SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(141L)
RE:070
鉄工所。
鉄工所の大屋根の下、薄暗い鉄工所の構内をリエとトシヒコが進む…

興味深げに周囲を見回すトシヒコ。
大げさに感心している様な素振りを見せてはいるが、一方で、その目は冷静に何かを探している…

巨大なトラス構造の鉄骨が組み上げられている。
その大きな鉄の構造物を見上げるトシヒコ…

トシヒコ
「…すげぇなぁ…(リエを見て)…これ橋桁だろ?こんな大がかりなのも作るんだ、タナカんちって。」

リエ
「(微笑み)…ウン。部品レベルだけど、これってウチで構造計算もやってるのよ。…でもこれでも全体の何十分の一かの部分なんだって。」

トシヒコ
「(感心して)…へぇ〜」

巨大な橋桁にそっと手を触れてみるトシヒコ。
再び橋桁を見上げる…と、工場の片隅に1台のロボットの姿が目に入る。

黄色の警戒色で塗られた機体は、傷だらけであちこち塗装が剥げ、長年の酷使を思わせる。薄暗い鉄工所の中で、腕の油圧シリンダー、無塗装の金属部が、鈍い光を放っている…

洗車の直後らしく、機体からは時折水滴が滴っている…

トシヒコ
「(ロボットを見て)…あのロボットは?」

リエ
「ああ、ジャッキーっていうの。」

トシヒコ
「エッ?…(笑いながら)ジャッキー?…随分らしくない名前だな。」

リエ
「(はにかみ)…作業用のロボットなの。…小さい時にネ、あたしが付けたんだ。あの子のおかげでね、ウチは…(先程の橋桁を見て)…あんなに大きな仕事ができるんだ。」

ジャッキーの機体を見上げるリエ…
その、運転席を被う大きな曲面ガラスに、彼方の天窓の明りがモザイク模様を映し出している…

無人の運転席。
運転席の内壁。
小さな、古びた子供の落書き…ロボットを囲む家族が描かれている…
運転席の片隅には、成田山の御札が留められている…

トシヒコもリエと並んで、ジャッキーの機体を見上げる…
ほの暗い鉄工所の中、ジャッキーの機体が鈍く輝く…

リエ
「あっ、そうだ…(思いつき、抱えていた紙袋から青林檎を取り出し)…食べる?」

トシヒコ
「(受取り)お、サンキュー。」

シャツの裾でリンゴをこすり、かじりつく。
旨そうに青林檎を食べるトシヒコ…

トシヒコ
「(つぶやく様に)…羨ましいよな、タナカは…」

リエ
「(トシヒコを見て)…エ?」

トシヒコ
「(リエを見て微笑み)…誇りって言うのかな?…なんかプライドがあってさ、自分ちの仕事に。」

リエ
「(照れて)…エ?…そっかなぁ…別に誇りなんて…」

トシヒコ
「(ジャッキーを見上げ)…オレもさ、いつかそういう仕事ができたらいいなって…」

リエ
「(トシヒコを見る。微笑む)…できるわよ、ヤマグチ君なら、きっと。」

リエを見るトシヒコ…
リエははにかんだ様な表情を浮かべ、トシヒコの視線を外らす様に、並んでいた場所から一歩前へ踏み出す。

ゆっくりと歩き出すリエ。その後を歩くトシヒコ。
二人は鉄工所の奥へ進む。

先程、シートを掛けられた整備中のラピッド・スターが置かれていた場所。
しかしそこにラピッド・スターの姿はなく、替わりに積み上げられた鉄材の山が出来ている。その山の前を通り過ぎる二人…

事務所。
事務所のガラス戸越しに、鉄工所の二人を観ているユキコとケンタ。
二人の背後、半開きになった書類戸棚の奥で、パイロットランプが瞬いている…
どこかホッとした様子のケンタ。

ケンタ
「母ちゃん、助かったゼ。あの兄ちゃんにラピッド・スターが見つかるかと思ったゼ。」

ユキコ
「(微笑み)…構わないんだケドね、別に。…でもまぁ、リエの気持ちも分かるしね…」

ケンタ
「(怪訝そうにユキコを見て)…ン?…母ちゃん、何ワケ分かんないコト言ってんダ?」

ユキコ
「(微笑みながらケンタの頭を押さえ)…コドモは気にしないッ。」

ケンタ
「???」

鉄工所内を歩くリエとトシヒコ。
足元を見ているトシヒコ…
鉄工所の広い床の片隅に、ジャッキーの洗車で出来たらしい小さな水溜りがある。

その水溜りを突っ切って、まだ新しい軽トラックのタイヤの跡が、濡れた筋となって伸びている…何気なくそのタイヤの跡を眼で追う。
と、そのタイヤ跡は突然途切れ、その先はさっきの鉄材の山で行き止まりになっている…

それをじっと見つめる…
何か思い当たった様に天井を仰ぐ。注意深く天井を見つめるトシヒコ…

と、天井の数カ所、柱の陰に小さな装置がある。
その内の1基が作動している様子。

小さくうなる様な音をたて、光の3原色を思わせる赤、青、緑の小さな電光菅が微かな光を発している装置…

装置を見つめるトシヒコ…
そのまま視線を床に降ろして行く…と、その視線の先には先程の鉄材の山が…

リエ
「(トシヒコを振り返り)…どうしたの?」

トシヒコ
「(リエを見て微笑み)…いや、何でもないよ。」

不思議そうな表情のリエ。
先に立って歩き出すトシヒコ…

門。
鉄工所の正門。

自転車を押しながらトシヒコが出てくる。並んでリエも出てくる。

トシヒコ
「(微笑み)…ありがとう。…ゴメンな、無理言っちゃって。」

リエ
「(微笑み)…ううん、構わないわよ、全然。」

トシヒコ
「…楽しかったよ、とっても。…じゃぁ、また。」

リエ
「(うなずき)…ウン。」

自転車にまたがり、走り出すトシヒコ。
前を向いたまま左手を上げ、リエに挨拶する…
リエも手をあげ、それに応える…

走っているトシヒコ。
しかし、いつしか真剣な表情に変わる…

トシヒコ(心の声)
「…やっぱり…やっぱりそうなのか、タナカ?…」

運河沿いの道を、風を受けて走るトシヒコの自転車…


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.08.20 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018