SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(239L)
RE:283
夜…

ミツルの家。

ダイニングキッチン。
薄暗いキッチンのテーブルの上には、一組の食器が置かれている。
ラップをかけられたままの食器…

テーブルの片隅にはボイス・メモのレコーダーが転がっている。
メッセージランプが点滅している…

奥のリビングで、微かにテレビの音が聴こえている…

リビング。
部屋の片隅に転がっているランドセル…

カーペットの上には、学校のテキストや、校章が付いた小型のパーソナル・ターミナル、マンガ本が散らばっている…

テレビの音が聴こえている。

リビングの壁に取り付けられた大型液晶テレビに、ロボットポリスの姿が映し出されている。

画面に見入っているミツル。すっかりテレビに感情移入している…
手にしたクッションを握りしめているミツルの手…

と、キッチンのテレ・コミュニケーション・システムが鳴り出す。
しばらく鳴り続けるターミナル…

画面に見入っていたミツル、その音に我に返る。
テレビに気を取られながらも立ち上り、キッチンへゆく。

キッチン。
鳴り続けているターミナル。

スイッチを入れるミツル。
そのミツルの顔を、ターミナルの画面の輝きがぼんやりと照らし出す…

ミツル
「…はい、タカムラです…」

そのミツルの表情が一瞬、パッと明るくなる。

ミツル
「…ア、お父さんッ!」

ターミナル画面。
スーツ姿の男性。ミツルを見て嬉しそうに微笑んでいる。

ミツルの父
「オ、ミツルかぁ。(嬉しそうに)ヤー、元気そうだなぁ。ン?、お前、またちょっと背が伸びたんじゃないか?…(顔を覗き込む様に)…そうだ、学校は?ちゃんと勉強してるか?」

ミツル
「(少し不満気に)…モー、ちゃんとやってるってバ。(微笑み)…それよりさぁ、いつ帰れるの?」

ミツルの父
「オオ。今日テレコしたのはその事なんだけど…(ミツルの背後を気にする様に)…お母さんは?もう戻ってるか?」

ミツル
「仕事。(視線を外し)残業なんだって…」

寂しげなミツルの表情を気にする父親。

ミツルの父
「…そうか……マ、寂しいかも知れんが、お前もオトコだ。少しは辛抱しなきゃダメだぞ。お母さんだって、一生懸命働いてるんだからな。」

ミツル
「ウン…」

ミツルの父
「(気分を変える様に明るく)…あ、そうだそうだ、肝心なコトを言わなきゃナ。…いいか、驚くなミツル、お父さんなぁ今週末に帰れる事になったゾ。」

ミツル
「(驚き)ホント!?ホントなのお父さん!?」

ミツルの父
「(嬉しそうに)…ああ。東京の本社で会議があってな。一週間ばかり日本に戻れるんだ。土曜日の便でそっちに着く。」

ミツル
「(がっかりした様子で)…なんだ、ずっとこっちにいられるんじゃないんだ…」

ミツルの父
「まぁ、そう言うな。…(思い付き)そうだ。…その替わりって訳じゃないけど、日曜はみんなでどっかへ出かけよう。」

その言葉に顔を輝かせるミツル。

ミツル
「(嬉しそうに)ホント!?絶対だよ!約束だからねッ!」

ミツルの父
「ああ、約束だ。…それじゃぁ、お母さんにはテレコがあったコトを伝えといてくれ。またかけるって。」

ミツル
「ウン!」

ミツルの父
「じゃ、土曜日にな…」

ターミナルの映像が切れる。
嬉しそうなミツル…

夜の海上…

海面すれすれを飛行するラピッド・スター。
メインドライブが、青白い炎を噴き上げている。
噴射が海水を巻き上げ、闇の中で白波が微かに光っている…

時折、翼が銀の月の輝きを映し、キラキラと輝く…

コクピット。
メインドライブの排気音が低く響く機内。

コンソールパネルのイルミネーションが、暗い機内で星の様に瞬いている。
マルチレーダーの探査音が、コクピットの中に規則的な電子音を響かせる…

前部操縦席のケンタ、真剣な表情で、コンソールパネルの主飛行表示計(PFD)を見つめている。

慎重な動作でスロットルレバーを押し、徐々にドライブ出力を上げてゆく…
後部操縦席、ケンタの操縦をモニタリングしているリエ。

リエ
「(ディスプレイを見ながら)…スピードを上げる時には、常にND(航法表示計)の機首方位の変化に気を配って。ラピッド・スターはスピードが早い分、航法制御が難しいわ。」

