SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(147L)
RE:508
東京上空。
真っ青な夏空の下に広がる東京の街…

空には真夏の太陽が容赦なく輝き、巨大な積乱雲が、真っ白な空の城を形作っている…

ナレーション
「西暦2020年8月…その年の東京は、気象庁始まって以来という、記録的な猛暑に見舞われていた…」

自らが吐き出す凄まじい熱気に、ゆらゆらと陽炎の様に揺らめく街…

新宿。
強烈な日差しが降り注いでいる新宿駅西口広場。

駅前広場の上には周囲のビルを見下ろす様に、幾分古びた東京都庁と、その都庁を更に見下ろして、建築中の巨大な超高層ビルが、熱気の中、ゆらゆらと揺らめきながらそびえている…

道を行く人々は空を見上げ、ため息をつきながらハンカチで流れる汗をぬぐう…

街角のインフォメーション・ディスプレイ。
『只今の気温 38.2 度』
の表示が点滅している…

道路をノロノロと行き交う車のフロントガラスが、時折キラリと強烈な反射を見せている…

タナカ鉄工所。
強烈な日差しに照らされている古びた看板…
うるさい程の蝉の鳴き声が、辺りに木霊している。

と、工場からは何やら溶接する音が響いて来る。
工場の中では、ジャッキーに乗ったショウイチが、汗を拭き拭き、鉄骨の溶接をしている。
ジャッキーの手に取り付けられた、大型の電気溶接銃からほとばしる白光が、ほの暗い工場の内部を浮び上がらせる…

しばらく溶接を続けた後、一段落して作業を止めるショウイチ。
首にかけたタオルで、汗をぬぐう。

ショウイチ
「(ため息を付く)ふぅ〜…ウ〜暑い…暑い…暑い〜っ!!しっかし、何でこんなに暑いんだろうか?全く!」

ジャッキーの運転席に付けられた小型の扇風機に、顔をくっ付けんばかりに近付ける。

ショウイチ
「(うんざりした様子で)う〜、熱気ばっかし…」

がっくりとシートに腰を降ろす。

事務所。
入口の軒先に、半分干からびた『釣りしのぶ』がぶら下がっている。
ガラスの風鈴が付いているが、ピクリともしない…

居間。
大小様々な扇風機が3台置かれ、いずれも一番強い風を送っている…
その扇風機に囲まれる様に、ケンタとニャンコがぐったりした様子で畳の上に寝転がっている…

と、汗だくのリエが奥の部屋からヨロヨロとやってくる。

リエ
「う〜、誰かあたしの扇風機知らない?ヒトが昼寝してる間に持ってっちゃうなんて…(扇風機に囲まれて寝ているケンタを見つける)…ああ〜っ!ケンタ、何よ〜っ!!それってあたしの扇風機じゃない!!」

3台の内、一番小型の卓上扇風機に手を伸ばすリエ。
と寝ていたケンタがガバリと起き上がる。

ケンタ
「ダメっ!!」

リエ
「ダメじゃないわよ!これってあたしの扇風機よ!」

ケンタ
「今はオレが使ってんだゾ!」

リエ
「返しなさいってバ!」

ケンタ
「ヤダよ〜ッダ!!(舌を出す)」

リエ
「(ムッとして)…いいわよ、じゃあこっちのッ!!」

一番大型の扇風機にサッと手を伸ばすリエ。扇風機を持ち上げる。

ケンタ
「あ〜っ!何すんだヨ!!」

リエ
「何言ってんのよ、一人で扇風機独占しといて!コレはもらって行きますからネ〜ダ!」

持って行かれてはならじと、コードを引っ張るケンタ。
それを力ずくで振り切ろうとするリエ。

ケンタ
「返せよ〜ッ!…(ニャンコを見て)…ニャンコ、お前も手伝え!姉ちゃんの襲撃から扇風機を守れ!」

ケンタを見て一声鳴くと、ニャンコはリエの前に回る。
頭でリエの脚を押し、リエを押し戻そうとし始めるニャンコ。

リエ
「(足元を見て)あ、ニャンコやめなさいってば!踏んじゃうじゃない!」

ケンタ
「いいぞニャンコ!もっと力入れろッ!」

リエ
「(力を入れながら)…いい加減に…あきらめなさいって!」

姉弟の必死の攻防(?)が続く。

と、その時、額の汗をぬぐいながら、ユキコが居間に入って来る。
戦場と化した居間の状況に、一瞬呆然とする。

しかし、次の瞬間、気を取り直したユキコ。

ユキコ
「何やってんの、アンタ達!!」

驚いてユキコを見る二人。

ユキコ
「暑いんだから、喧嘩なんかしないでよ全く。(悲惨な状況の扇風機を見て)…そんな事したら扇風機壊れちゃうじゃない!」

ケンタ
「(不満気に)姉ちゃんがオレの扇風機盗るんだ!」

リエ
「何言ってんのよ!(ユキコに訴える様に)あたしの扇風機持ってったのよ、ケンタったら!」

ケンタ
「いいから返せよッ!」

リエ
「やめなさいよッ!!」

再びコードを引っ張るケンタ。リエも負けてはならじとこれに対抗する。
再び燃え上がる戦いの炎!

が、この様子に遂にユキコも堪忍袋の緒が切れる!!

ユキコ
「いい加減にしなさいッ!!」

太平洋上。
ドクター・ジャンクの大型潜水母艦、ブラウザスが夏空の下、海面に浮上している。

ジャンクのキャビン。
重厚な木製の大きな飾り机が置かれた部屋。

壁面一杯に作り付けられた本棚には、古びた本が一杯に詰まっている。
床と言わず机と言わずあちこちに、積み上げられた本の山が出来ている…

と、ドアが開き、ジャンクが鼻歌混じりでキャビンに入って来る。

机の上のガラクタを払い除けて場所を作ると、小脇に抱えていた手帳程の通信ターミナルを机の上に置く。

スイッチを入れると、蓋がゆっくりと開きながら、両側にシャキッと小型のステレオスピーカーが飛び出す。透明のスクリーンが起き上がり、アンテナが伸びる。

鼻歌を唄いながら、御機嫌な様子でターミナルのキーボードを叩くジャンク…

ターミナルのディスプレイに、衛星から見た島の画像が映し出される…


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.07.31 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018