SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(176L)
RE:725
空。
雲海の上、真夏の太陽が照りつける青空の中を進むラピッド・スター。

コクピット。
眼下に広がる一面の白い雲海。雲が次々に現われては後ろへ飛び去って行く…
前部操縦席のケンタがリエを振り返る。

ケンタ
「…正面からぶつかってもダメだ。姉ちゃん、作戦を考えようゼ。」

リエ
「(うなずく)…ウン。…(考える)…まずロボットの本体とあの『取巻き』達を分離させる事を考えましょ。…今残ってる装備は?」

ケンタ
「ちょっと待って。…(操縦席に向い、コンソールパネルを操作して、確認する)…救援用複合信号ロケットが1発、発光弾が10発、それに消火弾。」

リエ
「それだけ?」

ケンタ
「(再度コンソールパネルで確認する)…それだけ。」

リエ
「(ため息をつく)フ〜ッ、大した物量作戦ね。……ん?…信号ロケットか…(考える)…(顔を輝かせ)そうだ!イイ事思い付いた。」

ケンタ
「えっ!?何?」

思わずリエを振り返るケンタ。ケンタを見て得意気に微笑むリエ…

リエ
「…ヘヘエ、イイ事…」

ヴォルカティック操縦席。
操縦席のタバタ。正面のモニターに地表温度の測定状況が表示されている。

ヴォルカティック本体の直下では、既に地表温度が47度を表示している。
その表示に満足気なタバタ。

タバタ
「既に、暑さに耐えられなくなった方々は、周辺の市街へ避難を開始なさったご様子でございます。もうしばらくで、この都心部は無人になるでございます。そうなれば東京は私のものでございますッ。」

と、脇のレーダーモニターが、何物かの接近を警告してアラームをあげる。

レーダースクリーンに刻々と、ヴォルカティックに接近してくる反応がディスプレイされている。

タバタ
「(ニヤリとして)…またおいでになりましたね。しかし、何度おいでになろうと無駄と言うものでございます。」

尚も接近を続ける反応…

と、突然、外部の状況を映していたモニターの映像が真っ白になる!
次々に消えてしまうモニター。

ヴォルカティックの機体のすぐ周辺で、凄まじいばかりの輝きが次々に起こる!

タバタ
「うわっ!何でございますか、この光は!…(次々に映像の消える外部モニターを見て)…何と!外部カメラの撮像管が焼けてしまったでございますッ!」

レーダーモニターを見るタバタ。

タバタ
「…何をお考えになっておられるのです?…(ニヤリと笑う)…しかし…そんな事をなさっても無駄でございます。こちらには優秀なレーダーがございます。…こうなれば、排熱ポッド達に集中攻撃させて、こんなイタズラをなさるお客様には消えて頂きますッ!」

コンソールパネルを操作し、総てのポッドをラピッド・スターに向わせるタバタ。
脇のディスプレイには、温度低下を警告するメッセージが表示される。

タバタ
「(ディスプレイを見て)…分かっておりますよ!しかし今度ばかりはこちらが優先でございますッ!」

空中。
ラピッド・スターが直進して来る。
その機体下面のハッチが開き、小型のロケットが現われる。

コクピット。
操縦席のレーダーモニターを見ているリエ。

ヴォルカティックを取り巻く排熱ポッド達の体勢が崩れ、総てのポッドがラピッド・スターに向い始める…

その様子を見て笑みを浮かべるリエ。

リエ
「(嬉し気に)発光弾、成功よ!…(ケンタを見て)…アイツ相当頭に来たみたいだわ。全部の『取巻き』で一斉攻撃を仕掛けて来るわ!」

コンソールパネルからロケットの調整をしていたケンタ、リエを振り返る。

ケンタ
「こっちも準備完了だゼ!」

リエ
「(うなずく)…いいわね、合図したらロケットを取巻き達の中心に向って発進させて。こっちは同時にドライブ出力をサイレンス・モードまで落して高度を一気に下げるわ。」

ケンタ
「分かった。ロケットはラピッド・スターと同じ信号を、倍の出力で発信する様に調整したからネ。」

リエ
「うまく操縦するのよ。すぐに撃墜されたんじゃ、イミないんだから。」

ケンタ
「まかせとけって!」

リエ
「行くわよッ!」

ケンタ
「ウン!……ロケット発射!!」

発射ボタンを押すケンタ。
ラピッド・スターの下面、ロケットを固定していた金具が外れ、ロケットが空中にガクリと下がる。次の瞬間、噴射口から白煙を噴き出すロケット。発進する!

ケンタ
「(リエを振り返り)…姉ちゃん、今だッ!!」

リエ
「(うなずく)…ドライビング・モード、サイレンス!」

操縦席左側のモードチェンジ・レバーを引き、コンソールの幾つかのスイッチを切る。エンジン出力がガックリと落ち、ラピッド・スターは半ば失速した様に、機首を下に向け、急降下を始める。

周囲の雲が凄い勢いで下から上に向って流れる。

コクピットの中では先程まで絶え間なく響いていたエンジンの排気音が殆ど無音になり、機体がキュルキュルと風を切る音が、どこからか響いて来る…

空。
低く垂れこめた雲を突き抜けて降下して来るラピッド・スター。

リエは操縦捍を巧みに操り、失速状態だった機体を立て直す。
空中に静止する。

そのすぐ足元には、炎熱に揺らめく東京の街が広がっている…

リエ
「…ここまで下がればいいわ。(ケンタを見て)…どう、ケンタ?ちゃんと操縦してる?」

ケンタ
「オレにまかせとけって!順調順調!」

小型のコントローラーを操るケンタ。
キャノピーガラスのスクリーンには、ロケットのカメラが捉えた映像が表示され
ている…

レーダーモニターで様子を見ているリエ。

スクリーンでは、信号ロケットがラピッド・スターの識別シグナルを発進しながらヴォルカティックに接近し続けている。

そのロケットを追って、排熱ポッドが一斉にロケットに向う…

リエ
「うまくいった!取巻き達、ロケットをラピッド・スターだと思って一斉に追跡し始めたわ!」

ケンタ
「いいぞ…このままついて来い…」

空中。
白煙を引きながら、信号ロケットが空を行く。

その背後、十数機の排熱ポッドがロケットを追跡している。
ロケットに向って一斉にビーム攻撃を開始するポッド!

コクピット。

ケンタ
「攻撃して来たッ!」

リエ
「スピードを上げて高度を取って!奴等を出来るだけロボットと引き離すのよッ!」

ヴォルカティック操縦席。
レーダーモニターを見ているタバタ。

モニターではラピッド・スターの反応を追って、総てのポッドの反応がすぐ後ろに迫っている。

その様子に満足気な表情を浮かべるタバタ。

タバタ
「…少しばかりイタズラが過ぎた様でございますね。こうなっては最早、ポッド達から逃げる事は出来ませんでございます…」

ラピッド・スターコクピット。
レーダーモニターを見ているリエ。

ロケットの反応は今や東京湾を越え、太平洋上に進みつつあった…
その様子を見ながら祈る様につぶやくリエ…

リエ
「お願い…遠くへ…もっと遠くへ…」

真剣な表情でロケットを操縦するケンタ。
モニターにはポッドの発射するビームが雨の様に降り注いでいる…

ヴォルカティック操縦席。
タバタもまた、レーダーモニターを見つめている。満足気な表情。

タバタ
「最早、これまででございますッ!」

その瞬間、レーダーのラピッド・スターの反応が消える!

タバタ
「(にっこりと)…どうやらとどめを刺した様でございます。」


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.09.18 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018