SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(194L)
RE:NON
屋上。
ラピッド・スターの不時着しているビルの屋上。
巨大なコンクリートの破片の中、微かにエンジン音が響いてくる…

メインドライブから微かに排気煙を噴き上げているラピッド・スター。
その排気音が不安定に強弱を繰り返している。出力が安定しない様子。

コクピットのリエとケンタ、必死の表情で計器の調整を続けている。

コクピット。
前部操縦席。ケンタの操縦席前のキャノピーガラスには、メインドライブの出力調整ゲージが表示され、その描き出す曲線が、うねる様にその形を変化させる。

一時として安定しない出力…
思う様にならないドライブに、イラつくケンタ。

ケンタ
「クソッ…コイツ、安定しろったらッ!」

必死にコンソールパネルを操作し、出力を安定させようとするケンタ。
後ろの操縦席から、リエが心配そうに顔を覗かせる。

リエ
「…大丈夫、ケンタ?」

ケンタ
「…(振り向かず、ゲージを見つめたまま)…大丈夫だってば!それより、出力が安定したら合図出すゾ。だからすぐ離陸出来るように、準備しといてッ!」

リエ
「分かった!」

ケンタの声に、手早くスイッチを操作するリエ。
真剣な表情でキャノピーガラスに表示される出力調整ゲージを見つめるケンタ。
その間も、手は休みなくコンソールパネルを調整し続けている…

コクピットは、メインドライブの不安定な出力が生み出す、激しい振動に被われている…

ケンタ
「(つぶやく様に)…もうちょっと…いいぞ…その調子…」

コンソールパネルを調整し続けるケンタ…
徐々に安定しだすゲージの曲線…

瞬間、出力が安定する。
それを見たケンタ、リエに向って叫ぶ!

ケンタ
「よおし!…姉ちゃん、いいぞ、離陸OK!!」

リエ
「了解ッ!!」

ケンタの声に、操縦席脇のレバーを引き、メインドライブをコネクトするリエ!

ラピッド・スターの周囲にもうもうたる土煙が巻起こり、ヴァーティカル・ジェットが一気に噴射される!

が、バランスを崩し、片翼を地面に擦り付けるラピッド・スター。
屋上のコンクリートを削り取る翼!周囲に破片が飛び散る!

暴れ出す機体に、操縦捍を持って行かれそうになるリエ。

リエ
「クッ!だめッ、コントロールがッ!!」

バランスを立て直そうと懸命に操縦捍を操る。
グルグルと地面すれすれで旋回を始める機体…
貯水タンクに激突、タンクの水が周囲に噴き出す!

ケンタ
「うわーっ!!姉ちゃん、機体を安定させろッ!!」

リエ
「待ってったらッ!こっちは出力が全然調整できないんだからねッ!……(スロットルレバーとペダルを同時に操作して)…コイツーッ!!」

屋上。
一際大きな土煙がまるで柱の様に噴き上がり、その煙の中、ラピッド・スターが白銀のジェット噴射をきらめかせながら、一気に上昇する!

ようやく態勢を立て直し、空中で静止するラピッド・スター。

コクピット。

ケンタ
「(ホッとした様子で)…フゥー、うまく行ったゼ。」

リエ
「…これでいいわ。(前部操縦席のケンタを見る)ケンタ、お父さん達に連絡を。」

ケンタ
「ウン!」

コミュニケーション・システムのスイッチを入れるケンタ。

ケンタ
「こちらケンタ。父ちゃんお待たせッ、ラピッド・スター応急修理完了したゼ!」

モニターに映るショウイチ。

ショウイチ
「(驚き)ケンタ、大丈夫なのか?(心配そうに)…あんまり無茶するな、ドライブがもたないぞ!」

ケンタ
「(自慢気に)…大丈夫!ラピッド・スターの事はオレにまかせとけって!…(真顔になり)…あのロボットを相手にするには、コイツの力も必要だろ?だから…」

ショウイチ
「(微笑み)…ケンタ…」

と、今までためらっていたリエ、決心した様子でコミュニケーション・システムのスイッチを切り替える。

リエ
「…お父さん…」

ショウイチ
「…リエ…」

リエ
「…ごめんなさい、お父さん…私、勝手なコトばっかり…」

ショウイチ
「(真顔で)…本当だぞ。」

リエ
「(うつむく)……」

ショウイチ
「…お前が取った行動は、確かにそれなりの理由があった上での物だったかも知れない…(微笑む)…でもなリエ、私達家族は、皆が一つになった時、初めて最大の力を発揮できるって、お父さんは信じてる。」

