SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(188L)
RE:302
夜。
警視庁。

周囲の街路灯や夜間照明に浮び上がる警視庁の庁舎。
その殆どの窓には、まだ皓皓と明りが点っている。

と、駐車場に大型のトレーラートラックが、パトカーに先導されて入って来る。
最初の一台にはワンディムとサーディーが乗り、後続の一台には破損したトゥースが乗せられている。

駐車場で停車するトラック。
ワンディム達の乗ったトラックの車体後部から渡り板が地面に伸び、それに合わせてトラックのデッキが傾斜する。

機体固定用フックを外し、トラックから降りるワンディム、サーディー。
トレーラーのデッキに横たえられたトゥースの側に寄る。

トゥースの機体には整備員がデータバックアップ用のケーブルを取り付けている。
ワンディムを見るトゥース。

トゥース
「済みませんワンディム、折角のチャンスを…」

ワンディム
「気にするな。あそこまで追い詰めたんだ、チャンスはきっとまた来る。それより今は一刻も早く修理を受ける事だぞ。」

トゥース
「はぁ…」

パトカーから降りたオオツカとイマイズミが来る。

オオツカ
「(ワンディムを見上げ)ワンディムとサーディーはメンテナンス・ドックへ。すぐに整備を受けてくれ。」

ワンディム
「分かりました。」

オオツカ
「(うなずき、トゥースを見る)それからトゥースは、アクティブスキャナのデータをバックアップしたら、このままロボティックの工場へ行って貰う。その様子じゃ、ここでの修理は難しそうだからな。」

トゥース
「(元気なく)分かりました…」

オオツカ
「(トゥースの様子に気付き)ん?…(明るく)なぁに心配するな、工場の方じゃお前達の生みの親、エドランド博士もスタンバイして下さってるそうだ。大丈夫、すぐに元通りになるさ。」

トゥース
「ハイ。」

と、オオツカの側に整備員が駆け寄る。

整備員
「警部、トゥースのスキャンデータ、バックアップ完了しました。」

オオツカ
「(うなずき、トレーラーの運転席の方を見て)よし、行ってくれ!」

走り出すトレーラー。
それを見送るオオツカとワンディム達。

と、オオツカの脇にいたイマイズミ、チラと腕時計を見る。

イマイズミ
「あの、そろそろ時間でスが…」

オオツカ
「ああ。(ワンディム達を見上げ)…じゃ、我々はキャムロン監督のところへ行ってくる。監督の20年前の作品と言う奴、どうやら余程の因縁がありそうだからな。」

ワンディム
「(うなずき)私もそう思います。それに…もしかしたら、ドクター・ジャンクの正体に迫れるかも知れません。」

オオツカ
「(うなずく)そうだな……じゃ、行ってくる。」

ワンディム
「お気を付けて。」

先に乗り込んでいるイマイズミに続き、パトカーに乗り込むオオツカ。
駐車場を出て行くパトカー…

タナカ鉄工所。
鉄工所の事務所。

事務所の片隅にある古ぼけたソファーでは、待ちくたびれたケンタがニャンコを抱きながら、うつらうつらしている。

天井の蛍光灯が消され、暗くなった事務所の中、事務所の片隅では、事務机の卓上スタンドの明りを付けて、リエがまんじりともせず何か考え込んでいる…

奥の居間からユキコが湯気の立つカップを盆に乗せてやって来る。

ケンタの様子に気付くと、盆を居間の隅、事務所へ降りる縁に置き、居間の奥か
ら毛布を持ってくる。

サンダルを履き、事務所のソファー、眠っているケンタにそっと毛布をかけてやる。

盆を取り、リエの側へ来るユキコ。そっとカップをリエの側に置く。

卓上スタンドの光に照らし出され、カップから立ち上る白い湯気が、周囲の暗が
りの中に浮び上がる…

ユキコ
「(微笑み)…まだ怒ってるの?…」

リエ
「(ユキコを見て)…ねえ、お母さん、お爺ちゃん何を警戒してるの?私達、今迄だって、ジャンクのロボットをやっつけて来たじゃない。なのに……何で今度のロボットをそんなに警戒するの?…このまま…このままロボットの好きにさせて置くなんて、あたし……(頬を涙が流れる)悔しい…」

