SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(165L)
RE:523
再開発市街地。
キャムロン監督の撮影チームによる大規模な撮影が行われている、再開発予定の市街地。撮影に使用されている火薬の爆発が、時折周囲の空気を震わせる…

撮影が行われている大通りのすぐ近く、やはり今は使われていないファミリーレストランの駐車場で待機しているロボット・チームのトゥース。

何やら先程から落ち着かない様子で、時折カメラヘッドを動かしては、撮影が行われている方向を観ている。

トゥース
「…う〜む(頚部を伸ばし、カメラヘッドを一杯までアップさせる)…」

と、トゥースのコミュニケーション・システムが呼出シグナルをキャッチする。

トゥース
「(慌ててカメラヘッドを下げ)…は、ハイこちらトゥース!」

ワンディム(声)
「(怪訝そうに)…ん?どうした、何を慌ててるんだ?…とにかく、そっちの状況を報告してくれ。」

トゥース
「(思いきりカメラヘッドを横に振り)…いえ、何でもありません全然大丈夫ですッ!…こちらは現在までの処異常なし、アクティブ・スキャナの反応もすべてノーマルです。」

ビルの屋上。
撮影現場を見下ろすビルの屋上に、ジェット噴射装置の付いた、小型のセンサーが着陸している。

そのボディのパイロットランプが、信号の伝送に合わせて点滅している…

駐車場。

ワンディム(声)
「了解。…(くだけて)…撮影の見学をしたいのは分かるが、任務遂行中だと言う事を忘れるなよ?」

トゥース
「い、いえ、自分は決してその様な!ワンディム、それはあなたの思い過ごしですッ。」

ワンディム(声)
「…(疑う様に)…本当に?」

トゥース
「(きっぱりと)大丈夫です!」

ワンディム(声)
「ならいいんだが…いや、サーディーがしきりに、君が撮影を見学したがっていると言うもんだから、つい気になってしまって…済まなかった。」

トゥース
「(つぶやく様に)サーディーの奴、余計な事を…(愛想良く)ワンディム、私は違いの分かるロボットです、決して任務と個人的な興味を混同する様な事は…」

ワンディム(声)
「分かった、引続き警備を頼む。」

トゥース
「了解!…(切る)…しかし、サーディーの奴、前々から一言多い奴だとは思っていたが、やっぱりそういう奴だったか。今度整備してもらう様に、警部に頼んでみよう(納得した様にうなずく)ウムウム。」

と、一際大きな爆発音が辺りを包む!
少し離れた屋上の看板越しに、巨大な火柱が噴き上がる!

アクティブ・スキャナの情報を確認するトゥース。

トゥース
「火薬の爆発だな…しかし、凄い爆発だ…(思い付く)そうだ、やはりこの場合、念のため現場を確認しておく必要があるな。(うなずく)フム、これは重要な任務だ!」

脚部のバーニア・カバーが開き、ホバリングを開始するトゥース。
体勢を下げ、走行形態をとると砂煙を巻き上げながら、駐車場から、前を走る道路へと滑べり出る。ウインカーを点滅させながら左折、爆発地点へ向う…

撮影現場。
大量の火薬を一度に爆発させ、ダロス・ワンのミサイルの直撃を受けたダロス・ツーの爆発シーンが撮影されている。

本物のダロスの替わりに、精巧な実物大のダミーが使われている。
周囲には爆発の残骸が散乱し、あちこちで炎が燃え残っている。

空からジェットヘリが消火剤を散布し、周囲の火を消す。

ホバリングしながらやって来るトゥース。
撮影現場のすぐ前で停止する。

大規模な撮影現場の様子に、カメラ・アイを巡らせ、興味深々の様子。

トゥース
「す、凄い…これがSF映画の撮影現場という奴か…素晴らしい!」

破壊されたダロスのダミーを見る。
その横に破壊された筈の2号機が停められている。

トゥース
「成る程、ああいうシーンではイミテーションを使うのか…」

撮影の舞台裏に感心するトゥース。
と、突然キャムロン監督の怒鳴り声。

キャムロン
「おい、誰だあんな処にロボットを置いた奴はッ!!」

声の方を眺めるトゥース。助監督らしき男性が慌ててトゥースの方に駆け寄る。

助監督
「(トゥースを見上げ)あのぉ、済みません、その位置だとカメラに映っちゃうんですけどぉ…」

見下ろすトゥース。

トゥース
「あ、失礼しました。かなり大規模な爆発を感知したので、一応確認をしようと。」

助監督
「ご苦労様です。でも撮影は無事進行してますので、どうかご安心を。」

トゥース
「分かりました。…では、私はこれで。」

と、キャムロン監督何かを思い付いた様子。足早にトゥースの側へ寄る。

キャムロン
「ちょっと待った!…(助監督を見て)おい、(トゥースを指さし)彼は?…彼は自分の意志で行動ができるのか?」

助監督
「はぁ、ダロスの警備をお願いしている警視庁の方です。何でも超AIを搭載しておられるとかで…」

キャムロン
「(トゥースを見上げ)オイ、ロボット君、本当に君は自分の意志で行動ができるのか?」

トゥース
「(誇らしげに)勿論です。…あなたはスティーブン・キャムロン監督ですね?」

キャムロン
「(驚いて)ほう?私を知っているのかね?」

トゥース
「(嬉し気に)私はSF映画が大好きです。特にあなたの作品のファンなんです。あなたの作品は常に興奮に満ちている。」

キャムロン
「(笑いながら)こりゃ、まいったな。遂にロボットのファンができたぞ。」

トゥース
「今回の作品は1916年の超大作、『青銅の巨人』に想を得ているという評判ですね?」

キャムロン
「ほほう、詳しいね。…『青銅の巨人』は当時の世界的映画制作者、アラン・グリフィスの作った傑作SF映画として、今にいたるまで、実に多くの人々を魅きつけて止まない作品だ。そのスケールの大きさは、それ以降誰一人リメイクをなし得ないだろうと言われる程のものだ。…私は監督になって以来、いつか『青銅の巨人』を越えるスケールと感動を、人々に与えられる作品を創りたいと念願していた。常に、あの作品を越えようと、全身全霊を傾けて作品を創ってきた…」

トゥース
「(感動して)素晴らしい事だと思います。」

キャムロン
「ありがとう。…(考える)…どうだろう?君、この作品に出演してみないか?」

トゥース
「(驚いて)私が…ですか?」

キャムロン
「(うなずく)勿論だ。今回の『ロボット・ウォーズ』は文字通りロボットが、しかも本物のロボットが主役の作品だ。もしこの作品に、君の様な意志を持つロボットが出演してくれれば、作品に一層の深みを与える事が出来るのは確実だ!頼む、ロボット君、ぜひ出演してくれたまえ!」

トゥース
「しかし…その…私は…困ったな…」

キャムロン
「君の所属部署の責任者には私から話をさせて頂く。何とか出演してもらえないか?」

トゥース
「(困った様に)はぁ…」

キャムロン
「よし、決った!ゲーリー、ゲーリーちょっと来てくれ!」

大声でプロデューサーを呼ぶキャムロン。
トゥースは思わぬ展開にとまどいながらも、内心嬉しくて仕方ない様子。

トゥース
「私が、映画に?…これは凄いことだぞ…(笑いをこらえる様に)クックック、サーディーの奴、思い知ったか!」

すっかり有頂天のトゥース…


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.11.03 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018