うつむき、ショウイチの言葉に耳を傾けているリエ…

ショウイチ
「…我々はたった5人だ。そんな人数でそれぞれがバラバラじゃ、出せる力なんかたかが知れてる…だからこそ、我々が最大の力を発揮するには、お互いの協力が絶対に必要なんだ。…リエ、一時の感情に負けちゃダメだ。行動する前に一瞬でもいい、冷静になって考えてみるんだ、本当にこれで良いのかってね…」

リエ
「お父さん……」

ケンタ
「そうだぞ姉ちゃん。オレなんか、メシとサッカーとどっちを先にするか、いっつも冷静に考えてるゾ。」

ショウイチ
「(ふくれて)ケンタ、折角父さんがカッコ良くキメてるっていうのに、ナンだソレは?台無しじゃないか!?」

ケンタ
「(不満気に)オレだってカッコいい事言いたいんだモン。父ちゃんがカッコつけても似合わないゾ!」

ショウイチ
「(苦笑して)分かった、もういいッ!…(真顔になり、リエを見て)…闇雲に突き進むばっかりが勇気とは限らないんだぞ、リエ。自分が本当にやらねばならない事、ソイツを冷静に見極める事も、時にはとっても勇気が必要だって事だな。」

リエ
「…お父さん……(目を上げ空を見つめる)私、やっと分かった気がする……(モニターのショウイチを見て)ごめんなさい、もう勝手な行動はとりません。」

ショウイチ
「(嬉しそうにうなづく)…リエ…」

ランド・チャレンジャー操縦席。
ショウイチの横で、ゲンザブロウが既に回線の切断されたモニターを見つめながら考え込んでいる…

モニターに映るノイズの海を見つめるゲンザブロウ…

長い間考え込んでいたが、やがて決意した様に口を開く。

ゲンザブロウ
「…ショウイチ、ラピッド・スターにグラン・マキシマイザーの発射準備を…」

驚いた様にゲンザブロウを見るショウイチ。

ゲンザブロウ
「…それから、ランド・チャレンジャーは全門照準をシュトゥルムにロックさせるんじゃ…」

ショウイチ
「お父さん…それじゃぁ、シュトゥルムを…」

ゲンザブロウ
「(目を伏せ)…ショウイチ…ウォルフシュタインの真の目的がワシとの勝負にあるのなら、最早説得は不可能という事じゃ…それにこの状況ではシュトゥルムを遠くまで誘導する事も出来んじゃろう。…ならば、これ以上被害を拡大させぬ為には、一撃必中でシュトゥルムを撃破する以外に道はない…」

ショウイチ
「…お父さん……」

ゲンザブロウ
「(顔を伏せ)…ぐずぐずするなッ!もう時間がないぞ!」

ショウイチ
「分かりました。…奴の腹部関節を狙いましょう。構造上、一番脆いと思われる部分です。」

ゲンザブロウ
「よし、リエ達にもすぐ準備させるんじゃ。」

ショウイチ
「ハイ。」

ゲンザブロウ
「(つぶやく様に)…問題はどうやって周囲への被害を最小限に抑えるかじゃが…」

パトカー前。
シュトゥルムの動静を見守っているオオツカ警部、イマイズミ。
と、一台の自動車がやってくる。オオツカ達のすぐ横で停車する。

ガルウイングドアが跳ね上がる。
中からスティーブン・キャムロン監督が降り立つ。

無言のままオオツカ達と並び、シュトゥルムとアース・ムーバーの対峙を見守る。

チラと横を見るオオツカ。

オオツカ
「ミスター・キャムロン…」

キャムロン
「(オオツカを見て)…どうしても、来ずにはいられませんでね…(シュトゥルムを見て)…あのロボット、私にとっては、やはり只のロボットではないんですよ…私の夢の象徴であり…同時に恐ろしい悪夢の記憶でもある…」

その言葉に、オオツカは黙って再び視線をシュトゥルムに向ける…


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.03.25 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018