SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(145L)
RE:057
タナカ鉄工所。
初夏の日差しが、鉄工所の前を走る細い道、そのアスファルトの路面に反射して、キラキラと輝いている…

日曜の昼下がり、周囲の住宅街はひっそりとした空気に包まれている。
心地良い風が吹抜ける度、何処からか微かに、季節にはまだ早い風鈴の音が聴こえている…

自転車に乗ったトシヒコが来る。
鉄工所の門の前で自転車を降りる。
鉄工所の大屋根を見上げるトシヒコ…

トシヒコ
「(満足気に)…成る程…真相は現場(げんじょう)にアリって訳か。確かに、街中でアレだけのメカを格納できる建物はそう多くないはずだ…だとすれば、ますます可能性は濃厚ってワケ。(思い付き)…そうだ、メモメモっと…」

手帳を取りだし、何事かメモするトシヒコ。
と、突然背後から誰かの声。


「(つっけんどんな調子で)…ウチになんか用ですか?」

ビクリとするトシヒコ。後ろを振り向く。
立っているのはサッカーの練習から帰ってきたケンタである。

トシヒコ
「(慌てて)エッ!?…ヤ、ちょっと前を通りがかったら、あんまり大きな建物なんでさ。つい…そのぉ…気になってさ。(気を取り直し)…キミ、ここんちの子?」

ケンタ
「(不審気に)…そうですけど…」

トシヒコ
「そう。…(微笑み)…じゃ、リエちゃんの弟だね?」

ケンタ
「(驚き)エッ?兄ちゃん、姉ちゃん知ってるの?」

トシヒコ
「(うなずき)…同級生なんだ、オレ。」

ケンタ
「(安心した様に微笑み)…なんだそっか。オレ、てっきり怪しいヤツだと思ったゾ。」

トシヒコ
「(苦笑して)失礼だなぁ。…ところで、お姉さんは?」

ケンタ
「(事務所の方を眺め)…多分いると思うけど。…呼んで来よっか?」

事務所の中へ入ろうとするケンタ。と、トシヒコそれを制して。

トシヒコ
「あ、いいよ。別に約束してたワケじゃないから。…それより…(工場の方を見て)工場を見学させて欲しいんだけど…」

ケンタ
「…工場を?(躊躇〔ちゅうちょ〕した様子で)……ベツに…かまわないケド…」

チラリと工場の方を眺めるケンタ。
工場の奥の暗がりの中、整備中のラピッド・スターの機体が、被せられたシートの隙間から僅かにその姿を覗かせている…

それに気づくケンタ。しまったという表情。
しかしトシヒコはまだ気づいていない様子。

トシヒコ
「(大げさに)ホント!?…いやぁ、オレさぁ、鉄工所って前から興味あったんだ。凄いよなぁ、こんなでっかい建物でさ。」

大げさに目を輝かせるトシヒコ。しかし、ケンタは気が気ではない様子。
しきりに工場のラピッド・スターを気にする。

ケンタ
「…やっぱりダメッ!父ちゃんに怒られるもん、オレ!」

トシヒコ
「(驚き)…エッ!? だって今、見せてくれるって…」

ケンタ
「ダメったらダメ!」

トシヒコ
「(不満気に)…何だよ、ヘンなヤツだなぁ。いいじゃないか、ちょっと位見せてくれたって。」

ケンタ
「ダメッ!!」

トシヒコを遮るケンタ。
そのケンタの頭越し、興味をそそられたトシヒコが工場の中を覗き込もうとする…

道路。
買い物から帰ってきたユキコとリエが来る。両手には沢山の袋を抱えている。
リエの手には、青林檎の入った紙袋が大切に抱えられている…

鉄工所の前のケンタ達に気づく二人。
ケンタと話している人影にハッとするリエ。
手にしている青林檎の紙袋を抱える手に、一瞬力が入る…

リエ
「(つぶやく様に)ヤマグチ君……やっぱり此処に…」

そのリエの様子に気づくユキコ。

ユキコ
「(リエを見て)…彼ね、推理小説ファンの探偵さんは?」

表情を固くしてうなずくリエ。

ユキコ
「…まだ正体は明かしたくない?」

そのユキコの問いかけに、無言でうなずくリエ…
抱えた紙袋の青林檎が初夏の日差しを受け、リエの顔に淡い緑の反射を描いている…

ユキコ
「(微笑みつぶやく)分かったわ…ラピッド・スターはアタシに任せといて…」

リエ
「(うなずき)…ウン。」

ユキコから離れ、トシヒコに近付くリエ。

リエ
「(微笑み)…ヤマグチ君。」

トシヒコ
「(少し驚き)…ア…やぁ、タナカ。」

リエ
「(愛想良く)…珍しいじゃない?こんなトコまで。」

トシヒコ
「…近くまで来たもんだからさ。…ちょっと工場を見学させてもらいたいんだけど?…(ケンタを見て)…どうも、キミの弟さんはちょっと御機嫌斜めらしい。」

リエ
「…え?…(ケンタを見て)…ゴメンね、ちょっと変わってるんだ、ケンタって。」

ケンタ
「(不満気に)…姉ちゃん、それはないゾ…」

リエ
「(ケンタに目配せをする)…(トシヒコを見て)いいわ。あんまり大したトコじゃないんだけど?」

トシヒコ
「(大げさに)いや、オレ前から鉄工所って一度見てみたかったんだ。感激だなぁ!」

リエ
「(照れて)…そっかなぁ?…なんか照れちゃうなぁ…汚いトコなのよ。」

トシヒコ
「そんな事ないって。オレさ、こういう鉄工所って興味あるんだ。…(リエを見て)…謎の防衛隊と同じくらいね…」

無関心を装いそのトシヒコの言葉を聞き流すリエ…

リエ
「ア、足元気をつけてね、鉄材が一杯あるから…」

歩きだし鉄工所の中へ入って行く二人。
リエの後に付いて歩きながらも、トシヒコの目は鉄工所のあちこちを注意深く観察している。

トシヒコ(心の声)
「…オレの推理、果たして正鵠を得ているか否か?…」

鉄工所の大屋根の中に入って行く二人…


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.08.13 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018