SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(195L)
RE:102
渋谷上空。
コントロールを失った4機の超大型ジェットヘリが、渋谷の街の上をゆっくりと飛行している…

3号機操縦席。
シンクロナイザーがキャンセルされ、オートパイロットで操縦されている無人の操縦席。スロットルレバーがオートパイロットからのシグナルに合わせて時折動いている…

コンソール。
突然コンソールにコントロールコードの列が、凄まじい勢いで映し出される!
オートパイロットが誤動作し、航路の再計算を開始する。

シンクロナイザーの故障した3号機、突然姿勢制御用のバーニアを作動させる!
メインエンジンを全力噴射する3号機!

その機体が大きく進路を変更する!巨大な橋桁を釣り下げる無数のケーブルが、きしむ様な音を立てる…

街の上空で大きく揺れる橋桁…
ビルの上に広がるその影が、大きく振子を打っている…

1号機操縦席。
3号機に引っ張られ、機体に衝撃が走る!
ミシミシと悲鳴を上げる機体!

操縦捍を持って行かれそうになり、パイロットの腕に力が入る。
凄まじい音と共に機体が大きく傾く!
操縦席の中のメモや缶コーヒーの缶、週刊誌が一斉に機体の一方に飛んで行く!

副操縦士
「ウワッ!!…(シートにしがみ付き、パイロットを見て)…タ、タカノさんッ!!」

パイロット
「クッ!!…くそーッ」

必死に操縦捍を握るパイロット。
そのこめかみを汗が流れる…

渋谷駅前。
大勢の人々が空を見上げている。
空を行くジェットヘリと巨大な橋桁を驚きの表情で見上げている。

一機のジェットヘリが突然大きく航路を変更し、他の3機のジェットヘリを引きずり始める!
大きく傾くジェットヘリに、群衆の間からどよめきが起こる。

1号機操縦席。
パイロット、操縦捍を一杯に切り、スロットルレバーを押し込む。
エンジンがフルパワーで噴射し、排気音が異様な高音のうなりを上げる!
凄まじい振動が操縦席を包む!
エアインテーク(吸気口)からエンジン排気が逆流する!

大きく体制を崩した1号機。
機首が大きく傾き、操縦席の曲面ガラス一杯に、渋谷の街がよぎって行く!
操縦席内に映る影が、機体の動きにつれ、異様な速さで動いて行く…

缶コーヒーの缶が、カラカラと音を立てながら、今や下になった正面の曲面ガラスの上を走り、やがて開けられた窓から街の上に落ちて行く…

一瞬、ガラスに反射した太陽の輝きが、パイロットの眼を撃つ!
小刻みに操縦捍を動かし、ペダルを踏み込んでエンジンの噴射バランスを調節するパイロット!
失速を警告するアラームが鳴り響く!

パイロット
「コイツッ!おとなしくしろッ!!」

更にペダルを踏み込むパイロット。
必死に機体を安定させようとする。
うなりをあげるメインエンジン!

と、斜め後ろの2号機、引きずられる様に1号機に接近してくる!
それに気付く副操縦士。

副操縦士
「(2号機の方を見て)タカノさんッ!!」

ハッとして、その声の方を見るパイロット!
2号機の機体が引き寄せられる様に接近してくる!

片側のペダルを思いきり踏み込み、一瞬機体を持ち上げるパイロット!
2号機の機体がその持ち上がった1号機のすぐ下を、まるで波に打ち寄せられた船の様に霞め、機体を擦り付ける!

金属の擦れ合う不快な音が響く!
機体に挟まれ、ケーブルが大きく捻〔ねじ〕れる!

その時、橋桁を支えるケーブルの一本が、不気味な音を立ててちぎれる!!
ガクリとバランスを崩す橋桁!

