SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(147L)
RE:490
夜。
空に大きな満月がかかっている。

その輪郭は大気の揺らめきに伴って、ゆらゆらと揺らめいている。
その前を、1機のV-TOL輸送機が、影となって横切る…

輸送機コクピット。
照明の落されたコクピット内部は、計器のディスプレイが様々な色の輝きを発している。

輸送機を操縦しているタバタ。
正面の航路ディスプレイで座標を確認すると、外の様子を眺める。

眼下には、一面の針葉樹の森が、黒々と広がっている…
コミュニケーション・システムのスイッチを入れるタバタ。

タバタ
「こちらタバタでございます。旦那様、間もなく指定された座標に到着致しますが?」

モニターにドクター・ジャンクが映る。

ジャンク
「予定通りだな。…それはそうと、指示したパーツは総て揃っているのだろうな?」

タバタ
「はい、旦那様。総て取り揃えましてございます。…(怪訝そうに)…しかし、旦那様。何もこの様に不便な場所で作業せずとも、ブラウザスの最新鋭ロボット建造システムをお使いになれば、もっと効率良くリストアが行えると思いますが?」

ジャンク
「(ニヤリとして)…シュトゥルムは他のロボットとは違う。…奴のリストアには、想い出のこの地こそ相応しいのだ。」

モニターから視線を外し、振り返るジャンク。
その背後、格納庫の内部には、既に修理を開始したシュトゥルムがそびえている。

そのシュトゥルムの巨体を見つめるジャンク。

ジャンク
「…鋼に魂を宿らせし、創造主とならん…か…」

昼。
東京。市街地。

ナレーション
「キャムロン監督の新作、『ロボット・ウォーズ』の撮影は、いよいよ佳境に入っていた。その日は再開発予定の市街地をまるごと使い、ダロスの対決シーンが撮影されていた…」

古びた下町の町並みの中、商店街の雑居ビル越しに、3機のダロスがスタンバイしている。その周囲を多数のスタッフが、慌ただしげに動き回っている。

上空には、カメラを積んだ2機のジェットヘリが待機し、地上にも10台近いデジタル・ムービーカメラがセットされている。

キャムロン監督の前には、マルチモニターの付いたコンソールが用意されており、全カメラの映像出力が表示されている。

モニターの映像を入念にチェックする監督。
インカムをつけ、スタッフに指示を出す。

キャムロン
「いいか、皆んな。これからのシーンはこの映画の中でも最大の見せ場の一つだ。それに撮影には実際の街も使うんだ、失敗は許されんぞ!…全カメラ、スタンバイいいか!?」

マルチモニターの下に付けられたスタンバイ・シグナルが次々に点灯してゆく。
確認する監督。

キャムロン
「よし!…ダロス・ワン、ヘンリー、スタンバイいいな!?」

ダロス・ワン・コクピット。
コクピットには操縦を担当するアメリカ陸軍のダロス・パイロット、ヘンリー・スパットマイヤー少尉。

少尉
「(ニヤリとして)まかせて下さい監督、なぁに、うまくやりますよ。」

地上。
マルチモニター前のキャムロン。

キャムロン
「頼んだぞ。…ダロス・ツー、スリー、スタンバイいいな!?」


「こちらスタンバイOK!」


「いつでもOKです!」

キャムロン
「よし、カメラ!……アクション!!」

すぐ側のハイスピードカメラに取り付けられた排熱装置が、うなる様な音を立てながら、撮像素子冷却用の液体窒素の白煙を吹き上げる!

市街地。
ダロス・ワンが市街地の道路をホバリングしながら、猛スピードで移動を開始する。それを追尾する様に、上空のジェットヘリが動き始める。

ダロス・ワンを追跡して、2機のダロスも移動を開始する。

キャムロン
「(横のオペレータを見て)…パイロ・シンクロナイザー作動!」

オペレータ、コンソールのパイロ・シンクロナイザー(火薬爆発制御装置)のスイッチを入れる。

市街地。
ホバリングしながら、交差点を高速でカーブするダロス・ワン。
ホバーの噴射が、道路に凄まじい風を巻き起こし、道端に停められていた自動車を次々に吹き飛ばす!

後続の2機のダロスは、アーム・バルカンを連射!
銃口の発光に合わせて、パイロ・シンクロナイザーが正確に着弾地点の火薬を爆発させて行く。

逃げるダロス・ワンの周囲で、次々に爆発が起こり、商店街のアーケードや雑居ビルが次々に吹き飛び、周囲に破片が飛び散る!

ジェットヘリが低空で、ダロス・ワンの背後を狙う。

モニター前のキャムロン。
迫力のある映像に満足気な表情。

キャムロン
「いいぞ…その調子だ…(インカムのスイッチを切り替え)…2号ヘリ、もっと高度を下げろッ!」

市街地。
道路をホバリングするダロス・ワン。
高速で移動しているその背中のカバーが開き、追跡してくる2機のダロス目がけて曳航弾を発射する!

すかさず交差点角の銀行の建物の影に、身を隠す2機のダロス。
しかし、ダロス・ワンのロック・バスター(強力な炸裂弾)は、2機の隠れている建物ごと、2機の機体に襲いかかる!

建物の各所に仕掛けられた火薬が、次々に爆発、建物は周囲に破片を飛び散らせながら倒壊する!壁面に付けられていた看板が、駐車中の乗用車を押し潰す!

バランスを崩した1台のダロスが、もんどり打って倒れる!

アーケードの入口の看板にもたれかかるダロス。
看板の電飾がショートし、火花を吹き上げる!

アーケードの鉄製の屋根が、ダロスもろともクシャクシャと陥没する!

モニター前のキャムロン。

キャムロン
「凄い!素晴らしい迫力だ!…よし、ダロス・ワン、そのまま続行だ!カメラ6、7はスタンバイ!1号ヘリは正面から回り込め!」

火薬の爆発音が木霊する市街地…

海中。
ドクター・ジャンクの潜水母艦、ブラウザスが海中を進行している…

ナレーション
「東京での大規模な撮影が行われている丁度その頃、ドクター・ジャンクの大型潜水母艦、ブラウザスが日本へ向けて進行しつつあった…」

艦内。
操縦席のタバタ。
コミュニケーション・システムのスイッチを入れる。

タバタ
「旦那様、間もなく東京湾に進入致します。」

発艦ドック。
カタパルトにはすっかりリストアの完了したシュトゥルムが、黒光りのするボディーを見せている。

シュトゥルムの巨体を見上げるジャンク。

ジャンク
「遂に巡り来たぞ、お前の真の力を見せる時がな…シュトゥルム…」


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.10.30 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018