SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(220L)
RE:226
ブラウザス艦内。
ブラウザスのカタパルトにセットされたシュトゥルム。
既にすっかり修理が完了している。

そのシュトゥルムの巨体を見上げるドクター・ジャンク…

ジャンク(心の声)
「…回路は細部に渡ってチェックした、どこにも異常な箇所はない…だが、何だ…この不安な感覚は…(シュトゥルムを見つめ)…シュトゥルム、お前は一体?…」

シュトゥルムを見つめながら考えるジャンク。
と、その背中にタバタの声。

タバタ
「旦那様。」

しかし、考え込んでいたジャンク、タバタの声に気付かない。

タバタ
「旦那様。」

ジャンク
「(気付いて振り返り)…ん?何だ、どうしたのだ?」

タバタ
「(少し呆れた様な表情で)あの…シュトゥルムの整備総て完了しましたでございます。いつでも発進可能でございますが?」

ジャンク
「そうか…」

シュトゥルムを見上げるジャンク…

ホテルのテラス。
眩しい朝の光の中、テラスに出ているキャムロンとオオツカ。
テラスの手摺にもたれながら、ぼんやりと朝の風景を眺めている…

黙って遠くを見つめているキャムロン。
その横でオオツカがゆっくりとタバコに火をつける。煙を吐き出すオオツカ…と、しばらく黙っていたキャムロンがおもむろに口を開く。

キャムロン
「…丁度、こんな清々しい朝でしたよ、あの日も…」

キャムロンを見るオオツカ。
再び回想するキャムロン…

西暦2000年10月23日。

キャムロン(声)
「『ロボットの地平』の撮影が開始されてから、早くも3カ月が過ぎようとしていました。撮影も大詰めに入り、作品最大のクライマックス・シーンである、エンパイヤステートビルでのシュトゥルム最期のシーンの撮影が、今、まさに開始されようとしていました…」

清々しい秋の青空が広がっている。大規模な撮影現場。

上空には取材のジェットヘリが何機も飛び交い、活気のある現場では多くのスタッフが、着々と撮影の準備を進めている。

その中心にそびえるシュトゥルムの姿…

シュトゥルムの足元で、先程からキャムロンと整備スタッフが、何やら口論をしている…

キャムロン
「(怒って)一体何を言ってるんだ、キミはッ!?シュトゥルムは正常なんだろ!?だったら何故、撮影を中止せねばならんッ!理由を言い給え、私が納得できる様な理由をッ!!」

整備スタッフ
「監督も御存知じゃないですか、ここ暫くのシュトゥルムの不審な動作の事をッ!彼奴、何処かがおかしいんですよ、一度徹底的にチェックすべきです!」

キャムロン
「(あざける様に)…バカな…君自身さっき言ったばかりじゃないか、『シミュレーターによるチェックは問題がなかった』って。だったらシュトゥルムは正常じゃないのかね?今日はフォックス会長自らの現場視察もあるんだ、一個人の不確かな予感で中止などされては困るんだよ!」

整備スタッフ
「ならば少しだけ時間を下さい、ドクター・ウォルフシュタインに相談する時間を…」

と、背後からプロデューサー、ゲーリー・ガーツの声。

ガーツ
「おいスティーブン、フォックス会長がお見えだぞ!すぐに撮影を始められるな!?」

キャムロン
「(整備スタッフの方を見据えたまま、一瞬考える。そのまま目をそらさずにガーツの声に応える)…ああ、すぐに開始する!会長を席にご案内してくれ!」

整備スタッフ
「(懇願する様に)監督ッ!!」

キャムロン
「聞いたろう?時間が、ないんだ…」

整備スタッフ
「(拳を握り締め)…監督…」

キャムロン(声)
「…私は今でもはっきりと思い出します、その整備スタッフの悔しさと、怒りの混じった瞳を…ですが、当時の私にとって、アメリカン・ピクチャーズの総帥、チェレニー・フォックス会長自らの現場視察を中止してまで、シュトゥルムのチェックをする事など、出来よう筈もありませんでした…」

撮影現場。
十数台のカメラが一度に動き出す。新型戦車隊とシュトゥルムの猛烈な戦闘が、エンパイヤステートビルの真下の道路で展開される!

シュトゥルムの周囲で次々に弾着の爆薬が炸裂し、道路に停められている自動車が火柱を上げて吹き飛ぶ!

じりじりとシュトゥルムを包囲し、包囲の輪を狭める戦車隊。

シュトゥルムが腕を振り上げる仕草をすると、その動きに合わせて爆薬のスイッチが入れられ、戦車の一両が爆発する!

尚も前進を続けながらシュトゥルムに砲撃を続ける戦車隊。
猛烈な爆発が、シュトゥルムの至近距離で立て続けに起こる!

シュトゥルムの機体のあちこちに付けられた火薬が次々に爆発する!

その凄まじい迫力に声を出すことも忘れ、呆然と撮影の光景を見つめるフォックス会長を始めとするアメリカン・ピクチャーズ重役達。

キャムロン
「(興奮気味に)いいぞ、Bユニット、カメラスタート!シュトゥルム、次の爆発の後ジャンプだ!」

再びシュトゥルムの至近距離で凄まじい爆発!

