SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(195L)
RE:544
海底。
暗い海中に小さな光がキラキラと微かな瞬きを繰り返している…
海中に停止しているドクター・ジャンクの大型潜水母艦、ブラウザス。

艦内。
ブラウザスの艦内に設けられたロボット製造工場。

大型のロボット・クレーンが巨大な部品を持ち上げ、フレームの露出したロボットの機体に取り付けている…

ナレーション
「新開発の『インテリジェント・マルチアナライザー・システム』によって、ラピッド・スターの性能を徹底的に分析したドクター・ジャンクは、対ラピッド・スター用のロボット、『デイダロス』の建造に入っていた…」

建造中の巨大なデイダロス。
無数の小型ロボットがその機体の各所に取り付き、手際良く機体を組み立てて行く…完全に自動化された最新鋭のロボット建造システムである…

デイダロスは既に内部の組立が殆ど完了している様子。一部では複合緩衝構造体が組み込まれた、特殊な外装部の取り付けも始まっている。

デイダロスの足元。
建造中のデイダロスを、満足気な表情で見上げているドクター・ジャンク。

と、タバタが大きな銀の盆にポットとカップ、それにクッキーを盛った器を載せてやって来る。

タバタ
「…旦那様、お茶をお持ち致しました。」

デイダロスを見上げていたジャンク、その声に振り向く。
工場の片隅に用意されている、白いテーブルクロスの掛けられた小さなテーブルに近付く。

木製の折り畳み椅子に腰を降ろすと、タバタがテーブルの上に広げられた設計図やメモを手際良く片付け、クッキーの入った器と陶製の優美なカップを置く。
紅茶を注ぐ…

カップに注がれた紅茶の湯気を見つめるジャンク…

タバタ
「(手を止め、デイダロスを見上げながら)…全く素晴らしゅうございますね?」

クッキーをつまんでいたジャンク、その言葉に一緒にデイダロスを見上げる。
工場の天井に無数に取り付けられた強力なライトの反射に、眩し気に手をかざす。

ジャンク
「(自慢気に)…当り前だ。私のロボットだ、素晴らしいに決まっている……フッフッフ、あのデイダロスに秘められた力、早くお前にも見せたいものだ…」

タバタ
「おっしゃる通りでございますです…」

デイダロスを見上げるジャンクとタバタ…

夕暮れ。
東京の街には珍しく、見事な夕焼けが出ている。

オレンジ色に染まる高校の校舎…
遠くテニスボールを打つ音が聞こえている…

教室。
2年A組の教室。
ひとけのない教室の中、トシヒコが一人、腕組みをしながら何事かじっと考え込んでいる…

と、誰かの声がする。


「…ヤマグチ君。」

声に振り向くトシヒコ。
と、教室の入口、夕方の逆光の中、一人の人影が立っている…
眩しさに顔をしかめるトシヒコ。

トシヒコ
「誰?…(眼を細め)…タナカ?…」

立っているリエ。うなずく。

リエ
「ウン。…(決心して)…ちょっと話があるんだけど、いい?」

トシヒコ
「(素っ気なく)ああ。」

教室に入ってくるリエ。トシヒコの側に立つ。

リエ
「…あの…あのね…」

トシヒコ
「何?…(もじもじしているリエに苦笑して)…なんだよ?」

リエ
「…パイロットの事なんだけど…」

トシヒコ
「パイロット?…(思い付き)…ああ、謎の防衛隊のパイロットの事か。…オレがあのパイロット、ウチの生徒だって言ったコト?」

リエ
「…うん。…それって、ホント?」

トシヒコ
「(事もなげに)ホントだよ。」

一瞬たじろぐリエ。
しかし、必死に動揺を押し隠す。

ジロリとリエを見るトシヒコ…
動揺するリエ。

リエ
「(無理に明るく)…ヤ、今結構話題になってるじゃない?だから、もしウチの学校にいたらスゴいなって…(同意を求める様に)…ねぇ?」

しばらくリエを見つめるトシヒコ。と、表情を緩ませ、微笑む。

トシヒコ
