SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(188L)
RE:678
ホテルの部屋。
臨海副都心、なぎさシティにある高級ホテルの最上階。ペントハウスの特別室。
天井まで届く大窓からは、東京の夜景が一望される。

その前の深々としたソファーに腰を降ろしたキャムロン監督とオオツカ警部。
監督は夜だと言うのにサングラスをかけたままである。

コーヒーを飲んでいたオオツカ、ゆっくりとテーブルにカップを置く。

オオツカ
「…そろそろ、本当の事をお聞かせ頂けませんか、監督?…」

キャムロン
「本当の事?…」

オオツカ
「…20年前、あなたが作ろうとなさっていた映画の中で、一体何があったんです?」

キャムロン
「(口元を微笑ませ)…もう、調べはついてるんじゃないんですか、警部?今更私に何を言えとおっしゃるんです?」

監督のサングラスの目を見つめるオオツカ。

オオツカ
「(きっぱりと)…本当の事です。」

ゆっくりとサングラスを外すキャムロン、無言のまま、オオツカを見る。

オオツカ
「…あなたのおっしゃる様に、私も当時の記録は色々と見せて頂きました。只、ドクター・ジャンクが20年前のあなたの作品にあれ程拘る訳……その訳を当事者であるあなたの口からぜひお聞きしたいのです。記録の様な、単なる事故だとは、私にはどうも思えないのです。」

キャムロン
「警部も…随分と酷な事をおっしゃる…(ぼんやりと窓外の風景を眺める)…古傷を触られる…(微笑む)…こちらの身にもなって頂きたい…」

オオツカ
「…申し訳ありません監督。……全く、因果な…商売ですな…」

オオツカの目を見るキャムロン。しばしの沈黙…

キャムロン
「(意を決して)…わかりました警部、お話ししましょう。」

うなずくオオツカ。
コーヒーカップを口に運ぶキャムロン。
ゆっくりとコーヒーを飲み、カップをテーブルに置く。

キャムロン
「…20年前の私の作品、『ロボットの地平』は今回同様、アラン・グリフィスの『青銅の巨人』に想を得た作品でした。当時、私はやっと憧れのグリフィスの作品に匹敵する映画が撮れるという喜びに、胸を膨らませていました…」

回想するキャムロン…

西暦2000年6月。

遥かに山並みを頂く田園風景。

その中に重厚な石造りの建物が何棟も建てられ、広い芝生の前庭には、あちこちに見事な楡の巨木が、まるでその緑の葉を周囲の芝生の庭に滴らせる様に、ゆったりと大きく枝を広げている…

その庭の中を走る一本の道。一台の青いベンツが建物に向って走って行く…

建物入口。
広いエントランスに、滑べる様に入って来るベンツ。
そこから降り立つキャムロンとガーツ、それに初老の学者風の男性。

『Academy of scientific researches and technology exploitations of United Nations(国連科学技術開発アカデミー)』

のプレートが、建物の重厚な石壁にはめ込まれている…
緊張した面持でそのプレートを見つめる若き日のキャムロン。

キャムロン(声)
「…私は、この作品を只の映画に終らせたくはありませんでした。今迄誰も試みなかった…そう、グリフィスさえもがなし得なかった事。つまり本当のロボットを主役にしたロボット映画を、私は作りたかったのです…」

玄関ホール。
ドアが開き、薄暗い玄関ホールに入って来る3人。

静かなホールには、唯、入口正面に掲げられた大きな掛時計が時を刻む音だけが響いている…

重厚な装飾の時計を見上げるキャムロン…

キャムロン(声)
「…当時、私の望みに叶うロボットは、地球上に唯一体しかありませんでした。そのロボットの開発者、ドクター・エリオット・ウォルフシュタインは当時世界で最も優れたロボット工学の権威として、世界中の注目を集めていました。私はドクター・ウォルフシュタインを、オーストリア、ウィーン郊外にある国連科学技術開発アカデミーに訪ねたのです…」

初老の学者風の男性が、戸惑うキャムロン達を促す。


「ドクター・ウォルフシュタインはサロンでお待ちの筈です、さぁ、どうぞこちらへ…」

薄暗い廊下。
所々に中世の肖像画を想わせる油絵が掛けられている廊下を歩く3人。

サロン。
優美なアーチ型の窓が天井まで届く明るいサロン。

窓際のテーブルでは、まだ壮年のゲンザブロウとウォルフシュタインが何やら口論をしている…

ゲンザブロウ
「ウォルフシュタイン、悪い事は言わない、これ以上シュトゥルムの開発を続けるのは危険だ、すぐ中止した方がいい。」

ウォルフシュタイン
「…ゲンザブロウ、いやドクター・タナカ。シュトゥルムはやがて来るロボットの輝かしい未来を拓く、栄光あるロボットだ。そう安々と開発を中止する事など出来ない。」

