SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(219L)
RE:078
太平洋上。
青空の下、真っ青な海原が一面に広がっている…

と、その海面の一点が白く波立ち始める。たちまち大きな水柱が噴き上がる!
真っ白な水柱の陰から、巨大な潜水艦の艦橋が姿を現わす。

その巨大な鋼の船体から、海水が轟音を上げ、まるで滝の様に雪崩を打って流れ落ちて行く…
水しぶきが飛び散り、周囲に霧の様に舞う…

目映い日差しの中、悠然とその姿を現わすドクター・ジャンクの大型潜水母艦、ブラウザス。大海原に静態している…

艦内。
正面のモニタースクリーンを眺めていたギャリソン・タバタ、コンソールパネル
の数値を見る。艦が浮上した事を確認すると、徐に後ろの席に座っているジャンクを振り返る。

タバタ
「…旦那様、浮上致しました。」

深々としたソファーに腰を降ろし、脇のサブモニターを見ていたジャンク、タバタの言葉に顔を上げる。

満面に自信をみなぎらせているドクター・ジャンク。

ジャンク
「後部バラストタンク注水、船体斜度を35度に。」

タバタ
「かしこまりました…」

コンソールパネルを操作するタバタ。
小さな電子音をたて、片隅の小型モニターに船体のCGが表示される。
船体に鈍い振動が走り、船体がゆっくりと傾き始める。

小型モニターの画像。
船尾から傾いてゆく船体の様子が映し出されている。
船体の傾斜度を示すデジタルカウンターが目まぐるしくその表示を変えている…

海上。
後部から大きな水柱を噴き上げ、轟音と共にブラウザスの船体後部がゆっくりと沈み始める。
やがて船体の前部が海上に姿を現わす。

艦内。
小型モニターの映像。
ブラウザスの船体、前部が完全に海上に姿を現わしている…
デジタルカウンターの数値が35を示して停止する。

その様子を確認したジャンク、不敵な笑みを浮かべる。

ジャンク
「(つぶやく様に)…見ておれゲンザブロウ…(タバタを見て)…タバタ、デイダロスをカタパルトへ!」

タバタ
「デイダロス、カタパルト・デッキへ転送致します。」

エレベーターデッキ。
巨大なデッキに乗せられた新型ロボット、デイダロスの姿。
艦内の照明に照らし出され、その真新しい機体が冷たい輝きを放っている…

艦内にブザーのアラームが鳴り響く。
デッキの各所に取り付けられた警告灯が、慌ただしく点滅を始め出す。
鈍い作動音と共にゆっくりと動き出すエレベーターデッキ。

艦内。
モニターでその様子を眺めるジャンク…
その目には不敵な輝きが宿っている…

ジャンク(心の声)
「…デイダロスよ。今こそその力、存分に発揮するが良い…」

海上。
海上に突き出したブラウザスの艦首。
その下部の大きなハッチがゆっくりと開き始める。

複雑なメカニズムを持つ射出システムがその姿を現わす。
その複雑な構造物の内側に、デイダロスの機体がセットされる。

デイダロスの機体がセットされるのに合わせ、射出システムの各部が複雑に稼働してゆく…

様々なメカニズムの駆動音が一斉に止み、周囲に不思議な沈黙が訪れる。
ブラウザスの船体に打ち寄せる波の音が、周囲の静かさをいや増している…

艦内。
脇の小型モニターをチラと見るジャンク。
デイダロスがカタパルトにセットされた事を確認する。

ジャンク
「…コネクター・ロック、リジェクト!」

カタパルト。
デイダロスの機体各部で、接続されていたケーブルのコネクターが、小さなガス音を立てて吹き飛ぶ!

艦内。

タバタ
「リジェクト…(確認して)…チェック。」

ジャンク
「行くぞッ!…デイダロス…(間を図る)…射出ッ!!」

その声と殆ど同時に、射出ボタンを押し込むタバタ!

海上。
カタパルトが轟音を上げ、デイダロスの機体を空中に射出する!
耳を圧する大音響が周囲の空間を震わせる!

ブラウザスの周囲に海水と水蒸気の真っ白な、巨大な雲の塊が一気に形成されてゆく…

青空の中へ、真っ白な航跡を引き、上昇してゆくデイダロス。
上空でメインドライブに点火する。

彼方でジェットの炎が噴き上がり、デイダロスが速力を増して空を駆け登って行く…

空中。
大空を悠然と飛行するデイダロス。
どこか猛禽を想わせる鋭角的な姿である…

雲をけ散らしながら徐々に速力を上げて行く。
射出時は閉じられていた翼が、その背に大きく広げられてゆく…

ドライブを全開。機体を翻し、一気に高度を上げるデイダロス。

艦内。
メインモニターに、船外カメラの捉えた超望遠映像が映し出されている。
その映像に見入るドクター・ジャンク。
計器をチェックしていたタバタ、ジャンクを振り返る。

