SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(177L)
RE:091
空。
『ジャパン・エアリフトサービス(株)』と機体にマーキングされた4機の超大型ジェットヘリが、タナカ鉄工所で作られた巨大な橋桁を釣り下げたまま、東京の上空を飛行している…

操縦席。
周囲を曲面ガラスで囲まれ、広い視界を持つジェットヘリの操縦席。
初夏の日差しが操縦席内部に眩しく溢れ、絶え間無く響くジェットエンジンの噴射音やコミュニケーション・システムの交信音が、BGMの様に微かに響いている…

雑然とした操縦席。
曲面ガラスのあちこちに、作業指示のメモがテープで貼り付けられている。

サングラスをかけ、交信用のインカムを付けた中年のパイロットが、ガムを噛みながら操縦捍を握っている。

その隣の若い副操縦士、先程からクリップボードに留められた輸送指示書の束を繰っている。

副操縦士
「(書類を見ながら)…タカノさん、このまま東京港に出て第6台場上空で9時方向へコース変更、そのまま海上を直進して木更津の現場です。」

パイロット
「(面倒そうに)…スズキ、一体オレが何回このコース飛んでると思ってんだ、お前は?」

副操縦士
「…はぁ。(不満気に)しかしタカノさん、規定では副操縦士はですねぇ、パイロットに随時飛行コースの情報をですねぇ…」

パイロット
「(遮り)分かった分かった。…ん?」

何気なく見た計器に、パイロットの目が吸い寄せられる。

パイロット
「…そんなコトよりだ(チラと計器を見て)…3号機のシンクロナイザーを修正した方が良さそうだぞ。様子がおかしい。」

副操縦士
「エッ?」

シートの側のモニターを覗き込む。
今まで4分割されてジェットヘリ各機の情報が表示されていたモニター、画面が変わり、進路情報がディスプレイされる。

4機のジェットヘリが模式図で表示されているが、進行方向左側の3号機、進路が徐々にずれ始めている。

3号機操縦席。
自動操縦されている無人の操縦席。
操縦捍やスロットルレバーがシンクロナイザーの信号で自動的に動いている…

シンクロナイザー・コンソールパネル。
シグナルの受信状態を示すパイロットランプ、受信状態の劣化を示して点滅する。
受信不良を警告する赤いシグナルランプが点灯する。

スクリーンに警告メッセージがディスプレイされる。

『E00952 警告:受信不良
 通知情報:シンクロナイザーシグナルが受信できなくなりました
      直ちにシグナル受信環境を調査して下さい
 補足情報:モードが自動操縦に変更されます』

1号機操縦席。
コンソールパネルを操作し、3号機のシンクロナイザーを調整する副操縦士。
しかし、3号機のコントロールが出来ない。

副操縦士
「(つぶやき)ダメだ…(パイロットを振り向き)…3号機のシンクロナイザーが、故障です!…(動揺して)…タカノさん、どうしましょうッ!?」

空中。
3号機の進路が徐々にズレ始める。
橋桁を釣り下げている太いケーブルが引っ張られ、ミシミシと悲鳴の様な音を立てる…

1号機操縦席。
メインモニターに3号機の非同調を示す警告メッセージが表示される。
操縦席内に電子音のアラームが鳴る。

すっかり動揺している副操縦士。
脈絡もなく、コンソールパネルのあちこちのスイッチをいじっている。

副操縦士
「く、くそぉ…」

考えがまとまらなくなっている様子。
意味もなくコンソールのスイッチを調整している…

パイロット
「(副操縦士を見て)スズキ、落ち着けッ!!」

その声にハッとした様にパイロットを見る副操縦士。

パイロット
「…とにかく今は3号機に進路を合わせるしかない。このままじゃ橋桁を街の上に落としちまう。…もう一度、シンクロナイザーをリセットしてみろ。もしかしたらってコトもある。」

副操縦士
「…は、ハイ!」

気を取り直し、リセットスイッチを押す副操縦士。しかし、状況は変わらない…

副操縦士
「(パイロットを見て)…ダメです、回復しません…」

悲痛な表情でパイロットを見る副操縦士。
その様子に決心するパイロット。

パイロット
「やむを得ん、すぐ管制に連絡、緊急事態だ!」

副操縦士
「ハイ!」

コミュニケーションシステムのスイッチを入れ、管制官と交信を始める副操縦士。

空中。
ゆっくりとしたスピードで飛行を続けるジェットヘリ…

太鼓橋。
橋桁を運ぶジェットヘリもとうに飛び去り、見物人達もすっかり引き上げた橋の
上。トシヒコとリエは欄干にもたれ、ぼんやりと空を眺めている…

時折心地よい風が、運河の静かな水面にさざ波を立てる…

遠い景色を眺めながら、トシヒコは何事か考えている様子。
リエはそのトシヒコの様子に気付きながらも、黙っている…

トシヒコ
「(運河の景色を眺めながら)…白状するけどオレさ、ずっと疑ってたんだ…」

トシヒコを見るリエ。

トシヒコ
「…タナカがさ、謎の防衛隊のパイロットなんじゃないかって…」

リエ
「エ?…」

トシヒコ
「…タナカんちへ来たんだって、ここに来ればきっと何か手掛りが掴めるって、そう思ったから…」

覚悟を決めた様な、しかしどこか寂し気な表情でトシヒコを見るリエ…

トシヒコ
「…でも、やっと気づいたんだオレ。(リエを見る。微笑む)タナカと話して…工場見せてもらってさ…オレ、なんか凄いつまんないコトに、一生懸命拘ってたんじゃないかって…」

リエ
「ヤマグチ君…」

トシヒコ
「(おどけて)…けどさ、こんなコト今頃になってやっと分かるなんてさ、オレもおめでたいヤツだよなぁ、つくづく。…(真顔になり)…タナカに一杯嫌な思いさせてさ、それで…自分が満足すればそれでいいのかって考えたら、オレ…」

ふっと視線を外らすトシヒコ…
トシヒコの寂し気な表情を見るリエ、明るく。

リエ
「(微笑み)…気にしてないってば、全然。」

トシヒコ
「…(リエを見て少し驚いた様に)タナカ…(微笑み、救われた様な様子で)タナカ…」

微笑むリエ…

と、リエの腕にはめられたコミュニケーターが突然鳴り出す。
その音に、一瞬リエの表情が固くなる…
リエの様子に、事情を察するトシヒコ。

リエ
「(トシヒコを見て困った様に)…あたし、行かなきゃ…」

トシヒコ
「(極り悪そうに)…えっ?、…あ、ああ。」

リエ
「…じゃ、またね。…(微笑み)…楽しかったわ、とっても…」

小走りに走りだそうとするリエ。
そのリエをトシヒコが呼び止める。

トシヒコ
「タナカ!」

立ち止まり、トシヒコを見るリエ。

トシヒコ
「…(はにかんだ様に微笑み、手を上げる)…頑張れよ!」

リエ
「ヤマグチ君…(微笑み、うなずく)ウン!!」

走り出すリエ…
その表情は何時になく晴れやかである…
橋の上からリエを見送るトシヒコ…

初夏の心地よい風が、橋の上のトシヒコに吹きつけている…


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.09.10 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018