SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(160L)
RE:306
夜…

タナカ鉄工所。
鉄工所の古びた門灯に、白熱球の灯りがぼんやりと点っている…

小さな蛾が一匹、門灯の周囲を飛び回っている。
時折、門灯のガラスの電球カバーにその翅(はね)を触れさせては、パタパタと小さな音を立てている…

居間。
ちゃぶ台を囲んで、タナカ家は夕食の真っ最中である。

台所からユキコが大皿に盛ったトンカツを運んでくる。
ちゃぶ台の真ん中にデンと置かれるトンカツ!

そのトンカツに眼を輝かせるケンタ。

ケンタ
「おっ!すごいゾ、トンカツがヤマモリだ!(ユキコを見て)すげー、母ちゃんフンパツしたナ!」

ユキコ
「…人聞き悪いわね。(極り悪気に)全くナニ言ってんの、この子はッ!(すまして)ウチだってヤル時はやるんですからねッ!…(ゲンザブロウを見て) …あ、それから…今日はお父さんにも、ちゃんとコレ用意しときましたよ。…(小鉢をちゃぶ台に置き)ハイ。」

鉢を覗くゲンザブロウ。嬉しげな表情。

ゲンザブロウ
「おお、これは!ユキコさん、気がきくのぉ。」

興味津々の様子で鉢を覗くケンタ。

ケンタ
「爺ちゃん、それなんダ?」

ゲンザブロウ
「ん?ケンタお前知らんのか?(嬉しそうに)…味噌じゃよ。」

ケンタ
「(顔をしかめ)ウゲー、爺ちゃんトンカツに味噌つけて食うのカ!?」

ゲンザブロウ
「(ムッとして)当り前じゃ!この美味しさを知らんとは…ケンタ、お前は可哀相な奴じゃぞ。」

ケンタ
「(焦って)エ、オレって可哀相なヤツなの?」

ゲンザブロウ
「(大げさに)そうじゃぞぉ、とっても可哀相じゃ!」

ケンタ
「(心配になって)エ?……」

ゲンザブロウ
「(自慢気にうなずき)良いか?カツにこうしてじゃな、ソース状の味噌をつけて食べる。これを『味噌カツ』と言ってな、名古屋では皆こうしてカツを食するものなんじゃぞ。」

うまそうにカツを頬張るゲンザブロウ。
その様子を驚きの表情で見つめるケンタ。その様子に気づくゲンザブロウ。

ゲンザブロウ
「…どうじゃ、お前も食べてみなさい。うまいぞ!」

ケンタ
「え?オレ?…いいよ、オレ…」

ゲンザブロウ
「…ん?何を言っておるんじゃケンタ、そんな事では一人前の男になれんぞ!」

ショウイチ
「(苦笑して)お父さん、またぁ。そんな大げさな…」

ゲンザブロウ
「(ショウイチを見て)いや。大体じゃな、お前からして味噌カツの真の旨さを理解しておらん。そんな事じゃからケンタも、味噌カツと聞いて驚くような子にじゃな…」

ショウイチ
「(遮る様に)ヤ、私はどちらかと言えばソースの方がですね…」

ゲンザブロウ
「(ムキになって)黙らっしゃいッ!カツと言えば味噌カツに決っておろうが!」

リエ
「(呆れて)もう、お爺ちゃんもお父さんも大人げないわよ。(キッパリと)どっちだっていいじゃない、そんなの!」

ショウイチ
「…いや、まぁ…そりゃそうだがな…(ゲンザブロウを見て)…ねぇ、お父さん?」

ゲンザブロウ
「ア?…コラ!何でワシに振るんじゃ?受けて立ちなさいショウイチ!」

部屋の片隅。ニャンコがこの光景に呆れた様に、一つ大きな欠伸をする…

と、先程からつけっぱなしになっている居間のテレビにラピッド・スターの姿が映る。
めざとくその様子を見つけるケンタ。

ケンタ
「(テレビを指さし)見て見てッ!ラピッド・スターだ!!」

その声に一斉にテレビを見る一同。

テレビ画面。
大空を颯爽と飛行するラピッド・スターの姿がテレビの画面に映し出される。
続けて映し出される番組タイトル。

『徹底追跡!謎の防衛隊の正体は!?』

司会者
「(お辞儀をして)みなさん今晩は。さて今日も怪ロボットを撃退したこの謎の飛行機。我々の取材では現在でも、警察を始め当局もこの謎の飛行機が一体どこの組織に属するものなのか、皆目見当が付いていない様子です(背後にオオツカ警部がレポーターに詰め寄られ、返答に窮している様子が映し出される)。そこで今夜は、彼らに関する情報を様々な角度から検証し、大胆な推理を交えて彼らの正体に迫ってみたいと思います…」

居間。
思わず番組に引き寄せられるユキコ。

ユキコ
「なにコレ?これってあたし達のコト!?」

ショウイチ
「(うなずき)おお。(テレビににじり寄り)こりゃ凄いコトになって来たな。」

テレビ画面。

司会者
「…さて、現場にはレポーターのショージさんが待機していらっしゃいます。…えぇ、現場のショージさぁーん。」

画面が切り替わる。東京港の埠頭からの中継映像。
女性レポーターが映る。

レポーター
「…ハイ!こちら現場のショージです。現在もここ、東京港なぎさコンテナ埠頭では、破壊された怪ロボットの回収作業が続いています。(後ろを振り返り)…えぇ、御覧頂けますでしょうか?…海上の巨大クレーンが、次々にロボットの部品を引き上げております。(カメラを向き)…さて、今日もこの様に怪ロボットによる被害を未然に防いでくれた謎の飛行機。えぇ、映像出ますでしょうか?…(画面の片隅にラピッド・スターの飛行映像が表示される)…ハイ、この飛行機ですネ。…一体彼らは何者なのか?今日は回収現場からの映像と共に、あたくしの取材しました追跡レポートをお届けしたいと思います。…では、現場からショージがお送り致します。」

居間。
テレビに釘付けになっている一同。

ケンタ
「(眼を輝かせリエを見る)姉ちゃん姉ちゃんッ!オレ達さ、ゲーノージンみたいだね!」

リエ
「何バカなコト言ってんのよ。…(ショウイチを見て)こういう興味本意の番組ってなんか迷惑よネ。」

ショウイチ
「確かにな。こういう事されると、注目が集まってかなわん。」

ゲンザブロウ
「(味噌カツを頬張りながら)…まぁ、余り気にするなて。あれだけの活躍をしておるんじゃ。これ位の騒ぎは仕方なかろうて。」

ショウイチ
「そんなもんでしょうかね?…(真顔になり)…それはそうと、夕方のケンタの話じゃないですけど、ここん処のジャンクのロボットの動き、実は私も少し気になってるんですよ。」

ゲンザブロウ
「(うなずき)ウム。確かにここの処、出てくるロボットの性能、ことごとくジャンクらしくないものばかりじゃな。」

ショウイチ
「ええ。まるで何か、わざとこちらに破壊されてる様な…考え過ぎですかね?」

ゲンザブロウ
「いや、ワシもそんな気がしてな…(思い付く)ひょっとしてジャンクの奴、こちらのデータをサンプリングしておるんじゃなかろうな?」

ショウイチ
「お父さん…」

うなずくゲンザブロウ…


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.07.08 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018