SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(220L)
RE:608
空。
晴れ上がった秋の青空が広がっている…
と、その中に、一つの強烈な反射光がきらめく。

秋葉原。
華やかな街頭装飾が踊る賑やかな風景。道路には多くの車が行き交っている…

町並み。
ビルの屋根や屋上の看板越し、青空の中を巨大な物体がゆっくりと下降して来る。
秋の日差しを受け、物体の鋼鉄の機体がキラキラと輝く。
巨大な角を持つシュトゥルムの姿!

周囲の街をその強力なジェットエンジンの轟音が震わせる。
ゆっくりと、中央通りに着地しようとするシュトゥルム。

その足元を、数台の自動車が慌ててすり抜けて行く!大混乱に陥る街!
あちこちでクラクションが鳴り響く。

大きな電器店のビルの間、通りの中央に着地したシュトゥルム。

着地の瞬間、周囲の街に地響きの様な振動が伝わる。
舗道のあちこちで立てかけられていた看板が倒れ、店頭の商品が崩れる!

着地したシュトゥルムの周囲には大勢の見物人が様子を窺う様に、恐る恐るその周りを遠巻きにしている。道路では行く手を阻まれた自動車が、大混乱を起こしてクラクションを鳴らし続けている。

沈黙しているシュトゥルム…

すぐ脇の大きなガラス張りの壁面を持つ電器店のビルに、シュトゥルムの姿が映っている…

恐る恐るシュトゥルムを取り巻く輪を縮める見物人達…

と、思い出した様にシュトゥルムの胸部カバーが開き始める。
同時にグッと腕を前に突き出す様な仕草をするシュトゥルム!

舗道。
舗道にはシュトゥルムの大きな影が落ちている…

その影がシュトゥルムの動きに合わせて動いて行く。

ゆっくりとシュトゥルムに近付きつつあった見物人達、そのシュトゥルムの挙動に、どよめきを起こして後ずさる!

一瞬の沈黙…

腕を前に突き出したシュトゥルム。
一心にそのシュトゥルムの姿を見つめる群衆…

次の瞬間、シュトゥルムの胸のビーム砲が強烈な輝きを発し、ビームの目映い輝きが一直線に走る!

轟音が轟き、周囲に衝撃波の旋風が巻き起こる!
悲鳴をあげる群衆!

シュトゥルムの発したビームは付近のビルの屋上、巨大な看板に命中!
看板が破片を飛び散らせ、電気のスパークを噴き上げながら倒壊する!

その破壊力に今まで様子を窺っていた群衆、悲鳴を上げながら一斉に逃げ出す!
道路に放置された車を踏み潰しながら、ゆっくりと前進を開始するシュトゥルム。
煙を噴き上げる自動車!

シュトゥルムが歩みを進める度に、周囲にその足音が地響きを立て、建物の窓の
ガラスが振動でブルブルと震える。

ビルの屋上越しに、前進を続けるシュトゥルムの姿が見える…
その周囲に立ち上る煙。

JR線の高架橋が前方を塞いでいる。
しかし、それをまるで意識しない様に、そのままゆっくりと歩き続けるシュトゥルム。
腕を伸ばし、高架橋を強引に押しだそうとする。

凄まじいシュトゥルムの力。
ギシギシと音を立て、スパークを散らし、バラバラと鉄材を降らせる高架橋。
尚も力を緩めないシュトゥルム。

高架橋がシュトゥルムの怪力に耐え切れず、遂に一気に倒壊する!
線路が飴の様に曲り、線路の敷石が雪崩を打った様に落下する!
架線のスパークがあちこちで火花を噴き上げる!

そのままもんどり打つ様に倒れる高架橋!
高架橋の鉄材が道路や周囲の建物に怒涛の様に降り注ぐ!
あちこちで噴き上がるスパークの火花!

凄まじい土煙の中、しかしシュトゥルムは少しもひるんだ様子を見せず、尚も
ゆっくりとした歩みを続ける…

シュトゥルムの足音が規則的な地鳴りとなって、周囲の空気を震わせて行く…

高校。
真新しい近未来的な校舎。
正門に『東京都立 隅田川高等学校』の銘板が掲げられている。
リエの通う高校である…

教室。
静かな教室にペンをを走らせる音だけが微かに響いている…
解答用紙に向って一心にペンを走らせている生徒達。
その中にリエの姿もある…

教室の黒板に当る部分は、高輝度の大型液晶スクリーンになっており、
『第2学期中間考査 現代国語 10:40 〜 11:30』
というディスプレイと共に、CGでアナログ時計が表示されている…

と、何やら外が騒々しい。
何台ものパトカーや救急車のサイレンの音が、次々に鳴り響き、時折何かが倒壊するような大きな音が遠くから聴こえて来る…

気付いた生徒達、時々窓の外をチラチラと見やる…

試験監督の先生もその音に気付き、読んでいた本を閉じ、立ち上がって窓の側へ寄る。
外を見る先生。

窓の外では街のあちこちで黒煙が噴き上がり、けたたましいサイレンの音があちこちで鳴り響いている。

先生
「(驚き)コイツは……一体どうしたって言うんだ…」

やがて間欠的な振動が伝わってくる。
振動は徐々に大きくなり、振動が起こる度に教室の窓がブルブルと震える。
生徒達も一斉に身体を起こし、窓の方を見ている。

その中に、一際真剣な眼差しで窓の方を見つめるリエの姿。

リエ(心の声)
「まさか…」

振動は更に大きくなる。と、一際大きな音と共に、彼方のビルが倒壊、その噴き上がる土煙の影から、巨大なロボットが姿を現わす!

