SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(162L)
RE:NON
西暦2000年6月。
オーストリア、ウィーン。

初夏の日差しがまぶしい石畳の舗道。
道端のカフェテリアにキャムロン、ガーツ、それにアサートンの姿。
道行く人々をぼんやりと眺めている。

キャムロン(声)
「それから3日が過ぎましたが、ドクター・ウォルフシュタインからは何の連絡もありませんでした…予定の詰まっていた我々は、明日にはウィーンを立たねばなりません。私の心は何とも言い様のない無念さで一杯でした…」

ガーツ
「(がっかりした様子で)…やはり…ダメだったのかなぁ…」

キャムロンを見るガーツ。
キャムロンは腕組みをしたまま、じっと舗道の方を見つめている…

アサートン
「(なぐさめる様に)まぁ、天才の常という奴で、相当の変わり者ですからな、ドクター・ウォルフシュタインは…(微笑み)…私なら喜んで飛びつくハナシですがねぇ…」

ガーツ
「(にっこりと)そうでしょうなぁ。」

思わずガーツの顔を見るアサートン。
それには気付かずカップのコーヒーを飲むガーツ。

と、背後から小さなベルの音が聴こえてくる。振り向くアサートン。

見るとベルのついた小さなプラカードを持ったウェイターが、コミュニケーションシステムの通話ターミナルを持って辺りを歩いている。

プラカードにクリップで紙が留められており、そこに『Mr. Camron』と書かれている。

アサートン
「(ウェイターを見て)…君。」

ウェイター来る。アサートンに通話ターミナルを手渡す。

ウェイター
「キャムロン様でいらっしゃいますか?ウォルフシュタイン様からご連絡が入っておりますが…」

アサートン
「ありがとう…(キャムロンを見て)…さぁ、貴方にですよ!」

ターミナルをキャムロンに渡すアサートン。

通話ボタンを押すキャムロン。カチャリと小さな音を立て、受話器に格納されていた小型の液晶モニターが飛び出す。

画面に映るウォルフシュタイン。

キャムロン
「ドクター…」

しかし、次の言葉が出てこないキャムロン。しばしの沈黙。

ウォルフシュタイン
「(うなづき)…ご協力致しますよ、ミスター・キャムロン。シュトゥルムを、お使い下さい…(微笑む)」

キャムロンの表情が俄に輝く。

キャムロン
「(感激して)…ありがとうございます、ドクター!」

感激してウォルフシュタインと話すキャムロン。
そのキャムロンの肩をガーツが力一杯叩く。

喜び合うキャムロンとガーツ。

キャムロン(声)
「…全く信じられない気分でした。ドクター・ウォルフシュタインは、私の為に協力してくれるというのです。やっと、本当にやっと、私の夢が実現できる。私はその素晴らしい光景を思い描き、すっかり有頂天になっていました…」

森林地帯。
一面に広がる針葉樹林。その上空を1機のジェットヘリが飛ぶ。

機内。
シートに座ったアサートン、キャムロン、ガーツ。
皆窓から眼下に広がる森林を眺めている。

アサートン
「さぁ、見えて来ましたよ。あれがドクター・ウォルフシュタインの研究施設です。」

針葉樹林の中が不意に開けており、その部分だけ綺麗に舗装されている。
丁度滑走路の様な雰囲気である。

ゆっくりと着陸するジェットヘリ。降り立つ3人。

と、樹々の間からウォルフシュタインが姿を現わす。

ウォルフシュタイン
「(にこやかに)ようこそ、ミスター・キャムロン。」

握手するキャムロンとウォルフシュタイン。

キャムロン
「ドクター、本当にありがとうございます。これでやっと、私の夢が叶います。」

ウォルフシュタイン
「(微笑み)貴方の『青銅の巨人』に対する情熱。その情熱が私を動かしたのですよ…(一同を促し)…さぁ、どうぞこちらへ。シュトゥルムをお見せします。」

歩き出す一同…

格納庫。
薄暗い格納庫。その中に入って来る一同。

見上げるキャムロン。
その目が何かに釘付けになる。
目を輝かせるキャムロン。

キャムロン
「青銅の…巨人…(感無量の表情でウォルフシュタインを見る)…凄い、凄いですドクター!…これです、まさにこのシュトゥルムこそ私が捜していたロボットです!…(ウォルフシュタインの手を握り)…有難う、本当に有難うございますドクター。」

薄暗い格納庫の中、シュトゥルムがその機体を鈍く輝かせながら佇んでいる…

1カ月後。
アメリカ合衆国、ロスアンジェルス近郊。

撮影現場。
シュトゥルムが陽の光を受け、立っている。

市街地のメインストリートを使っての大掛かりな撮影である。
ディレクターズ・チェアに腰を降ろしたキャムロン、感激の面持でシュトゥルムを見上げる。

そのキャムロンにガーツが声を掛ける。

ガーツ
「(キャムロンの肩に手を置き)…いよいよだな、スティーブン。」

キャムロン
「…ああ。…(自分に言い聞かせる様に)…始まった…始まったんだ、オレの夢が遂に…」

キャムロン(声)
「ドクター・ウォルフシュタインと会ってから1カ月後、私達はロスアンジェルス近郊の市街地で、遂に『ロボットの地平』の撮影に取り掛かっていました。遂に実現した永年の夢に、当時の私は興奮していました。そして、シュトゥルムはこの日の為に、オーストリアの研究施設から海路アメリカへと運ばれ、特に訓練を受けた航空機メーカーのテストパイロットが乗り込んでいたのです…」

シュトゥルムコクピット。
操縦席のパイロット。その眼前に広がる視野270度の亜全周スクリーン。

計器をチェックしているパイロット。
パイロットのヘルメットに付けられたゴーグルを通して、パイロットの視線のままに、スクリーンのサブ映像がズームされる。

別のサブ映像にチェックモニターが映り、オートマチックで機体のチェックが行われて行く…

パイロット
「何度乗っても驚かされるぜ、コイツには…あのウォルフシュタイン、やはり天才か?」

腕をゆっくりと動かす。
操縦席の周囲で、パイロットの動きに合わせ、その周囲で幾つも、センサーの並んだヘッドがゆっくりと移動する。ヘッドのLEDがチカチカと瞬く。

パイロットと全く同じ腕の動きをするシュトゥルム。
パイロットの身体をスキャンするセンサー。

指を動かすパイロット。
シュトゥルムの指が、まるで人間の様に滑らかに動いて行く。

満足気にスクリーンに映るシュトゥルムの指を眺めるパイロット。
だが、ふと見ると、シュトゥルムの右の小指が、不思議な方向を向いているのに気付く。

パイロット
「ん?」

もう一度指を動かすパイロット。

まるで思い出したかの様に、シュトゥルムの小指も、パイロットの指と同じ動きをする。

パイロット
「…何だったんだ、一体?」

と、コミュニケーション・システムからキャムロンの声。
スクリーンにサブ映像が開き、キャムロンが映る。

キャムロン
「それでは本番行くぞ!準備いいな?」

パイロット
「了解!」

撮影現場。

キャムロン
「カメラ!…アクション!」

一斉にカメラが撮影を開始、ゆっくりと動き出すシュトゥルム…


〜 つづく 〜

~ 初出:1994.12.18 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1994, 2018