ユキコ
「リエ……」

泣き出すリエの隣りに椅子を引き寄せ、腰を降ろすユキコ。
カップの一つをゆっくりと口に運ぶ。

ユキコ
「…まだお爺ちゃんとお父さんがウィーンにいた頃の事だから、お母さんもあんまり詳しい事は分からないんだけどね。あのロボットは、ジャンクが今みたいな事をする、きっかけになったロボットなんですって…」

リエ
「きっかけ…」

ユキコ
「(うなずく)…あのロボットはその頃、すごく注目されてたらしいの。それまでのロボットとは全然違う、人間みたいな動きができるロボットだったんですって。それに、凄い威力の武器も一杯積んでた。…でも、操縦系統のシステムに原因不明の問題があって、それが解決出来ずに事故を起こした…それをきっかけにして、開発者の博士は姿を消したそうよ…」

リエ
「それじゃぁ…」

ユキコ
「そう。そんな因縁のあるロボットをわざわざ持ち出して来たんですもの、お爺ちゃんだって慎重になるわよ。」

リエ
「…でも、だからって私達がこうしてたんじゃ。」

ユキコ
「…そうね。リエの言うのも分かるわ。…(微笑み)けど、無茶するばっかりが私達の役目じゃないでしょ?」

リエ
「(うつむく)…………」

ランド・チャレンジャー操縦席。
ショウイチがモニターに向い、コミュニケーション・システムでシュトゥルムの記録を検索している。

ディスプレイに次々に情報が表示されるが、どうやら目的の情報は見つからない様子。ため息をつくショウイチ。

ショウイチ
「…ダメだ、ここにもない…おかしい、あれだけのロボットだ、記録が保存されていない訳は…」

ゲンザブロウが入ってくる。

ゲンザブロウ
「どうじゃな?」

ショウイチ
「(振り返り)あ、お父さん。…それが、さっきからずっとアカデミーのアーカイブに照会してるんですが、ないんですよ、記録が。」

ゲンザブロウ
「そうか…どうやら、遅かった様じゃな…」

ショウイチ
「(ハッとして)…それじゃ、まさか!?」

ゲンザブロウ
「ジャンクの奴、アーカイブから自分に関する総ての記録を消しておるんじゃろう……これを…使いなさい。」

古びたノートを差し出すゲンザブロウ。

受取りページを繰るショウイチ。
何ページにも渡って、びっしりと細かい字で埋め尽くされたノート。

時々ロボットの一部が図に描かれている…

ショウイチ
「(驚いて)お父さん、これ?…」

ゲンザブロウ
「当時ワシがシュトゥルムの機能を想定したメモじゃ。(自慢気に)この間の胸のビームは当っとったからな、そう捨てたモンでもないと思うがの?」

ショウイチ
「お父さん…(明るく)ハイ!!」

なぎさシティ。
臨海副都心、なぎさシティ。その広いメインストリートを走るパトカー。

パトカー車内。
運転しているイマイズミと助手席のオオツカ。

前方に一際豪華な高層ホテルが見えて来る。

イマイズミ
「ア、見えて来ましたよ。…いやぁ、凄い立派なホテルでスね。」

その声に、身体を乗り出し、フロントガラス越しにホテルの建物を仰ぎ見るオオツカ。

オオツカ
「…ああ、あの最上階のペントハウスだそうだ。」

イマイズミ
「…一体、一泊いくら位するのかナぁ?ね、警部?」

オオツカ
「考えん方が良いぞ。確実に我々の月収以上だろうからな…」

イマイズミ
「(夢を壊され)う…」

ホテル付近の道路。
道端にパトカーが止まる。中から降りるオオツカ。

オオツカ
「じゃ、君は此処で待機していてくれ。ホテルの正面にパトカーで乗り付けるのも気がひけるからな。」

イマイズミ
「分かりました。…何かあったら連絡して下さい。」

オオツカ
「ああ。」

ドアを閉め、そびえ立つホテルの建物を見上げるオオツカ。
夜間照明を受け、ホテルの建物が闇の中にキラキラと輝いている…


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.12.04 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018