SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(156L)
RE:223
夕暮れの運河。
タナカ鉄工所裏の運河。
穏やかな運河の水面には、その上に広がる薔薇色の夕暮れ空と、紫のちぎれ雲がゆったりと映し出されている。
雲がゆっくりと空を流れて行く…
橋。
運河を跨ぐ小さな橋の上、ゲンザブロウが一人、運河の水面を見つめ、何事か考え込んでいる…
水面。
鏡の様な水面に夕暮れの空が映っている。
と、微かにエンジンの音がする。
橋の下から小さな船が姿を現わす。
船の舳先が水面にさざ波を立て、水面に映っていた夕暮れの空が、細かな波の中に砕けて行く…
橋。
運河の水面を見つめるゲンザブロウ。
と、背後から誰かの声。
声
「お爺ちゃん。」
その声に振り返るゲンザブロウ。
学校帰りのリエが微笑んで立っている。
ゲンザブロウ
「おぉ、リエか。…今帰りかの?」
リエ
「(にっこりと)ウン。クラブがあったから遅くなっちゃって。…(思い付く)…あ、そうだ。お爺ちゃんコレ食べる?」
手にしていた紙袋から、まだ湯気を立てている肉まんを取り出す。
リエ
「(肉まんを差し出し)ハイ。」
ゲンザブロウ
「(受け取り)お、肉まんか、ありがとう。」
自分も袋から肉まんを取り出し、美味しそうに頬張るリエ。
リエ
「(幸せそうに肉まんを頬張りながら)…この肉まん、美味しいんだから。…ハフハフッ。」
熱い肉まんを、フウフウ言いながら旨そうに頬張るリエ。
ゲンザブロウも、そのリエの様子を微笑んで見ながら、肉まんを頬張る。
ゲンザブロウ
「…ふむ、こりゃ、仲々イケるのぉ。」
リエ
「でしょ?評判なのよ。売り切れちゃう事もあるぐらいなんだから。」
ゲンザブロウ
「フム…」
再び運河に目をやるゲンザブロウ。
リエ
「…(ゲンザブロウの様子を見て)…考え事?」
ゲンザブロウ
「…(我に返り)…ん?…ああ、少しばかりな…」
橋の手摺にもたれかかるゲンザブロウ。
リエもゲンザブロウに並んで手摺にもたれる。
リエ
「昨日言ってたキャムロン監督の事?…」
ゲンザブロウ
「…それもあるが、昔の事を色々と思い出してしまってな。」
ゲンザブロウを見るリエ。
何時になく真剣なゲンザブロウの表情に、少し心配そうな様子。
ゲンザブロウ
「…(リエの心配そうな表情に気付き)…あ?…(おどけて)どうも、綺麗な夕焼けなんぞ見ておると、柄にもなく感傷めいた気分になってしまってな。いやぁ恥ずかしいわい。」
リエ
「(にっこりと)…そんな事ない。私だっておんなじだもん。」
ゲンザブロウ
「(微笑みながら)…そうか…」
ふと、思い出した様に空を見上げるゲンザブロウ。
つい先程まで薔薇色に染まっていた空は、既にすっかり色があせ、一つ二つ星も瞬き始めている。
ゲンザブロウ
「(空を見上げ)…お、すっかり暗くなって来たのぉ。(リエを見て)…そろそろ帰るか?」
リエ
「(微笑み、うなずく)ウン。…(ゲンザブロウの腕を取り)…行こッ。」
橋の上を、並んで歩き出すゲンザブロウとリエ…
夜。
晴海埠頭、貿易センターの正面ゲート。
側の街路灯の明りに照らされ、待機中のワンディムの機体が浮び上がる。
ワンディムのカメラ・アイが、空にかかった見事な満月に焦点を合わせる。
ワンディム
「今夜は満月か…どうやら今日も無事に撮影が完了しそうだな…ん、そろそろ定時報告の時間だ。」
倉庫脇。
オオツカ警部のパトカーが停まっている。
ガルウイング・ドアを跳ね上げ、シートに腰掛けたまま、足を外に投げ出しているオオツカ警部。膝に乗せた携帯用コンピュータで、報告書を打っている。
と、コート姿の刑事が、手に湯気の立つカップラーメンを2つ持ってやって来る。
刑事
「(カップラーメンを差し出し)警部、いかがでスか?」
オオツカ
「(顔を上げ)お、イマイズミ君、気が利くね。ありがとう。じゃ、遠慮なく頂くよ。」
キーボードを打つ手を休め、カップラーメンを受け取る。
旨そうにラーメンをすするオオツカ。
刑事もパトカーのボディーにもたれながら、オオツカと並んでラーメンを食べている。
オオツカ
「済まないね、捜査一課の君に応援頼むなんて。(苦笑して)…何せ科学捜査一課の方は、人間は私一人なもんでね。」
イマイズミ
「いやぁ、自分は全然構わないでスよ。」
と、コミュニケーション・システムが鳴る。
オオツカ
「(時計を見て)お、定時報告だな。」
スイッチを入れるオオツカ。
ターミナルのモニターに『Connected to "Wandym": Sound only selected』のメッセージが表示される。
ワンディム(声)
「定時報告です。現在までの処、特に不審な人物、車両等は確認していません。撮影も順調に進行している様です。」
オオツカ
「分かった。引続き警備を続けてくれ。」
ワンディム(声)
「了解。」
スイッチを切るオオツカ。と、そのやり取りを聴いていたイマイズミ。
イマイズミ
「今の、ロボットなんでスか?まるでホントの人間みたいッスね。」
オオツカ
「ああ。私も時々、彼等は私以上に人間的なんじゃないかと思う事がある位なんだよ。」
イマイズミ
「(感心した様子で)はぁ…でも、機械にはあんまり人間みたいな感情がない方が、いいんじゃないでスか?」
オオツカ
「ん?」
イマイズミ
「あ、いや別にあのロボット達の事を、悪く思ってる訳じゃないんでスよ。唯…やっぱツラいじゃないですか。人に造られたものが、心を持つって…あ、済みません、余計な事言っちゃって。」
オオツカ
「いや、いいんだよ。…そうかも知れないな。彼等のひたむきさを見てると、私も時々そう思うことがある…彼等は常に自分自身を追い求めてる様な気がしてね…」
イマイズミ
「自分自身…でスか?」
オオツカ
「(うなずく)…ああ。彼等は何時も自問してる様な気がする。何の為に自分達はこの世に生まれて来たのか…ってね。」
イマイズミ
「ひょっとすると、彼等の方が、ホントの人間かも知れませんね。」
オオツカ
「(微笑み)そうだな…」
ぼんやりと空を見上げるオオツカ。空には大きな満月が輝いている…
〜 つづく 〜
~ 初出:1994.10.29 Nifty Serve 特撮フォーラム ~