SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(145L)
RE:068
ホテルの部屋。
ずっと話し続けていたキャムロン、ふっと目を窓の外、東京の風景に向ける。
暫くぼんやりと、白み始めた空を見つめる…

キャムロン
「…今にして思えば、それが、あの惨事の最初の兆候だったのかも知れません。…あの時のパイロットの報告を、もっと真剣に受け止めて置けば、或は…」

その様子に、今まで黙って話を聞いていたオオツカ警部、ゆっくりと口を開く。

オオツカ
「…では、撮影の当初からシュトゥルムには異常が?」

キャムロン
「…異常?…(考える)…私にはそうとは思えません。」

オオツカ
「(怪訝そうに)…どういう事です?」

キャムロン
「…あのロボット、シュトゥルムには…そう…丁度、貴方の部下のロボット達に対して感じる様に、或種の意志の様な物が感じられました…しかし、シュトゥルムに感じたそれは、貴方の部下達に感じる感情や意志といったものとは全く違っていたのです。…操縦者に対する拒否反応とでも言うのでしょうか、それが日毎に強くなっていった様に、私には思えました…」

オオツカ
「しかし、記録ではシュトゥルムはパイロットが搭乗し、操縦するタイプのロボットで、自身で判断出来るまでの機能は持っていなかったと言われていますが?」

キャムロン
「(うなずく)…おっしゃる通りです。…ですが警部、(視線を窓外に向ける)…私は今でもそう思っています。シュトゥルムには、心があるのだと…」

窓の外を見つめるキャムロン…

オオツカ
「(つぶやく様に)…心…」

海中。
太平洋の海底に静止しているドクター・ジャンクの大型潜水母艦、ブラウザス…

艦内。
ブラウザス艦内のロボット工場。
ロボット・チームの攻撃でダメージを受けた、シュトゥルムのメンテナンスが行われている。

メンテナンス用の足場に周囲を囲まれたシュトゥルム。

そのシュトゥルムを見下ろす様にしつらえられた制御ルーム。
窓の外にシュトゥルムの姿が見える。

多数のモニターやコンソールパネルで埋め尽くされた制御ルーム内部。
タバタがコンソールを操作し、シュトゥルムの機体損傷をチェックしている。

その横で、モニターに映し出されるチェックカメラの映像を見つめるドクター・
ジャンク。

ジャンク(心の声)
「一体、シュトゥルムに何が起こったというのだ…まるでこちらの制御を拒否している様な、あの反応は、一体…」

タバタ
「(ジャンクを振り返り)旦那様、先程からシュトゥルムの制御系回路を調査しておりますが、これといって異常な箇所は発見できませんでございます。とりあえず外装の修理を行いますが。」

ジャンク
「分かった。…(窓の外、修理中のシュトゥルムを見る)…待っていろシュトゥルム、再びお前に大いなる力を与えてやるぞ…」

と、不意にタバタが振り返る。ジャンクを見るタバタ。

タバタ
「…旦那様?」

ジャンク
「何だ?」

タバタ
「私、ずっと考えていたのでございますが、これだけ調べても問題がないという事は…ひょっとして…」

ジャンク
「何だ、何が言いたい?」

タバタ
「…旦那様、実は操縦がヘタ、でございませんか?」

ジャンク
「タバタ…」

朝。タナカ鉄工所。
賑やかなタナカ家の朝食風景。
居間の真中に置かれたちゃぶ台を囲んで朝食の真っ最中である。

一心不乱にご飯をかき込んでいたケンタ、自分の皿からおかずをつまもうとする
が、既に皿は空っぽ。

と、突然、目にも止まらぬ早さで、新聞を読むのに熱中していたショウイチの皿からハムをひったくる!

ケンタ
「父ちゃん、頂きますッ!」

ショウイチ
「(気付いて)アッ、ケンタ何するんだ、俺の大切なハムをッ!!最後に食べようと楽しみに取ってたんだぞ!」

ケンタ
「いいじゃん、ハム位くれたって!」

ショウイチ
「何言ってるんだ、それは私のハムだ、返しなさいッ!」

ケンタ
「だって食べちゃったモン。」

ショウイチ
「(いまいまし気に)全く…仕様がない奴だ。父親のささやかな愉しみまで奪うとは。」

諦めてもう一枚の自分のハムをつまもうと箸をのばすショウイチ。
しかし、ハムがない。思わず周囲を見回すショウイチ。

見るとゲンザブロウが今まさに箸でつまんだハムを食べようとしている。

ショウイチ
「お父さんッ!」

ゲンザブロウ
「何じゃ、大声出して?」

ショウイチ
「『何じゃ』、じゃありません。何してるんですか?」

ゲンザブロウ
「見れば分かるじゃろう?ハムを食うておる。」

ショウイチ
「そんな事聞いてるんじゃありませんよ、一体そのハム誰のだと思ってるんです!?」

ゲンザブロウ
「誰のって、そこの皿の上に乗っておったものを、ワシがつまんだものじゃが?」

ショウイチ
「だからそれって、私の分じゃないですか!?お父さんまで、私のハムをッ!」

と、先程から一心にノートを読んでいたリエ。

リエ
「もう、何で朝からこんなにうるさいの、ウチって!?私、今日から中間テストなんだからねッ!!」

と、奥の台所から顔を覗かせたユキコ。

ユキコ
「そうよ、あなたもハム位で大げさね、全く。」

ショウイチ
「う……何だみんなして…(ヤケ気味に)いいですよ、ハム位。…全くなんて家族なんだろうかねッ、ウチの家族はッ!」

ゲンザブロウ
「(なだめる様に)まぁまぁ、そう怒るな。…(真顔になり)…それはそうと、分析の方はどうじゃ?」

ショウイチ
「ええ、お父さんのノートや、アーカイブ以外に保管されていた当時の関連資料から想定している処ですが…予想以上の性能ですね。我々のメカニックでも、単体でシュトゥルムを押さえるのはかなり難しいのでは?」

ゲンザブロウ
「そうか、やはり連携作戦で行くしかない様じゃな…(一同を見て)良いな皆んな。今回は皆んなの連携が絶対に必要じゃ、作戦が決るまでは何があろうと、決して単独で行動せん様にな。」

その言葉にうなずく一同。
しかし、その中で一人目を伏せるリエ…


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.12.25 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018