SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(129L)
RE:049
日曜日…
道路。
車も余り通らない昼下がりの道。
信号機がけだるげに黄色の信号灯を点滅させている…
タナカ鉄工所付近の道路。
運河を跨ぐ橋の上、大きくせり上がった道路を、渾身の力を込めてペダルをこぎながら、1台の自転車が登ってくる…
こいでいるのはトシヒコである。
運河を跨ぐ太鼓橋の頂上で、ようやく息をつく。
自転車をとめ、周囲の風景を眺めるトシヒコ。額の汗を腕でぬぐう。
風が橋の上を心地よく吹抜け、運河の水面にさざ波を立てて行く…
遠くから、杭を打つ様な規則的な響きが、どこか気の抜けた様なのどかな音で微かに聞こえて来る…
風に目を細めながら、周囲の風景に見入る…
トシヒコ
「あれか…」
運河の岸、トシヒコの視線の先には、タナカ鉄工所のスレート葺きの古びた建物が、何棟も庇を並べている…
初夏の青空の下、のどかにたたずむ鉄工所…
ズボンのポケットから、小さく折り畳んだ地図を取り出す。
地図にはタナカ鉄工所の周辺を取り囲む様に、SFXボイジャーの目撃地点が印されている。
視線を地図から、その向こうに広がる町並みにゆっくりと移して行く…
トシヒコ
「…やっぱり、タナカがあのパイロットなのかなぁ?…」
商店街。
色とりどりの『大売出し』ののぼりが、初夏の風に踊っている商店街。
アーケードのあちこちに取り付けられたスピーカーからは、すっかり聞き古された様なイージー・リスニングの曲が流れている…
買い物カゴを下げたユキコ。そのユキコと並んで歩いているリエ。
何時になく口数が少ない。
ユキコから半歩程遅れて、うつむき気味に歩いている…
ユキコ
「(リエを見て)…なんかあったの?…」
リエ
「(驚いた様にユキコを見て)え?…なんで?」
ユキコ
「(微笑み)…だって珍しいじゃない、リエが買い物手伝ってくれるなんて。…さては相談事ね?」
リエ
「(苦笑して)…ウッ、するどいなぁ。」
ユキコ
「(自慢気に)バカね、一体何年アンタの母親やってると思ってるの?」
リエ
「…そっか…(微笑み)…そうだよね…」
ユキコは視線を前方に移し、微笑みながらリエの言葉を待つ…
リエ
「…学校でね、疑われてるんだ、あたし…謎の防衛隊のパイロットなんじゃないかって…」
ユキコ
「(愉快そうに)え?結構スルドいんだ、あんたの学校のコって。ついに正体がバレちゃったってワケだ?」
リエ
「(ふくれて)もう、真剣なんだからネ、こっちは!…(気を取り直し)…勿論みんなじゃないのよ。クラスにね、推理小説ファンのコがいるんだ。…そのコったら、いかにも自分が核心つかんでるみたいなコト言ってさ、…あたし気になっちゃって…」
ユキコ
「…まんまと引っかかっちゃったんだ?」
リエ
「(うなずき)…ちょっと聞いただけなんだけど、なんかすっかりマークされちゃったみたいなの。」
ユキコ
「気にすることないわ。無理して隠さなくたっていいんだし。」
リエ
「そうかも知れないケド…」
ユキコ
「(微笑み)そうだって。(前を見て)…あ、ちょっと寄るわよ。」
八百屋に入るユキコとリエ…
太い筆書きの『オオノ青果』の看板が、二人を見下ろしている…
威勢の良い八百屋のおかみさんが、ユキコに声を掛ける。
おかみさん
「ア、ユキコさんいらっしゃい!…(リエに気付き)…あら、今日はリエちゃんも一緒?」
リエ
「こんにちは。」
おかみさん
「ハイ、こんにちは!(ユキコを見て)…今日はナスのいいのが入ってるわよ。どう?」
ユキコ
「(ひら台に並べられた野菜を見ながら)…そうねぇ。じゃ、一山貰うわ。それから…こっちのピーマンと人参もね。」
おかみさん
「ハイハイ!…(手際良く野菜を新聞紙に包みながら)…あ、そうそう。そう言えば、最近随分テレビに出てるじゃない?」
ユキコ
「え?…ああ。アレの担当はあたしじゃなくて…(リエを指さし)…コッチコッチ。」
リエ
「えっ?…」
おかみさん
「(微笑み)あ、そうそう!リエちゃんよね?ごめんなさい。…(リエを見て)…でも凄いわぁ。この町内、みんなして応援してるからね!」
リエ
「(照れて)…ア、ありがとうございます。」
おかみさん
「(夢見心地の表情で)…あたしもあと20年若けりゃねぇ…(リエを見て)大変でしょうけど頑張るのよ!…これオマケしちゃうワ。」
店の片隅に積まれた青林檎を袋に詰める。
ユキコ
「(遮る様に)…あ、いいんだってバ!」
おかみさん
「これはね、リエちゃんの分!…(袋をリエに手渡し)ハイ!」
リエの手に青林檎の袋が手渡される。
おかみさん
「(微笑み)…あたしらみんなの気持ちなんだからね。気にしないでヨ。」
リエ
「おばさん…」
感無量の表情を浮かべるリエ…
そっと指で目尻をぬぐう…
しかし顔をあげ、精一杯微笑む…
リエ
「ありがとうございます!」
その光景を微笑みながら見つめるユキコ…
〜 つづく 〜
~ 初出:1995.08.03 Nifty Serve 特撮フォーラム ~