの作品についても同じです。作品を創るきっかけという意味では、必ずそこに特別は存在する。そういうものではありませんか?…とにかく、私はこの作品を、私の映画人生における集大成にしたいと考えています。(にこやかに)…見ていて下さい、ドクター・タナカ。きっと今までに御覧になった事もない様な、素晴らしい作品にしてみせますよ。」

ゲンザブロウ
「どうやら…お聞き届け頂けない様ですな……残念です…」

キャムロンがにこやかに差し出した握手の手を、受けずにそのまま歩き出すゲンザブロウ。

その後ろ姿を見送るキャムロン…


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.10.22 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018