「…ホントはね、オレの推測。…そうだったらいいなっていう願望。」

リエ
「エ?…(ホッとした様に)…え、そうなんだ。…なんだそっか。」

トシヒコ
「タナカも興味あるんだ?謎の防衛隊。」

リエ
「う、ウン。…やっぱ……カッコいいじゃない。」

トシヒコ
「(夢想する様な表情で)…そうだよなぁ、カッコいいよなぁ。(我に帰り、リエを見る)…あ、ゴメンな。なんか期待させちゃったみたいでさ。」

リエ
「(微笑み、首を横に振る)…ううん。いいんだ。(照れた様に)…あたしもね…そうだったらいいなって思って。…その…えっと…じゃ、またあしたね。」

トシヒコ
「(うなずき微笑む)…うん。…あした。」

教室から出て行くリエ…
その後ろ姿を見送るトシヒコ…
リエが出て行っても、しばらく教室の扉の方を見つめている。

トシヒコ
「(つぶやく様に)…タナカ?…まさか、アイツが?…」

考え込むトシヒコ…

トシヒコ
「(思い付く)そうだ、タナカの家は確か…」

思い付いた様に、鞄の中をゴゾゴソと探すトシヒコ。
鞄の中から『オンライン・ニューズ』のプリントアウトの束、それに地図を取り
出す。過去、目撃されたSFXボイジャーの記事の数々…

地図には目撃された場所に印が付けられている。
地図でタナカ鉄工所を探すトシヒコ…

と、印の円の中に、鉄工所を見つける。

トシヒコ
「…やっぱり…円の中だ……」

再び顔を上げ、教室の扉を見つめるトシヒコ。
夕方の陽の光が、廊下のリノリウムの床に反射して、キラキラと輝いている…

タナカ鉄工所付近。
鉄工所付近の道路。

すっかり暗くなった運河沿いの道を、学校帰りのリエが歩いている。
何時になく足取りが重い…

リエ
「…なんか、ヤブヘビだったかなぁ…聞かなきゃよかった。あんなコト…」

鉄工所。
事務所の扉を開け、入ってくるリエ。

リエ
「…ただいま。」

と、事務所の中がいつになく賑やかである。
見ると、居間へ上がる畳の縁に、ケンタを中心に家族全員が集まっている。

手紙らしきものを読んでいるケンタ。
ゲンザブロウ、ショウイチ、ユキコがそのケンタの手紙を、興味津々な様子で覗き込んでいる。

リエ
「どうしたの?みんなして…」

顔を上げるユキコ。

ユキコ
「あ、お帰り。」

ショウイチ
「(リエを見て)おお。…凄いぞ、ケンタの奴。エリカさんから手紙もらってんだ!」

リエ
「エリカさんって…あのエリカ・ハミルトンのコト?」

ショウイチ
「(興奮気味に)そうだ、そうだ!」

リエ
「へぇ〜、(ケンタを見て)凄いじゃない、ケンタ。」

ケンタ
「(嬉しそうに)ウン!!」

ゲンザブロウ
「(自慢気に)さすがはワシの孫じゃ。世界的な映画スターから手紙を貰っちまうんじゃからな。」

ショウイチ
「(苦笑して)…またぁ。コレはケンタがあの時、必死にエリカさんを守ってあげたからじゃないですか。いわばケンタの努力の結果で、お父さんとは全然無関係でしょ?」

ゲンザブロウ
「(不満気に)お前も折角ワシがいい気分になっておるのに、随分水をさしてくれるじゃないか?(スネた様に)…まぁ、確かに言ってしまえばそうじゃが…」

リエ
「で、何て書いてあるの?ケンタ?」

ケンタ
「(嬉しげに)ウン!エリカさん、今度撮影でまた日本に来るんだって。で、できたらオレに会いたいって…」

リエ
「(羨ましそうに)…いいなぁ、『トーキョーの休日』ってワケだ。」

ケンタ
「…姉ちゃんはそういうヒトはいないのカ?」

リエ
「エ?(たじろぎ)…あたし?…あたしはベツに…」

一同の視線がリエに集中する。

リエ
「…な、何よ…いないってバ!」

注目されるリエ…


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.07.23 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018