ケンタ
「(真剣な表情で)リョーカイッ!」

コンソールのND。
訓練用の飛行航路情報が表示されている。

短い電子音と共に、表示情報が更新され、座標を示すディスプレイが表示管の上を走る…

コース上を無難に飛行しているラピッド・スター。

リエ
「…いいわ、その調子。…(顔を上げ)…どうケンタ?通常の飛行はドライブの出力特性さえ掴めれば、機体を安定させるのはそう大変じゃないでしょ?」

リエの言葉に、緊張した表情のケンタ、ようやく表情が緩む。

ケンタ
「ウン。…なんかちょっと自信出てきたゾ、オレ。」

リエ
「(苦笑して)まだまだ。(再びコンソールに視線を落し)…じゃぁ次は飛行パターンを組み合わせてみて。…パターンA-16、D-07、F-02を連続実行後、フォーメーション終了時の回帰航路をR240に設定。…(顔を上げ)…指示を復唱して。」

ケンタ
「(慌てて)ちょ、ちょっと待って、もう一回!」

リエ
「ホラ、気を抜いてちゃダメ。もう一度言うわよ、しっかり覚えて…」

海上を飛行してゆくラピッド・スター…

警視庁。
資料を繰りながら廊下を歩いているオオツカ。
と、そのオオツカを背後から誰かの声が呼び止める。


「警部…」

振り向くオオツカ。そこにはサエキ警視総監の姿が。

オオツカ
「総監…」

サエキ
「…どうかね、捜査の進展は?」

オオツカ
「はぁ…それが…」

サエキ
「…そうか。…どうだろう警部?…少し、つき合ってもらえるかな?」

オオツカ
「(怪訝そうに)…はぁ…」

屋上。
ヘリポート・デッキへ続く警視庁庁舎の屋上。
サエキ総監とオオツカ警部がエレベーターを降りて出てくる。

ゆっくりと前を歩くサエキ。
手摺に手を置き、眼下に広がる夜の街を見下ろす…

サエキ
「(街を見下ろしたまま)…時に警部……君は機械に感情は必要だと思うかね?…」

一瞬、総監の意図が分からず、怪訝そうな顔をするオオツカ。
しかし、次の瞬間、その趣旨に気付き、ハッとした表情を浮かべる…

オオツカ
「…私の部下の事、ですね?…」

サエキ
「(うなづき)…今日、全国の警察幹部を集めて、一連のロボット暴走事件に関する対策検討会議が行われた。…その席上、先日の御茶ノ水の事件に際して、君の部下のとった行動が問題になってな…」

無言でサエキの背中を見るオオツカ…

サエキ
「聞けば、指示されたパトロール・コースを外れていた為に、現場への到着が遅れたとか…」

オオツカ
「(驚き)どこでその様な…」

サエキ
「(振り向き)…オオツカ君、部下を思う君の気持ちは分かるが、君の部下の情報をモニタリングしているのは、君の部署ばかりではないんだよ…」

再び街の夜景に目を転ずるサエキ…

サエキ
「会議では、感情的な意見を吐くものもおってな…この様な状況が今後も起こる様では、警察用ロボットの信頼性を、根底から揺るがす事態に発展しかねない…とな…それに折からのロボット暴走事件だ。警視庁内部の空気も、この件に関しては敏感になっておる…中には感情を持つロボットの必要性を疑問視する声もあってな。ロボットには面倒な感情など与えず、機械に徹す様にすべきだと…」

目を閉じ、じっとサエキの言葉を聞いているオオツカ…

オオツカ
「…必要です。」

サエキ
「(オオツカを見て)…ん?」

オオツカ
「(目を開き、サエキを見る)…彼らに感情は必要です、総監。」

サエキを見据える…

オオツカ
「…彼らは確かに人間の創り出した存在かも知れません。しかし、彼らには自我もあれば、自分を高めて行きたいと思う向上心もある…彼らは日々の経験の中で、常に自分自身を高め、人間を理解しようとしている。確かに時には失敗もし、悩む事もある。しかし、私は、それこそが、警察のロボットに最も必要な要素ではないかと思っています。法を守り、時には人を裁かねばならぬ我々だからこそ、それが必要なのだと…」

オオツカを見るサエキ…
しばし無言で何事か考えている様子。

沈黙が流れる…
やがて重い口を開くサエキ…

サエキ
「…言われる迄もない…」

そのサエキの言葉に、思わず視線を向けるオオツカ…

サエキ
「…思えば私も、君と同じ思いから、彼らに感情を与えたのだからな…(オオツカを見て)…しかしな、オオツカ君。事態は君が思う以上に微妙な局面にある。今はこれ以上事態を悪化させぬ様、充分慎重に行動してくれ給え。…私が今、君に忠告できるのはこれだけだ…」

オオツカ
「総監…」

オオツカを見るサエキ…

サエキ
「…彼らを、守ってやってくれ。…頼む…」

少し視線を伏せ、去って行くサエキ…
そのサエキの後ろ姿を見送るオオツカ…

オオツカ
「総監…」


〜 つづく 〜

~ 初出:1996.06.16 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1996, 2009