生徒
「オイ、アレ見ろ、ロボットだ!!」

生徒
「すげーッ!!」

一斉に立上り、窓の側に寄る生徒達!
外を見ている生徒達の中のリエ、真剣な眼差しでロボットを見つめる。

リエ(心の声)
「やっぱり…シュトゥルム!…」

と、リエの隣りにいた女子生徒、不安そうな表情でリエを見る。

女生徒
「(リエを見て)ねぇリエ、恐いよぉ、アタシ達どうなっちゃうのぉ?」

リエ
「(女生徒を見て)大丈夫、大丈夫だって!…(正面、シュトゥルムの方を見る。決意した様な表情)…そうよ!…」

先生
「オイ、お前ら席に戻れ!今はまだ…」

と、正面の液晶スクリーン、今までのディスプレイが消え、緊張した表情の校長先生の姿が映る。

学校長
「ええ…先生方、生徒の皆さんにお伝え致します。只今警視庁から本校に対し、緊急避難の要請がありました。先程巨大なロボットが秋葉原付近に現われ、現在日本橋付近を本校方面に向って進んでいるとの事です。生徒の皆さんは直ちに中間考査を中止し、校庭に集合してください。先生方は生徒の誘導をお願いします。繰り返します…」

学校長の緊急校内放送に騒然となる教室内。
その混乱の中、リエは制服のブレザーのポケットから何か取り出す。

握っていた手をゆっくりと開く。
そこにはSFXボイジャーのコミュニケーターが…

コミュニケーターを見つめるリエ…

リエ(心の声)
「ごめんね、お爺ちゃん…」

決断する様に、コミュニケーターのボタンを何度か操作する。

先生
「よおし、皆んな避難するぞ!落ちついて校庭に集合だ!!」

一斉に避難を開始する生徒達。
廊下は他のクラスの生徒達も混じって混雑している。

避難するリエのクラスの生徒達。その中で、徐々に距離を置くリエ。
廊下の角を皆んなとは別の方向に曲る。

いつの間にかリエの姿が見えない事に気付く先程の女生徒。
しかし、避難の人波に流されてしまう。

女生徒
「(周囲を見回し)アレ?…リエがいない…リエ、リエ?…(と、後ろから急に押される)…キャッ!」

タナカ鉄工所。
事務所。

外から慌てた様子で駆け込んでくるユキコ。
事務所の片隅でモニターを見ていたショウイチを見つける。

ユキコ
「あなた、大変よ!秋葉原にシュトゥルムがッ!!」

ショウイチ
「(ユキコを見て)ああ、こっちも反応を確認してる。すぐお父さんに連絡を!」

ユキコ
「分かりました!」

と、工場の方から何かの作動音が聴こえてくる。

ショウイチ
「あれは…(ハッとして)…ラピッド・スター!!」

ユキコ
「まさか!」

事務所を駆け出して行く二人。

工場。
ショウイチとユキコが駆け込んで来る。
二人の目の前で無人のラピッド・スターが発進体勢に入っている。

工場の壁がゆっくりと開き、カタパルトに乗ったラピッド・スターがゆっくりと平行移動して行く。そのドライブシステムが徐々に出力を上げている…

運河に着水するラピッド・スター。

ショウイチ
「エマージェンシー・コール……リエ、あいつ!」

ユキコ
「あなた、すぐに発進を中止させて!」

ショウイチ
「ダメだ…エマージェンシー・コールは、コンソールパネルの操作に優先するんだ…」

ユキコ
「そんな!……リエ…」

と、運河から轟音が響いてくる。ハッとしてその方向を見る二人。
見るとラピッド・スターが真っ白な水柱を噴き上げ、運河を発進して行く…

その航跡を見つめる二人…

日本橋。
ビル街に進行したシュトゥルム。
ビルの屋上の巨大な通信アンテナに向ってビームを発射する!

ビームはアンテナの根元に命中!破片を飛び散らせ、倒れるアンテナ!
隣りのビルの屋上に轟音を上げて崩れ落ちる!!

高校屋上。
無人の屋上。彼方にはあちこちに黒煙が立ち上っている…
階段のドアを開け、リエが出てくる。空を見上げるリエ…

と、青空に小さな輝き!
次の瞬間、何かが凄まじい勢いで、リエ目がけて急降下してくる。
ラピッド・スターだ!!

高校の屋上まで急降下してきたラピッド・スター、信じられない様な急減速でホバリングの体勢に移ると、ドライブをサイレンス・モードに移行させ、そっと屋上のすれすれに停止する。

キャノピーガラスがゆっくりと開き、マニピュレート・アームがリエに向って差し出される。
その手のひらに乗り、コクピットに乗り込むリエ。

緊張した表情でシートベルトを締め、一つ大きく息を吐く。

リエ
「行くわよ、リエ…」

キャノピーガラスを閉め、メインドライブに点火する。
発進するラピッド・スター!


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.01.15 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018