タバタ
「旦那様、デイダロス発進完了でございます。モニタリングによる各部チェックも問題ございません。」

ジャンク
「よし。…(モニターを見つめ)…奴らのメカニックの中で、このデイダロスの機動力に対応できるのは、あの飛行メカニックを置いて他にはないはずだ。…(自信に満ちて)…来る!奴は必ず出てくる!!」

モニターの映像を見つめ、ニヤリと笑うドクター・ジャンク…

タナカ鉄工所。
運河に沿ってたたずむタナカ鉄工所の建物。

いつもは静かな鉄工所の周囲が、今日は何時になく慌ただしい。
上空に4機の超大型ジェットヘリが、先程からエンジンの音を周囲に響かせながら体制を保ったまま静止している。

運河を跨ぐ橋の上では、何人かの人々がこの様子を眺めている。

と、鈍い駆動音が周囲に響き、鉄工所の大屋根がゆっくりと開き始める。
それに合わせ、上空に待機していたジェットヘリが、ゆっくりと高度を下げ始める。

鉄工所。
大屋根が開いた工場内部。黄色いヘルメットを被ったショウイチ、それにゲンザブロウが、鉄工所で組み立てた巨大な橋桁を見つめている。

橋桁の各部にはフックが取り付けられており、上空のジェットヘリが降ろした無数のケーブルを、大勢の作業員達が手際良く接続して行く…

二人の横には、発注者の建設会社重役の姿もある。

重役
「(感嘆して)…素晴らしい。…(ショウイチ達を見て)…全く見事な出来栄えですよ、タナカさん。」

ショウイチ
「(微笑み)…そういって頂けると、こちらも苦労が報われますよ。…しかし、いつ見ても、ジェットヘリでの運搬は…こぅ…なんて言いますか、胸がワクワクしますね。」

重役
「全くです…」

橋桁を見る重役。

無数のケーブルが取り付けられた橋桁は、作業員達が見守る中、ゆっくりと4機の超大型ジェットヘリに釣り下げられて行く…

その光景を見つめる重役、そしてショウイチ…

重役
「…まだ子供の頃でしたか…夢に描いた光景が、こうして目の前で実現されている…素晴らしい事ですな、全く。」

ショウイチ
「本当に…」

橋桁を見上げるショウイチ達…

太鼓橋。
運河を跨ぐ橋の上。近所の人達に混じって、リエがこの光景を眺めている。

超大型ジェットヘリは慎重にタイミングをとりながら、巨大な橋桁を釣り上げ始める。鉄工所の上空に、巨大な空中橋が姿を現わす。

自転車に乗ったトシヒコが来る。
見物人の中にリエの姿を見つける。真剣な表情のトシヒコ。

トシヒコ(心の声)
「…やはりタナカはあのパイロットだ。得られた情況証拠は総て、その結論を指し示している。…だが、確証がない…こうなれば、もう一度、直接揺さぶりを…」

決意を固めた表情でリエに近付くトシヒコ。
釣り下げられた巨大な橋桁に、見物人の間から驚嘆の声が上がる。

その声に、リエは恥じらう様な、しかし何処か自慢気な表情を浮かべながら、この光景を見つめている…


「よっ!」

突然誰かに肩を叩かれるリエ。振り向く。と、そこにはトシヒコの姿。

リエ
「(少し驚き)…ヤマグチ君。」

トシヒコ
「(橋桁の方を見上げ)…凄げぇなぁ…完成したんだ?」

リエ
「(嬉しそうに)ウン!」

二人は欄干にもたれ、この光景を眺める。

トシヒコ
「…いっつもああやって運ぶんだ?」

リエ
「…特に大きなものの時だけね。ウチの工場の前、道路が狭くって。」

トシヒコ
「…そっか。…(決意して)……タナカ、お前さ…」

リエ
「何?」

トシヒコを見るリエ。その澄んだ瞳がトシヒコを見つめる…
思わずその瞳を見つめるトシヒコ。

リエの澄んだ瞳に魅入ってしまう…

しばらくの沈黙。
しかし、トシヒコには永遠に思える様な長さである…

何時しか気持ちが挫けるトシヒコ…

トシヒコ
「……いや…何でもないよ。…いいんだ、大したコトじゃないんだ。」

不思議そうな表情でトシヒコを見るリエ。
再び空中に釣り上げられた巨大な橋桁を見上げるトシヒコ。

初夏の青空の中、空に浮かぶ橋がゆっくりと遠ざかって行く…

その夢の様な光景を見つめるトシヒコ…

トシヒコ(心の声)
「…大したコトじゃない…か……本当はそうかも知れない…タナカがあのパイロットかどうかなんて、本当は大したコトじゃないのかも知れない。…あんなに純粋な奴がそうなら、それが分かっただけでいい………なんかそんな気がする……」

チラと横に並んだリエを見る。
リエはその目を輝かせ、ジェットヘリに釣り下げられた巨大な橋桁を見上げている…

空の橋を見上げるトシヒコ、そしてリエ…


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.09.05 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018