副操縦士
「ウワーッ!!」

1号機のレーダーアンテナが折れ曲り、火花を吹き上げる!
ちぎれて落下してゆくレーダーアンテナ!
レーダーを折り取りながらも2号機の機体はしかし、やがて離れて行く…

…何とか3号機に進路を同調させる。ようやく体勢を立て直す1号機。
排気音がようやく通常に戻る…

操縦席内にほっとした空気が戻る…
操縦席内に、規則的なエンジン音が低く響いている…
何処かで小さくアラームが鳴っている…

パイロット
「(ほっとして)…ふぅー、危ないところだったぜ。」

思わず手で顔を擦り、汗をぬぐうパイロット。
しかし、その横で副操縦士の顔色は冴えない…

副操縦士
「(不安気に)でも…でも、このままじゃ、残りのケーブルだって長い事もちませんよ…もう一度こんなのが来たら…」

無言で副操縦士を見るパイロット。
断裂したケーブルが風に煽られ、キュルキュルと唸りを上げている…

空。
渋谷の街の上を飛行しているジェットヘリ。
その背後、少し高度をとりながら、ラピッド・スターがゆっくりと接近して来る…

コクピット。
前部操縦席のケンタ、キャノピーガラスにモニターカメラの映像を映し、ジェットヘリの状況を観ている。

ケンタ
「姉ちゃん、マズいゾ!もうあんまり時間がないゼ!」

リエ
「そうね…(コミュニケーターのスイッチを入れ)…こちらリエ!」

ディスプレイに映るゲンザブロウ。

ゲンザブロウ
「どうじゃ、現場の様子は?」

リエ
「…それが、あんまりいい状況じゃないわ。もうケーブルが切れ始めてるわ。それに、4機の内の1機は完全にコントロールを失ってるみたい。今のところ何とかコースを合わせてるけど、このままじゃ、橋桁が街の上に落ちるのも時間の問題よ。」

ゲンザブロウ
「そうか…こちらはたった今、アース・ムーバーが発進したところじゃ。そちらへは後5分程で到着できるじゃろう。…どうじゃ、それまで持ちこたえられそうかの?」

リエ
「分からないわ。今の状態じゃひょっとしたらそれまで保たないかも……」

しばし考えるリエ…

リエ
「(決心して)…下に回り込んで橋桁を支えてみる!」

ゲンザブロウ
「(驚き)バカな真似はよすんじゃッ!!あの橋桁は200t以上の重量がある。ラピッド・スターの推力ではとても支えきれるものではない!やめるんじゃ!!」

リエ
「でも、このままじゃウチの橋桁が街を!」

ゲンザブロウ
「リエ…」

リエ
「お願いお爺ちゃん、あたし達に任せて…」

コクピット。
ドライブシステムの排気音が低く響いているコクピット。
モニターに映るゲンザブロウ、無言で考え込んでいる…

リエ
「(うながす様に)お爺ちゃん…」

モニター。
考え込むゲンザブロウ…

リエ
「…お爺ちゃん?」

モニター。
ゆっくりと顔を上げるゲンザブロウ。

ゲンザブロウ
「…とめた処で…聞く様な子でもないかの…お前は?」

リエ
「お爺ちゃん…(微笑み)…ありがとう、お爺ちゃん!」

ゲンザブロウ
「但し!危険を感じたらすぐに離脱する事、よいな?これは命令じゃぞ。」

リエ
「(真剣な表情で)…ハイ!」

ゲンザブロウ
「リエ…」

モニターのゲンザブロウを見るリエ。微笑む…

顔を上げ、ケンタを見る。真剣な表情のリエ。

リエ
「いいわね、ケンタ?」

リエを振り返るケンタ。

ケンタ
「あったりまえダ!」

リエ
「ケンタ…(微笑み)…ウン!」

操縦捍を倒し、慎重にペダルを踏み込むリエ。
ゆっくりと降下を開始するラピッド・スター…

タナカ鉄工所。
コミュニケーションシステムの前のゲンザブロウ。
と、脇のレーダーモニターに新たな反応。電子音のアラームが鳴る。

ゲンザブロウ
「これは…一体?…」

反応を見つめるゲンザブロウ…

空。
雲海を進む一つの機体…
ドクター・ジャンクのロボット、デイダロスの姿…


〜 つづく 〜

~ 初出:1995.10.21 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1995, 2018