シュトゥルム操縦席。
正面のモニターを見ながら、ジャンプのタイミングをはかっているパイロット。
シュトゥルムをジャンプさせようとする。

と、その瞬間、正面の総てのモニターが切れ、スクリーンが一斉にホワイトノイズに被われる!

サブモニターに点滅する『All system is out of control.』のメッセージ!!

パイロット
「(狼狽して)何だ、どうしたんだ、一体ッ!?」

コンソールパネルを調整し、機能を回復させようとするが、計器は全く反応しな
い!苛立ち、パネルに拳を叩き付けるパイロット!

パイロット
「クッソーッ!!一体どうなってやがる、コイツはッ!?」

撮影現場。
もうもうたる爆煙の中、シュトゥルムの巨体が姿を現わす。

キャムロン
「どうした、ジャンプだ!ブレイスッ!!」

必死にインカムで指示を出すキャムロン。しかし、パイロットからの応答はない。

シュトゥルムを見るキャムロン。

と、胸部のカバーがゆっくりと開き始め、シュトゥルムのビーム砲が姿を現わす。

開いて行くカバーの下で、ビーム砲の銃口が徐々に輝き始めている…

キャムロン
「何ッ!!」

一瞬の沈黙の後、シュトゥルムの胸部から凄まじいビームが発射される!

周囲の空気が凄まじい轟音に震え、一条の光の筋が、一直線に大通りの上を霞める様に、遥か彼方に向って飛び去る!

一瞬遅れて周囲のビルの窓ガラスが衝撃波で一斉に吹き飛ぶ!

大通りの遥か彼方、突き当りの高層ビルが巨大な土煙の柱を噴き上げながら、轟音を上げて倒壊する!

キャムロン
「バカな…シュトゥルムがビームを…(インカムに向って)…ブレイス、どうしたッ!何が起こったんだ!!ブレイス!ブレイス!!」

ゆっくりと前進しながら、周囲に向ってビームを連射するシュトゥルム!
周囲のビルに次々に命中!大音響と共にビルが吹き飛び、崩れ落ちる!

大混乱に陥る撮影現場!

フォックス会長を始めとする重役達も慌てて逃げ出す。
次の瞬間、彼等の座っていた場所にビームが命中、壇上にしつらえられた特別席が吹き飛ぶ!

特別席の上に誇らしげに飾られていた、映画のタイトルロゴをあしらった大きな看板が、メキメキと音を立てて崩れ落ちる。

降り注ぐ破片を避けながら、必死に逃げるフォックス会長達。

もうもうたる黒煙の中、シュトゥルムは尚もビームを発射し続ける。

上体を旋回させ、なで切る様にビームを走らせる!
周囲のビルが断ち切られる様に次々に倒壊する!

凄まじいシュトゥルムの破壊力に、呆然と立ちすくむキャムロン。
ガーツが慌ててキャムロンを引き戻す。

ガーツ
「何してるッ!早く逃げるんだ!!」

キャムロン
「バカな、こんなバカな…」

ガーツ
「いいから早く来いッ!!」

呆然としたキャムロンを強引に引き戻すガーツ。
見上げるキャムロン。

黒煙の中に悪鬼の如くそびえ立つシュトゥルム…
更にビームを発射するシュトゥルム…

ホテルのテラス。
キャムロンの語る20年前の状況に、タバコを吸うのも忘れ、聞き入っているオオツカ警部。一つ大きくため息をつくキャムロン…

キャムロン
「…恐ろしいばかりの破壊力でした…あの黒煙の中にそびえ立つシュトゥルムの姿を見た時、私は恐怖しました。…我々は、決して開けてはならぬ『パンドラの匣(はこ)』の蓋を、再び開けてしまったのではなかったかと…」

キャムロンの独白に、言葉もなくその横顔を見つめているオオツカ警部。
暫くの沈黙の後、思い出した様に、タバコを口にするオオツカ…

オオツカ
「…ならば、何故です…そう思われた貴方が、再び20年前の再現を考える。少し矛盾している様に私には思えますが…」

キャムロン
「…納得いかなかったからですよ、警部…」

オオツカ
「納得?」

キャムロン
「…確かに、シュトゥルムの暴走は凄まじいものでした。大きな被害を出し、結果『ロボットの地平』の制作は中止され、事故の責任は真相が曖昧なまま、ドクター・ウォルフシュタインに向けられた…ですがね、警部…私にはどうしても出来なかったんですよ、このまま『青銅の巨人』に対する私の挑戦を終らせる事がね…」

言葉もなくぼんやりと遠くを眺めるキャムロンとオオツカ…

空。
果てしなく広がる秋の青空。
その青空の中を、一個の物体が白煙の尾を引きながら飛行している…

修理の完了したシュトゥルムが、秋の日差しに、その鋼鉄の巨体を輝かせながら、悠然と飛行している。

シュトゥルム操縦席。
正面のモニター、一杯に広がる青空を見つめるドクター・ジャンク。

ジャンク(心の声)
「『青銅の巨人』…シュトゥルムよ、お前が本当にその転生ならば、私にそれを証明してみせろ!もしもお前の鋼の骸(むくろ)に、聖なる心のきらめきがあるのなら、今こそ創造主たる私に示せ!」

青空を飛行するシュトゥルム…


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.01.02 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018