ゲンザブロウ
「…ならば聞く。輝かしい未来を拓くべきシュトルムに、なぜあれ程の武器が要る?このまま開発を続ければ、人類は核兵器以上の恐るべき破壊兵器を持つ事になる。ウォルフシュタイン、君はそれでも良いと言うのか!?」

ウォルフシュタイン
「(声を荒げ)…君の青臭い理想主義にはうんざりだ!…いいか?今の世の中、最も技術革新に熱心なのは各国の軍関係者だぞ!現に私の研究の最大の理解者もそうだ。…最も優れたロボットは、同時に最強のロボットでなければならない!君の様に実用的な開発ばかりして、地味に埋もれている事など、私には耐えられない!」

ゲンザブロウ
「ウォルフシュタイン…」

重苦しい沈黙が流れる…と、ウォルフシュタイン、サロンのドアの処に呆気にとられて立ち尽くしているキャムロン達を見つける。

チラとその方を見るウォルフシュタイン。

ウォルフシュタイン
「…ん?来たな。…(ゲンザブロウを見て)…ドクター・タナカ、私はこれから人と会わねばならんのだ。悪いが失礼するよ。」

席を立ち、キャムロン達の方へ向うウォルフシュタイン、その後ろ姿を無言で見送るゲンザブロウ。

にこやかにキャムロン達を迎えるウォルフシュタイン。

ウォルフシュタイン
「(初老の学者と握手しながら)…ドクター・アサートン、良くおいで下さいました。(キャムロンを見て)…こちらがミスター・キャムロンですな?」

アサートン
「そうです、ドクター・ウォルフシュタイン。ミスター・キャムロンはアメリカ映画界きってのヒットメーカーです。彼の名前はドクターも御存知でしょう?」

ウォルフシュタイン
「(キャムロンと握手しながら)ええ、良く知っています。……で、そのヒットメーカーが私にご用件とは?ミスター・キャムロン?」

アサートン
「(なだめる様に)まぁまぁ、まだ紹介が終っていませんよ、こちらがプロデューサーのミスター・ガーツです。」

ウォルフシュタイン
「(握手しながら)…これは失敬。ウォルフシュタインです。よろしく。」

ガーツ
「よろしく…」

キャムロン
「…早速ですがドクター・ウォルフシュタイン、あなた『青銅の巨人』という作品を御存知ですか?」

ウォルフシュタイン
「(ハッとした様に)…青銅の…巨人…」

キャムロン
「(うなずき)今から80年以上も前に撮られたSF映画の傑作です。私は永年この作品のリメイクを狙って来たのです。だが、主役のロボットがどうしても見つからない。私はこの作品で、真のロボットの姿を描きたかった。その為には、現在のロボットのレベルでは不満だったのです。…一時は私も諦めそうになっていました。そんな時です、ふとした事からドクター・アサートンにあなたのロボット、シュトゥルムの事をお伺いしたのは。」

黙って話を聞いているウォルフシュタイン。

キャムロン
「私は『青銅の巨人』を超えたい!その為にはぜひあなたの協力が必要なのです、ドクター・ウォルフシュタイン!」

アサートン
「如何でしょう、ドクター・ウォルフシュタイン?ミスター・キャムロンは、今や押しも押されもせぬアメリカ映画界の中心的存在。その彼が全力を傾けて制作する作品です、ヒットしない訳がありません。そうなれば、あなたとシュトゥルムにとっても、又とないアピールのチャンスだと思いますが?」

ウォルフシュタイン
「(ニヤリとして)…ドクター・アサートン、貴方という人は全く…(微笑み)研究の道より、むしろビジネスの方が天職と見える…」

アサートン
「(大げさに頭に手を当て)これはまた厳しい、アッハッハ!」

ウォルフシュタイン
「(にこやかに)お話は分かりました。(キャムロンを見て)ミスター・キャムロン、少し考えさせて下さい。」

キャムロン
「(うなずく)分かりました、ドクター・ウォルフシュタイン、ぜひ宜しくお願いします。」


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.12.11 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018